スピードとシンプルが決め手、台湾の企業向けコロナ支援策

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台湾では5月に入り急激なスピードで新型コロナの感染が拡大した。事実上のロックダウンが実施され、飲食業やサービス業は壊滅的な打撃を受けているが、台湾政府の事業者に対する積極的な支援措置を講じている。台湾で飲食チェーンを経営する日本人の筆者が、台湾と日本の支援策を比較・解説する。

台湾政府は5月11日に新型コロナに対する警戒レベル第2級を発令し、営業エリアや公共の場所、飲食店でのマスクの常時着用や仕切り板の使用、(来店客の)実名登録制を義務付け、屋外500人以上、室内100人以上の集会活動の原則停止など厳しい規制を開始した。

それでも、予想を上回る速度で感染は急拡大し、5月15日には台北市及び新北市に対しより強い警戒レベル第3級を発令。4日後の19日には全国へ第3級を拡大し、外出時のマスク着用の義務付け、フィットネスクラブ、カラオケホール、各種レクリエーションやレジャー施設の閉鎖、室外10人以上、室内5人以上の集会を禁止した。飲食店での店内飲食が禁止され、テイクアウトのみが営業可能となった。全ての規制には厳しい罰則があり、マスク不着用には3000元~1万5000元(1台湾ドル=4円)の罰金、制限人数以上の集会をすると1人あたり6万元~30万元の罰金が科せられる。

台湾政府の事業者向け新型コロナ支援金申請書類(筆者撮影)
台湾政府の事業者向け新型コロナ支援金申請書類(筆者撮影)

台湾の警戒レベル第3級は日本政府の「要請」と違い「規制」である。従うか従わないかの選択肢はない。事業によっては規制当日から収入がゼロになるのである。台湾政府は迅速に支援策の策定に動き、6月初旬には立法院(国会)で支援予算を可決した。特に規制により大きな打撃を受ける飲食業やサービス業などへの支援は昨年より手厚い内容となった。

台湾は正社員人数に応じて支援金支給

日本では緊急事態宣言の下で時短営業に応じた飲食店へは、当初、事業の規模に関係なく協力金として一律の金額が支給された。しかし不公平感の強い支援策であったため、今年4月に事業規模に応じて金額が変動する仕組みに改められた。一方、台湾政府の現金給付支援は、正社員数に応じて支援金を決定する仕組みである。

日本の協力金制度は都道府県ごとに支給金額が違うため、ここでは東京都の中小企業向け最新版を比較対象とする。

東京都の申請条件は酒類又はカラオケ設備を提供する店は休業、酒もカラオケも提供しない店は午前5時から午後8時までの短縮営業となっている。さらに、指定の感染防止対策の実施し、感染防止徹底宣言ステッカーの取得、各店舗ごとにコロナ対策リーダーを選任して、e-ラーニング研修を受講修了したステッカーを掲示する必要がある。

これに対して、台湾は売上高が2019年同月比または2021年の3、4月の平均売上高が50%以下という条件のみである。

協力金の額は、東京都は売上高により支給額が1店舗1日4万円から20万円となっている。なお7月12日からの緊急事態宣言は8月22日までの41日間なので、最大で1店舗840万円が支給され、この金額は固定費をカバーできる水準を参考に設定されている。一方、台湾は売上高や規模に関わらず労働保険加入の正社員1人につき4万台湾元が1度のみ支給される。この金額は1カ月の人件費をカバーできる水準である。

筆者の経営する会社は、正社員数が21人で支給額は84万元であった。台湾の警戒レベル第3級はこれまで4度延長され総日数が72日間となっていることを鑑みると東京都に比べ支援金はかなり少ない印象にもなる。

しかし、チェーン店など正社員数が数百人という事業者も少なくなく、友人の会社では数千万元の支給を受けているところもいくつもある。なお支給を受けた事業者は指定期間中解雇や減給、無給休暇等はしてはならないという条件がある。これ以外に電気料金の値上げ見送り、利子補給、納税延期など、支援メニューは多岐にわたる。なおアルバイトについては、事業者経由ではなくアルバイト本人に直接1万元が支給される。

