急速に普及が進むニッポンの「代替肉」最新事情

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欧米に比べ、日本ではあまり普及が進まなかった植物性の代替肉が昨今、スーパーやコンビニでも商品が並ぶようになり、一気に身近になった。「代替肉元年」と呼ばれる2020年を節目に様変わりしたニッポンの代替肉事情をレポートする。

もともとベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(卵や乳製品といった動物に由来する製品も摂らない人)の多い欧米では、大豆など植物由来の原料を加工して肉を模造した代替肉は身近なものとなっていた。そこに近年の環境問題への意識の高まりもあって、数多くのスタートアップ企業(新たなビジネスモデルを開発する企業)が代替肉市場に参入し、マーケットが急拡大。マクドナルドやケンタッキーフライドチキンでも代替肉商品が提供されるほど浸透してきた。

代替肉の歴史

植物を使って肉もどきに加工するという試みは実に100年以上の歴史がある。国立国会図書館農林環境課長・遠藤真弘氏の論文『代替⾁の開発と今後の展開―植物⾁と培養⾁を中⼼に―』によれば、コーンフレークの発明者として商品名にも名を冠せられている米国の医学博士ジョン・ハーベイ・ケロッグは、小麦に含まれるグルテンと牛乳に含まれるカゼインから、食肉に似た硬さと香りを持つ食品を製造する方法を考案し、1907 年に特許を取得した。

代替肉開発が進む契機となったのは、米国の化学者ロバート・アレン・ボイヤーの研究だとされる。大豆から抽出した植物性たんぱくを束ね、筋肉の構造に似せることで食感を食用肉に近づける製法を考案。1954 年に特許を取得し、米国の食品メーカーは、ボイヤーの製法を基に代替肉の製品化を進めた。ただし、食感が近づいたとはいえ、外観や味なども含め、食用肉との差はまだかなりあったためか、広く普及するには至らなかった。

しかし、21世紀に入ると、加工技術や添加物の進歩により食感・外観・味など、あらゆる面で質の高い代替肉が登場し、次第に人気を博すようになる。ことに代替肉ブームを牽引したのは2009年に設立され、19年にナスダック市場への上場を果たした「ビヨンド・ミート(Beyond Meat)」社と、11 年に設立され、グーグルからも出資を受ける「インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)」社だ。この両社の登場で代替肉は飛躍的な発展と進化を遂げた。因みに、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツはこの両社に多額の出資をしている。

世界中の畜産業による二酸化炭素(CO2)排出量は、地球全体のCO2排出量の15%を占めると言われ、畜産業は森林破壊、温室効果ガス排出、水資源の大量消費など、環境を破壊する主因となっている。畜産を少しずつ、代替肉に置き換えていけば、CO2の排出量を減らせ、地球環境を守ることにつながることから、代替肉への支持が高まっている。

世界の企業情報を配信しているビジネスワイヤ(米国)によれば、20年に56億ドル(約6200億円)だった世界の代替肉の市場規模は、27年までに149億ドル(約1兆6400億円)に達するという。また、2029年には世界の食肉産業における代替肉の消費比率が10%まで高まるというデータもある。こうした予測は投資家や大手メーカーにも影響を及ぼし、関連銘柄の急騰や出資、新規企業の参入が相次ぎ、市場は活況を呈している。

2020年はニッポンの代替肉元年

一方、日本では1960年代後半に植物肉の開発ブームがあったものの、代替肉の普及は進まなかった。しかし、昨今は風向きが変わりつつある。2019年から20年に掛けて、スタートアップ企業をはじめとする新商品の発売が相次ぎ、食品大手・食肉大手企業の参入も続いている。また、農林水産省は20年4月、フードテック研究会を設立、同年10月には産学官連携による「フードテック官民協議会」を立ち上げるなど、代替肉の普及のバックアップを進めている。

「地球を終わらせない。」を理念として掲げるネクストミーツ株式会社は、2020年6月に設立された代替肉のスタートアップ企業。同社広報の牧野勇也氏は「2020年は代替肉元年」と位置付ける。

「20年には、これまでスーパーの大豆コーナーにひっそりと置かれていた代替肉商品が精肉売り場に並ぶようになったり、大手食肉加工メーカーやファーストフードチェーンが続々と代替肉市場に参入したりと、“代替肉元年”と呼べるほど市場が激変しました。こうしたトレンドは21年になっても衰えていません」

「代替肉元年」を経て21年には同社の売上や注目度も急上昇している。

「公式オンラインストアのデータでは、21年8月の売上は販売を開始した20年10月と比べて約4.5倍になっています。また、昨年は一人焼肉チェーン店・焼肉ライク全店舗で弊社の代替肉が提供され、本年は全国のイトーヨーカドーでの販売が決まりました」

そのイトーヨーカドーでは、大豆を使った代替肉商品の売り場を拡張し、精肉売り場に隣接するなど、「大豆ミート」の販売に力を入れている。セブン&アイ・ホールディングスの広報センターによれば、「変化するお客様のニーズに合わせて、2019年の秋から大豆ミート商品を精肉売り場にて取り扱いを開始しました。20年の春には、全店舗に取り扱いを拡大。店舗にて若干違いますが、15種類の商品を揃えており、お客様からご好評をいただいております。21年春からは、挽肉タイプの取り扱いを開始するなど、多様化する大豆ミートの使われ方に合わせた品揃えにしております」という。

