「電通若者研究部」が分析するZ世代の実像

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電通には「電通若者研究部」、通称「ワカモン」というユニークなネーミングの部署がある。ワカモンは世の流行やトレンドを生み出す若者の嗜好(しこう)・行動をつぶさに観察・研究し、情報発信している。最近では、「Z世代」とも呼ばれる新たな価値観を持つ若者たち、彼らに関するデータは、さまざまな企業で事業開発に活用されたり、新卒採用に活かされたりするなど、各方面に多大な影響を与えている。そこで今、新たなトレンドを生み出している「Z世代」とは、どんな世代なのか、電通若者研究部の用丸雅也氏に話を聞いた。

用丸 雅也 YŌMARU Masaya

2017年、東京大学法学部卒業後、電通に新卒入社。電通Future Creative Centerのメンバーとして、表現開発のみならず、サービス・事業開発にクリエイティビティを拡張することに軸足を置いている。「若者から諦めるをなくす」という個人としてのミッションを形にすべく、電通若者研究部 としても活動。受賞歴にADFEST PR部門ゴールド、PR AWARDS ASIAゴールドなど

若者は半歩先の未来

「約10年前、社内のシンクタンク機能として電通若者研究部、ワカモンが誕生しました。若者は、『最初に新しくなる人』であり『もっとも未来に近い人』であるという点に着目し、若者の実態を把握することで、半歩先の未来を考察したい。それが設立の動機です。これまでワカモンは、弊社の本業である広告業はもちろん、多くの企業のプロダクト開発や事業開発にまでつながる知見を得てきました」

こう語るのは、電通若者研究部のプランナーでコピーライターの用丸雅也氏だ。ワカモンには新卒から入社約20年目まで、幅広い年齢層の社員が在籍する。メンバーはそれぞれに本籍の所属部署があり、「バーチャル部署」のワカモンで協業する形態を採っている。

「いろいろな部署の人たちがいるので、ワカモンで得た知見を自分の部署に持ち帰り、本業に役立てています。調査データは定期的に社内で共有し、書籍や外部メディアへの寄稿、自社メディア『電通報』でのコンテンツ配信を通じて、社外への情報発信にも取り組んでいます」

定量と定性を組み合わせた調査を実施

「Z世代」とは、もともと米国で生まれた言葉で、1960年から1974年生まれをX世代、1975から1990年代前半生まれをY世代と定義した流れから、1990年代後半から2000年代前半生まれをZ世代と名付けた。生まれた時からインターネットが社会に広く浸透していた「デジタルネイティブ世代」であり、それまでの世代と大きく異なる価値観を持つとされる。

Z世代のインサイト(行動の根底にある動機・要因)や価値観を考察するために、ワカモンではさまざまな手法を活用しているという。

「まず、定量調査としては、2年に1回実施する1万人規模を対象にした『若者まるわかり調査』や、電通が展開している大学生のサークル向けコミュケーションアプリ『サークルアップ』を活用し、毎月実施している『大学生定点調査』を組み合わせて、データを収集しています。一方、データだけではつかめないリアルな感覚を探るべく、企業とZ世代の共創プラットフォーム『βutterfly(バタフライ)』を2017年に発足しました。βutterflyでは、活動の一環として、恋愛・健康・食事など毎月テーマを設定し、『次に来る○○のかたち』というレポートを現役の大学生に提出いただいています。そのレポートを踏まえ、ワカモンのメンバーと彼らで議論しながら、半歩先の〇〇の未来を考察し、ナレッジ化(個人が持つ知識・経験・事例・ノウハウ・スキルなどを集めて体系化した、組織にとって有益な情報にすること)しています」

こうした調査で得られた知見により、「未来を半歩先取りしている」と実感できた瞬間もあったと語る。

「例えば、以前に『次に来るイベントのかたち』を調査し、意見を出してもらいました。そこで得た考察をまとめると、今後は、従来のように一部の傑出した才能を持った人がステージに立ち、大多数の観客が客席でそれを楽しむという形態から、客席にいる一人一人が主体的にイベントを楽しむ“客席のステージ化”が起こるのではないかと予測しました。たしかに、今ではSNSの浸透により『イベントをお題にSNSで語り合う』ような楽しみ方が当たり前になった他、ニッチな趣味嗜好を持った人達が集まりやすくなったおかげで、個人によるイベント開催のハードルも下がってきた。予測が現実になったと感じましたね」

ワカモンの学生とのワークショップの様子(電通提供)
ワカモンの学生とのワークショップの様子(電通提供)

従来、ワカモンの業務は広告関係の案件が中心だったが、最近は就活生の採用方法を見直したいという企業からの相談・依頼も急増しているという。コロナ禍で否応なく採用の形が変化した20年には、各都道府県から1人ずつ学生が参加する「47 INTERNSHIP」というオンライン形式のインターンシップを開催。学生は移動の負担なしに企業との接触機会を持つことができ、企業は地域色のある学生から新たなフィードバックを得られ、双方から好評を博した。

