海外ビッグネームに、躍進する若手。時代の変革期にあるラグビートップリーグ2021を見逃すな

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今季のジャパンラグビートップリーグ(TL)は多くの海外スーパースターを迎え、さらに常識破りの若手が躍動して近年にない魅力的なシーズンを展開している。2022年からの新リーグ発足を控えて変革期にある日本のラグビーシーン、その背景にある事情を解説する。

ジャパンラグビートップリーグが開幕して1カ月が過ぎた。

本来なら1月16日に開幕する予定だったが、コロナ感染拡大の影響で約1カ月延期され、フォーマットを変えて仕切り直しの開幕を迎えたのが2月20日。入場制限でチケット枚数は抑えられ、声を出しての応援も試合前後の選手とのふれあいもNGという厳しい規制がかけられているが、どの会場にも熱心なファンが足を運んでいる。

ワールドカップ明けの昨年のトップリーグはわずか6節でコロナにより中断し、そのままシーズン打ち切り。トップレベルのラグビーに飢えていたファンは開幕を待ちわびていたのだ。

すでに激しいチケット争奪戦が起きているほど人気が高いもう一つの理由は、今季新たに参戦した海外のビッグネームたちの存在だ。

世界最優秀選手を2016年、17年の2度にわたって受賞したニュージーランド代表オールブラックスの現役司令塔ボーデン・バレット(29)がサントリーへ、タックルしてそのままボールを奪い取る「ジャッカル」で世界最高の名手と呼ばれ、オーストラリア代表105キャップを持つフランカーのマイケル・フーパー(29)がトヨタ自動車へ、19年ワールドカップ日本大会を制した南アフリカで最多の6トライをあげ優勝の原動力となったウイングのマカゾレ・マピンピ(30)がNTTドコモへ……。彼らに共通するのは30歳前後という、選手としての絶頂期に来日したことだ。

サントリーでもキッカーを務めるボーデン・バレットは、第4節終了時点で76点と得点ランキングトップ 写真:大友信彦
サントリーでもキッカーを務めるボーデン・バレットは、第4節終了時点で76点と得点ランキングトップ 写真:大友信彦

現役バリバリのビッグネームがTLに参戦する理由

これまでも、世界ラグビーのビッグネームは数多く来日したが、その多くは自国での代表キャリアを終え、競技生活最後の地に「治安の良い・安心して子育てできる・ラグビーもそこそこ楽しめる・稼げる」日本を選んだ——という構図だった。

今季、絶頂期の選手たちがこぞって来日した背景にはコロナ禍がある。世界各国でリーグが停止あるいは無観客催行に追い込まれ、どこの国の協会もクラブも収益は悪化。報酬カットのニュースも多い。そんなとき、競技収益を前提にせずに運営している日本のトップリーグに期間限定で「出稼ぎ」することは、選手のみならず彼らの所属協会にとってもクラブにとってもありがたいこと。

しかも今季のトップリーグは、来年1月に予定される新リーグ発足に向け、事前のディビジョン分けで高い評価を得るため、編成にテコ入れするチームが続出している。その結果、日本のファンには世界のトップ選手を目の前で見られる大大チャンスが到来。ここは楽しまなければ損だ。

……という状況で始まった今季のトップリーグは、3月21日までに序盤の4節が終了した。4連勝でスタートしたのはレッドカンファレンスのサントリー、トヨタ自動車とクボタに、ホワイトカンファレンスの神戸製鋼とパナソニック。これに3勝1敗でNTTドコモ(ホワイトカンファレンス)が続く。

サントリーと神戸製鋼、パナソニックはもちろん、トヨタ自動車も優勝争いの常連だ。クボタも2003年のトップリーグ創設時からのメンバーで、日本代表や南アフリカなど海外のトップ選手も旺盛に補強しており全勝は驚くに当たらない。

チームを変えた現役オールブラックスの闘争心

異彩を放つのはNTTドコモだ。ドコモは2011年にトップリーグ初昇格を果たしながら、14年、16年、18年に下部リーグ降格を経験した、典型的な「エレベーター(昇降格を繰り返す)チーム」だった。