イトーヨーカドーの精肉コーナー(中央から左側)に隣接して展開されている大豆ミートコーナー(右側) 提供:イトーヨーカ堂
イトーヨーカドーの精肉コーナー(中央から左側)に隣接して展開されている大豆ミートコーナー(右側) 提供:イトーヨーカ堂

追い風に乗るネクストミーツだが、消費者からの反応はどうとらえているのか。牧野氏は「ポジティブな声が多いが、中にはネガティブなものもある」と語る。

「ポジティブなものでは、『言われなければ肉だと思える』『食感の再現度が高い』『胃もたれしないので食べやすい』といった声がある一方、『まだ食感が完全ではない』『値段が高くて手が届きにくい』といった声があるのも事実です」

代替肉商品を試食

では実際、日本の市場に流通している代替肉商品はいかほどのクオリティなのか。数ある商品の中から、お惣菜系商品、ファーストフード店の商品、焼肉店でも扱う商品の3種のカテゴリーの中からセレクトし、「本物」と比較しながら試食してみた。

伊藤ハム「まるでお肉!大豆ミートのハムカツ」(税込408円)

伊藤ハムの「まるでお肉!ダイズミートのハムカツ」 筆者撮影
伊藤ハムの「まるでお肉!ダイズミートのハムカツ」 筆者撮影

ハム・ソーセージ業界の大手企業伊藤ハムが提供するのが、大豆ミートを活用した「まるでお肉!大豆ミートのハムカツ」。「まるでお肉!」シリーズは代替肉としての完成度が高いと評判で、大豆で作ったハムカツも本物のハムカツを極めて忠実に再現している。
実際に本物のハムカツと食べ比べをしてみると、本品はジューシーで弾力ある食感の再現性が高く、本物のハムと遜色ない。代替肉と言われなければ気付かないレベルの仕上がりとなっている。3個入りで400円を超える価格はやや高めだが、十分購入の選択肢に入ってくる商品だ。

モスバーガー「ソイモスバーガー」(税込390円)

モスバーガーの「ソイモスバーガー」 筆者撮影
モスバーガーの「ソイモスバーガー」 筆者撮影

大手ハンバーガーチェーン・モスバーガーの「ソイモスバーガー」は、同社の定番メニュー「モスバーガー」を模した商品。こちらも「モスバーガー」と食べ比べてみたが、肉の濃厚な旨味がしっかり感じられた。食感や見た目も「モスバーガー」と遜色なく、違いといえば多少後味がアッサリする程度だ。全国のモスバーガーで購入でき、価格も通常の「モスバーガー」と同じ390円。安く手軽に代替肉を体験したい方におススメだ。

ネクストミーツ「NEXTカルビ1.1」(税込429円)

ネクストミーツの「NEXTカルビ1.1」 筆者撮影
ネクストミーツの「NEXTカルビ1.1」 筆者撮影

代替肉商品にはハンバーグのようなひき肉を使った調理品の模造が多い中、ネクストミーツが販売する「NEXTカルビ1.1」は、「カルビ(バラ肉)」という肉の素材に対抗する商品。軽く炒めるだけで焼肉の風味を味わえる手軽さが人気を集めている。
本品は他の商品に比べて、本物に近づけるのはかなりハードルが高いと思われたが、意外にもカルビの風味を十分に味わうことができた。焼肉のたれを絡めれば、濃厚なカルビの旨味をさらに堪能できる。大豆らしく後味がややアッサリしてはいるが、むしろ肉特有の油っぽいしつこさがなく、肉の後味が苦手な方でも楽しめる。

以上、3商品を本物と食べ比べた結果、いずれも想像以上に高いレベルに達していたのは驚きだった。

代替肉の普及に必要なのはさらなる「おいしさ」

牧野氏は日本のみならず世界でこれ以上代替肉が普及するためには、「おいしさ」をさらに突きつめなければならないと分析する。

「まずは、お肉に近いおいしさをどこまで再現できるかが一番の課題です。弊社はメカトロニクス(機械工学)とバイオテクノロジーの掛け合わせでおいしさを100%植物性で再現しようとしており、最終的には肉を超えるおいしさを目指しています」

しかし、代替肉には多くの課題があるのも事実。ネクストミーツはこれらの課題にもアプローチを続ける。

「まだ本物のお肉よりも価格が高く、どこでも手軽には買えないこと(現状は首都圏以外では手に入りにくい)も課題だと感じています。価格に関しては、自社工場の新設で製造コストを落としていく予定です」

また、畜産と環境問題の関係について知ってもらう施策にも余念がない。

「代替肉普及の背景にある過剰な畜産と気候変動のつながりも、日本ではまだまだ知られていません。私たちもSNSを中心にこうした情報発信を行っていますが、まずは代替肉商品を気軽に試してもらい、そこから自然と現状について知ってもらう形でもいいと思っています」

ネクストミーツに限らず、市販されている代替肉は現段階でも「肉の代替品」としては十分なレベルにあるが、今後「さらなる肉の再現性」「肉より安い」という段階に至れば、代替肉は益々ニッポンの食卓に身近な存在となっていくだろう。

バナー写真:品数、量、共に豊富な品揃えで展開されているイトーヨーカドーの大豆ミートコーナー 提供:イトーヨーカ堂

代替肉 フェイクミート