Z世代を特徴づける2つのキーワード

用丸氏によれば、Z世代が他の世代と決定的に異なる点は「不安」と「時間貧乏化」だという。

「Z世代は“不安”を抱えて生きてきました。それ以前の世代が日本の好景気をそれなりに実感してきたのに対し、Z世代は生まれた時から不況の真っただ中。テロや自然災害に加え、これまで不変だと思われてきた終身雇用制の崩壊や一流企業の没落などをまざまざと見せつけられながら育っており、人生のリスクを痛感しています。だから、早い段階から貯金をしつつ、自分の強みやスキルを育てて、したたかに生きる術を磨いているのです」

これを端的に示しているのが、就活に臨む学生の意識だ。2020年、大学生を対象に実施した「サークルアップ調査」では、「入社前に配属保証してほしい」と94.1%が回答。「5年以内に退職、転職する予定がある」は58.9%、「ミスマッチを感じたら3年以内に離職する」は84.3%、「自分の就職した会社が65歳になる頃にはなくなると思う」は35.1%という結果が出た。終身雇用が当たり前という世代からすると、信じがたい数値ではないだろうか。

そしてもう1つのキーワードである「時間貧乏化」も特徴的だ。

「スマホやSNSの普及により、1日に得られる情報量が格段に増加しました。Z世代にとって情報やコンテンツは、自ら取りに行くものではなく、取捨選択するもの。コストパフォーマンスならぬタイムパフォーマンスを重視する傾向が見られます。だからこそ、彼らはテレビを『途中から動画が始まるメディア』として捉えていたり、60分のテレビドラマより、隙間時間の20分で見ることができる作品を好むなど、コンテンツの短尺化・最適化が進むと考えています。『2時間飲み放題は長い』という声を受けて、コロナ前から『オンライン飲み会』が浸透するだろうとも私たちは考えていたのですが、当時は誰も信じてくれませんでした(笑)。もちろん、防疫対策という外的要因もありつつ、本質的には、好きな時に始めて好きな時に終えられるオンライン飲み会は、Z世代にとっては合理的なコミュニケーションの形のひとつなのです」

Z世代と接するには「横から目線」

そんなZ世代とは、どのようなコミュニケーションをはかるべきなのだろうか。

「“上から目線”ではなく、“横から目線”の考え方がとても大切です。Z世代は経験から正解はないと悟っているので、『絶対にこうだ』と上から目線で接してしまうと、うまくいきません。昨今はコロナ禍で『やっぱり、過去の常識は通用しない』と再認識しているので、なおさらですね」

また、「カッコいい」のあり方も変わってきており、Z世代から尊敬されるためには従来と異なるアプローチが必要だという。

「これまでは、タバコやけんか、反体制的な運動など、カッコよさは“見た目重視”でした。しかし、Z世代は、見た目よりも“スタンス重視”。『女性らしい』とされる格好をあえて避けるビリー・アイリッシュや政治的発言をいとわないテイラー・スウィフト。2人はシンガーソングライターとしての実力だけでなく、強い信念を持っていることがカッコよさにつながり、支持されている。Z世代から支持されるには、自分のスタンスを持ち、それを言語化して伝えられるようにしておくべきです」

「石の上にも3年」は待てないが…

Z世代の行動姿勢を一言でまとめると、「石の上にも3年は待てなくなっているが、好きなことには全力で取り組む世代だ」と語る。その証拠に、これまで「良い」とされてきた古い価値観の見直しが進み、必要とされるものだけが残されてきた。

「“非合理的なもの”に対しては厳しいZ世代ですが、好きなことには全力で取り組みます。例えば、会社の飲み会には参加しないが、ジムには毎日通う。転勤は敬遠するが、田舎への移住には意欲的、といった具合です。こうした意識は学生の進路選びにも表れており、弊社にOB訪問で訪れる学生からも『就職するなら電通だけど、起業も考えている』と聞きますね。世の中の違和感に対して積極的に働きかけ、それを解消するビジネスを立ち上げようとする動きも増えてきました」

Z世代はYouTubeやInstagramの商業化により、「好きをお金にできる」ことを経験的に知っているため、フリーランスや起業を目指す学生が増えていくと分析。日本のイノベーションランキングが低迷していく中、学生のこうした動きは歓迎できると語る。

実際、Z世代に属する筆者の周囲でも、起業を志す学生は多い。大学を卒業する前からバー経営を始めたり、シェアハウスの運営を担ったりする学生もいた。筆者のように、はじめからフリーランスとして働く新卒も珍しくなくなっているのが現状だ。

Z世代のさらに先を行く未来では「正解不正解ではなく、好き嫌いが行動の要因に変化していくのではないか」と結論付けた用丸氏。Z世代の間で進むパーソナライズ(個人化)はあらゆる領域に波及し、“正解のない社会”になっていく可能性が高いという。今後、そうした既成概念にとらわれない若者たちが長ずるにつれ、社会はどう変わっていくのだろうか。

バナー写真:PIXTA

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