そんなチームを開幕3連勝に導いたのは、こちらも新規来日の現役オールブラックスSH、TJ・ペレナラ(28)だ。いずれ劣らぬキャリアを誇る新加入トップスターたちの中でも、チームへの貢献度、とりわけ前年までの成績を一気に引き上げた点ではペレナラがダントツだ。

オーバーアクション気味なジェスチャーと言葉で味方を鼓舞し、同時にレフェリーへもアピールしつつ、アタックでもディフェンスでもあらゆる局面で発揮される仕事量の多さ、存在感は他を圧する。

これまでは上位チームに名前負けしていたドコモの選手たちもペレナラの自信と闘争心に引っ張られ、勝てると信じて試合に臨んだ結果が開幕のキヤノン戦の劇的勝利であり、その勝利で得た自信が開幕3連勝につながった。トップリーグ2021序盤戦のMVP候補は数あれど、「チームを変えた度」でいえばペレナラがナンバーワンだ。

かように世界のトップ選手が共演するトップリーグだが、今季のもうひとつの特徴は、国産の若手選手、大学ラグビーの4年間を経由せずにトップリーグに身を投じた選手たちの躍動ぶりだ。

日本ラグビーの常識を打ち破る若きプレーヤー

リコーのCTB/FBメイン平は宮崎県生まれの20歳。奈良県の御所実高に進んで高校日本代表を経験したあと、父の母国ニュージーランドに渡って2シーズンプレー。父がNZ人であるメインにはオールブラックス入りの資格もあり、現地のクラブから国内選手権マイター10に出場するノースハーバー代表、そしてスーパーラグビーというステップアップを目指していた。しかし、そのNZでの挑戦中に目撃してしまったのが2019年ワールドカップでの日本代表の躍進だった。自分が生まれ育った日本の代表になりたいという思いが湧き上がった。

そしてNZでの2年目、2020年にはコロナ禍の影響もあり、NZのシーズンが打ち切られたところでリコーからのオファーを得て帰国すると、ルーキーながらトップリーグ開幕のパナソニック戦に途中出場。2戦目からは先発に昇格し、強気にステップを切って前進するアグレッシブなランニング、キックも交えて勝負する積極性で、試合ごとに必ずスタンドを沸かせている。

高校→大学→トップリーグという日本ラグビー界の慣例を打ち破って活躍するメイン平 写真:大友信彦
高校→大学→トップリーグという日本ラグビー界の慣例を打ち破って活躍するメイン平 写真:大友信彦

神戸製鋼のSO李承信(リ・スンシン)はメインと同じ20歳。大阪朝高から帝京大に進学、1年目から公式戦に出場し、2年目にはレベルアップを期してNZへの留学を計画していたが、コロナ禍によって留学が立ち消えに。そこで選んだのが、より高いレベルを経験できる神戸製鋼の一員になることだった。

李も開幕戦に途中出場。3月14日のリコー戦では後半29分に決勝点となる逆転PGを成功させ、勝利の立役者になった。この試合では同学年で高校時代からライバルだったメイン平とピッチ上でマッチアップする場面も見られた。大卒選手が9割以上を占めるトップリーグで、20歳と20歳が公式戦のピッチで対峙したのはおそらく初の快挙だろう。

ほかにもパナソニックのFW福井翔大は東福岡高から直接パナソニックに入って3年目の21歳。宗像サニックスのSH藤井達哉は東海大福岡高を卒業後にNZ留学を経て入団2年目の21歳。各チームが積極的に彼ら若手を起用し、成長させている。

世界のビッグスターと未来の日本代表を背負う若手が同じフィールドで躍動するトップリーグ2021。16チ-ムが2カンファレンス(組)に分かれて総当たりを行うリーグ戦は4月11日まで。17日からは下部リーグトップチャレンジの上位4チームも加えたノックアウトトーナメントが始まり、決勝は5月23日。そこで最高のパフォーマンスを発揮するため、各チームは1試合も無駄にできない。

チケットを手に入れた幸運な方は、大声を出せないスタジアムで、選手たちの躍動と体のぶつかる音、試合中の声のコミュニケーション、そして試合を重ねるごとの成長を堪能していただきたい。静かなスタジアムにはいつもと違う魅力がある。

バナー写真:NTTドコモを躍進に導いた立役者にして、現役ニュージーランド代表のSH、TJ・ペレナラ(SportsPressJP/アフロ)

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