大手ショッピングモールのフードコートメニューを弁当として販売している(筆者撮影)
大手ショッピングモールのフードコートメニューを弁当として販売している(筆者撮影)

シンプルな申請条件と支払いのスピード

支援が必要な事業者にとって、多くの書類を要求される申請手続きは大きなハードルの一つである。迅速な支給には、便利で効率の良い申請手続きの仕組みが必要だ。台湾政府への申請は原則インターネットのみで受け付けるというIT先進国らしい便利な方法であり、外国人である筆者でも簡単に申請できた。

具体的には事業者の名称及び納税番号、統編番号と呼ばれる事業者番号、Eメールアドレスを記入しログインすると、事業者情報が自動的に表示される。情報に間違いなければ申請条件に関する情報を記載し、提出するべき書類のPDFファイルもしくは画像ファイルをアップロードして申請終了である。提出書類は、申請書と納税証明、営業額証明、振込銀行通帳のコピーのみ。どの書類も通常の事業運営で必要なものばかりで、税理士や会計士の手を借りる必要もないほど簡単である。事業者情報に労働保険加入人数がひも付けされており、自動的に人数が記載される仕組みになっている。

もともと書類に不備がなければ制度開始時点でも約2週間で支援金が振り込まれたが、現在では驚くことに申請後3営業日程度で支払われる。また登録した携帯電話にショートメッセージで振込完了通知が届くのも親切だ。

店内利用が禁止された飲食店(筆者撮影)
店内利用が禁止された飲食店(筆者撮影)

柔軟に修正できる台湾の強み

実は、6月初旬に支援策が発表された時点では少なからぬ問題もあった。警戒レベル第3級が発令されたのは5月19日。その時点で月の3分の2の日数を営業しているので、20日以降の店内飲食が禁止となっても売上が基準月の50%以下とはなりづらい。そうなると、事業者は6月の営業額が確定するまで支援金を申請できず、支援金が支給されるのは最短でも7月中旬となってしまう。一番苦しく資金が必要な時に支援金が間に合わないのである。

支援策発表後、筆者のもとには「これでは運転資金が間に合わない」という声がいくつも届いた。6月4日に地元台南の黄偉哲市長および郭国文立法委員(国会議員)に申請条件を月単位から5月15日~6月14日の30日間とする日数単位へ変更するよう陳情した。その後6月7日の立法院での支援策集中審議で郭委員がこの問題を取り上げ、数日後行政院は申請条件の緩和を決定した。これにより、事業者は6月末には支援金を受領することが可能となったのである。

少々、脱線するが、台湾政府が策定した個人向け支援金制度の申請条件は中華民国国籍が条件となっており、外国人は対象外であった。筆者のもとには国際化を進め多様性を大切にする台湾らしくないという声が寄せられた。この問題は報道でも取り上げられ、6月24日、行政院は永住権を持つ2万7000人の外国人を支援対象に含めることを決定した。

日本では一度決めたことをすぐに変更するのは不可能に近いが、間違いや不備には柔軟、迅速に対応することが台湾の強さであり、日本も学べる点だと筆者は考えている。

5月17日に過去最高の526人の本土感染を記録して以降、警戒レベル第3級は4度延長され合計72日間となった。厳しい規制による不自由や経済的な代償は決して少なくないが、この間本土感染者数は確実に減少し、30人を下回るところまで沈静化している。台湾政府は7月27日から警戒レベルを第2級へ降級し規制を若干、緩和したが、感染者の多い台北市や新北市は独自に店内飲食を禁止するなど厳しい規制を継続している。台湾政府も今後の感染状況次第では、再度警戒レベル第3級に引き上げる可能性があるとして、国民に引き続き感染予防の徹底を呼び掛けている。

テイクアウトのみとなった日系飲食店(筆者撮影)
テイクアウトのみとなった日系飲食店(筆者撮影)

バナー写真=台湾政府の事業者向け新型コロナ支援金申請書類(筆者撮影)

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