選挙に行こう!―帰化2年目ハッサンの初めての投票 : 小さなえんぴつで縦書きに苦戦

政治・外交 社会 暮らし

エジプト出身、2019年に日本に帰化したニッポンドットコムのスタッフ八山勇士。「大雨が降っているからやめようかな」と一瞬、心が揺れたけれど、初めての投票に行ってきた。日本語能力試験よりも緊張した!?

帰化してから2年目だ。日本語を勉強し始めたころに、1週間でも日本に行きたいという夢を持っていたけど、目覚めたら来日してからもうほぼ10年も経った。年齢を重ねると時間がたつことが自分で思っているよりも速くなるのか、日本での時間が出身国であるエジプトよりも速いのかよく分からない。この10年の間いろいろなことが起きたけど、7月4日、日本で初めて選挙に行った。注目を集めている東京都議会議員選挙だ。

候補者1人も知らない。投票に行くか行かないか迷っていた。特に大雨で行けないと自分には言い訳もできるはずだ。けれど、若者の投票率が低い、政治に興味がないという話が頭に浮かんで、行くことに決めた。それに、2020年の都知事選の時、妻や友達を誘ったけれどみんな行かないというので、やめてしまって、後から罪悪感が湧いてきた。

帰化した妻と3人の友達にも電話して、一緒に選挙に行こうと説得してみたが、結局1人で行くことになった。でも、まだ、別にやめても誰も文句言わないと一瞬考えていたけど、3週間前に住んでいる町の駅前で、れいわ新選組代表山本太郎さんが、「この国を変えたいなら積極的に投票に行って下さい」と言っていた。日本を裏切れないので大雨でも、大地震でも、何があっても投票に行くのだ!

日本での生活を満喫。目黒川の桜祭りでの筆者(2018年撮影)
日本での生活を満喫。目黒川の桜祭りでの筆者(2018年撮影)

本人確認無し!

雨が降っていたけれど、家から10分くらい歩いて投票所の市民センターに行った。近くを通ったことは何度もあるけれど、そこにそんな施設があるなんて、気付いていなかったし、中に入るのは初めてだ。

様子をうかがいながら、友達に電話して「投票所は近いよ。君も帰化したでしょう。投票に来てよ」と誘ったみたけれど、「頑張って」とだけ言われた。

電話していると、投票所前にいたスタッフに「どうぞ、どうぞ」と招き入れられた。中はガランとしていて、お年寄りが1人、投票が終わって帰るところだった。雨も降っていたし、投票に来る人がなかなかいないので1人でも来てくれるとうれしいというのがスタッフの気持ちだったような気がする。

心を落ち着けてから投票所の入場整理券を出して、受付に渡した。確認してくれたところ、1年前の選挙整理券だった。穴が有ったら入りたいぐらい恥ずかしくて、汗が出てきた。

せっかく来たけれど、投票はできないかも…と思っていたら、本人確認のために生年月日を聞かれた。日本人になったので、「昭和56年…」と日本暦でわざと言った。マスクしても確実に外国人の顔なので、マスクを外して身分証明書を見せてと言われるかと想定して準備していたけれど、あっさり、投票用紙を渡されて、どうぞこの辺で投票して下さいと言われた。さすが日本。この国大好きだ!信用してくれるとさらに責任を感じるのだ。

漢字の壁

エジプトで経験した選挙と同じように、自信満々で投票ブースに進む。細くて短いプラスチックの軸のえんぴつを渡されて、これで、私の好きな候補者に「〇」を付けるだけだ…でもちょっと待って、それはエジプトの話だ。

投票ブースには、立候補者の名前とふりがなを縦書きに書いた一覧表が貼ってあるだけ。「あれ、写真がない! 投票用紙には〇を付けるところもない。小さなえんぴつで候補者名を縦に書かなきゃ!妻や友達は来なくて良かったかもしれない。

汗かきながら、候補者名を頑張ってきれいに書いてみた。ミッションインポッシブル完了。投票箱に入れてすぐに逃げた。外に出ても汗が止まらない。日本語能力試験が終わった後と同じ気持ちだった。正しく候補者名を書いたかな、私の字が読めるかな。少し不安になった。だいたい、仕事で文章を書くのはPCとスマホなので、手書きで漢字を書くのが久しぶりのことだ。日本語能力試験でさえ、〇付けるだけだし。

24時間消えないインク

エジプトにいた時も投票に行っていた。特にアラブの春以降、選挙と憲法改正国民投票にも3回ぐらい参加した。日本と違って、投票所で身分証明書を確認されるのが当然のことだ。イスラムの国だから女性は顔を隠しているが、投票所では顔と身分証明書を確認される。投票券には全員の候補者名、顔写真、党のロゴまで印刷されているので、〇を付けるだけでいい。日本もこのような形にすればどうだろう。日本人にとっても難しい名前もあるでしょう。

エジプトでは投票が終わったら24時間で消えるインクの皿に指1本を付けなければならない。他のところでまた投票をできないようにするためだ。アラブの春以降、未来を期待していたので自分も含めて皆が憲法改正国民投票に行ってから、笑顔でインクが付いた指を見せながら証拠写真を撮ってSNSに投稿していた。

エジプトでは、二重投票を防止するため、投票後に24時間消えないインクを指につける
エジプトでは、二重投票を防止するため、投票後に24時間消えないインクを指につける

日本投票初体験としては良かったと思うけれど、もっと帰化した人や漢字をうまく書けない人の気持ちを考えてもらいたい。18歳になって初めて日本語を勉強した私にとっては、縦書きというだけでも難しい。2020年1年間で9079人が日本に帰化した。全員投票に行ってほしい、日本の未来をみんなで作ろう。

2018年に抜刀術を取材した際の筆者。この時は日本在住のエジプト人だった。銀座で侍の魂が学べる『HiSUi TOKYO』:本物の日本刀を使った抜刀体験
2018年に抜刀術を取材した際の筆者。この時は日本在住のエジプト人だった。銀座で侍の魂が学べる『HiSUi TOKYO』:本物の日本刀を使った抜刀体験

バナー写真 : PIXTA

東京都庁 小池百合子 東京都 帰化 東京都政 有権者