米アカデミー映画博物館オープン:こけら落としは宮崎駿展

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ハリウッドの新しい観光スポットとして期待される「アカデミー映画博物館」がロサンゼルスにオープンした。現地在住の日英翻訳者ポール・ケラーがリポートする。

映画ファンの新しい聖地

米ロサンゼルスに、映画に特化した博物館としては米国最大規模の「アカデミー映画博物館」が、9月30日にオープンした。常設展ではハリウッド映画で実際に使われた衣装や小道具が展示されている。また、19世紀に使われた照明機器や撮影カメラなども紹介されており、映画製作の撮影技術の歴史を振り返ることができる。

こけら落としは、北米初となる個展「宮崎駿展」で、スタジオジブリ作品のオリジナルイメージボード、絵コンテ、ポスターなど、海外初出品を含む約400点が展示されている。

考えてみると、ハリウッドに映画博物館が無かったことが意外だった。映画の祭典ともいえるアカデミー賞授賞式は、映画関係者によって結成された団体「映画芸術科学アカデミー」の主催で1929年に始まった。華々しい授賞式は毎年注目を集めるが、アカデミー自体、映画に関する博物館を持っていなかった。アカデミー賞といえば、授賞式が行われるハリウッドのドルビー・シアター(旧称コダック・シアター)を連想する人が多いが、今回、アカデミー主催で作られた映画博物館は、過去の名作映画の歴史をたどり、思い出にふけることができるとあり、映画ファンの新たな聖地となりそうだ。

ロサンゼルス中心部のウィルシュアー大通りとフェアファックス通りの角に建っており、すぐ隣には西海岸最大規模のロサンゼルス・カウンティ美術館がある。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)
ロサンゼルス中心部のウィルシュアー大通りとフェアファックス通りの角に建っており、すぐ隣には西海岸最大規模のロサンゼルス・カウンティ美術館がある。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)

アカデミー映画博物館は築82年のサバン・ビルと、隣接して新たに建設したガラス張りの球体ビルをガラスの橋で結んでいる。サバン・ビルは1992年まで名門百貨店として営業していた建物をリノベーションしたもので、寄贈者のシェリル&ヘイム・サバン夫妻にちなんで名付けられた。球体ビルの中には最新の音響設備の大型シアターが入っている。

サバン・ビル(右)と球体ビルは、ガラスの橋でつながっている。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)
サバン・ビル(右)と球体ビルは、ガラスの橋でつながっている。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)

こけら落としは宮崎駿展

「宮崎駿展」はスタジオジブリの協力の下、実現した。9月23日にプレス向けオープン、その1週間後に一般向けオープンとなったが、関係者は直前まで、ビデオ会議を重ね準備に奔走した。来場者の反応は非常に好意的で、オープン後、数日間は入場待ちの列ができるほどの人気ぶりだった。

企画展のキュレーター、ジェシカ・ニーベル氏は「宮崎駿監督は、人生における曖昧さや複雑さの中で、私たちがどのように人生を捉えているかを感じ取ることができる非凡な才能を持っています。スタジオジブリと協力しながら展示を作り上げていくのは、またとない機会で、熱心な宮崎作品ファンはもちろんのこと、それほど作品を知らない人も魅了できる内容になりました」と語っている。

スタジオジブリ代表取締役プロデューサー鈴木敏夫氏もコメントを寄せている。「アカデミー映画博物館の開館記念で宮崎駿展を開催していただけることは光栄です。宮崎監督は見たものをずっと記憶できるという才能の持ち主です。頭の中の引き出しから、記憶を取り出し、独創性に富んだキャラクターや風景、物語の構成を作り上げてきました。展示会を訪れる方々に、創作プロセスの全体像を見ていただけると嬉しいです。開催にあたり、関係者の皆様にお礼申し上げます」

企画展はゾーンごとに分かれている。来場者は最初に、『となりのトトロ』をほうふつとさせるツリートンネルをくぐり、クリエイティングキャラクターギャラリーを訪れる。そこには、作品の主人公たちがスクリーンで映し出されており、キャラクターたちがどのように誕生したのかが説明されている。『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』などのストーリーボード、キャラクターデザイン原画も展示されている他、三鷹の森ジブリ美術館(東京都三鷹市)で見ることのできる『天空の城ラピュタ』のスラッグ渓谷の複製ミニチュアも展示されている。

宮崎駿展の入り口。『となりのトトロ』を連想させるツリートンネルを通る。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)
宮崎駿展の入り口。『となりのトトロ』を連想させるツリートンネルを通る。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)

メイキング・ゾーンではスタジオジブリの共同設立者でもある故高畑勲監督と宮崎駿監督のインタビューを放映。アニメーターとして駆け出しのころの話やスタジオジブリ設立にまつわる話など、貴重なエピソードを聞くことができる。壁一面には、宮崎監督の長編アニメーション初監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)から、2020年12月30日にテレビで先行放映され、今年8月に劇場公開された最新作『アーヤと魔女』に至るまで、映画ポスターがびっしりだ。

空を感じる体験ゾーン

見どころの一つが、来場者が寝転がりながらリラックスしてそよ風を感じるスカイビューインスタレーションだ。『魔女の宅急便』『紅の豚』『風立ちぬ』といった「飛行」をテーマにした映画のワンシーン画像に囲まれている。緑の芝生の上に仰向けになると頭上に青空が見え、まるで自分が映画の中にいるような気持ちになる。壁一面にはスクリーンが設置され、英語字幕付きか英語吹替で作品が上映されている。

スカイビューインスタレーション(© Joshua White/Academy Museum Foundation)
スカイビューインスタレーション(© Joshua White/Academy Museum Foundation)

トランスフォーメーションギャラリーでは、宮崎作品の中で表現される、創造と破壊の力の世界観を体感できる。例えば、『風の谷のナウシカ』に登場する廃墟の町や、『ハウルの動く城』で主人公たちがさまざまな感情とともに、絶えず肉体が変化するさまが描かれている。

続いて、マジカルフォレストゾーンへと進む。幻想的な巨木のインスタレーションが出迎え、『もののけ姫』の神秘的な森の場面へといざなう。ちなみに、『もののけ姫』はスタジオジブリが初めて全米で大々的に興行した映画だ。

最後にマジカルフォレストから『千と千尋の神隠し』を連想させる小道を通り、ジブリ映画の世界から現実世界へと戻ってくる。

マジカルフォレストゾーン中央にある巨木は『もののけ姫』から。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)
マジカルフォレストゾーン中央にある巨木は『もののけ姫』から。(© Joshua White/Academy Museum Foundation)

現在、新型コロナウイルスの感染拡大で、博物館は入場制限をしているが、今後は多くの来場者を見込んでいる。「ここに来れば日本に行かなくても、宮崎監督の世界観に浸り、ジブリ作品を楽しめる!」と感動した。「宮崎駿展」は来年6月5日まで開催される。

常設展で展示されている衣装や小道具。(左)『オズの魔法使い』(1939年)でドロシー役のジュディー・ガーランドが履いたルビーの靴。(右)『市民ケーン』(1941年)より、「バラのつぼみ」が刻まれたそり(© Joshua White/Academy Museum Foundation)
常設展で展示されている衣装や小道具。(左)『オズの魔法使い』(1939年)でドロシー役のジュディー・ガーランドが履いたルビーの靴。(右)『市民ケーン』(1941年)より、「バラのつぼみ」が刻まれたそり(© Joshua White/Academy Museum Foundation)

(原文英語。バナー写真:「宮崎駿展」に続く通路。© Joshua White/Academy Museum Foundation)

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