地方クラブにマネー流入、連続する番狂わせ……6年目のバスケットボール「Bリーグ」が活況を呈する理由とは

スポーツ 経済・ビジネス 社会 地域

6シーズン目を迎えた国内男子プロバスケットボール「Bリーグ」に“異変”が起きている。開幕戦では、昨季王者の千葉が島根のクラブにまさかの敗戦。広島も上位に食い込むなど、首都圏クラブ中心だった構図が変わり始めた。地方クラブが躍動する背景には一体、何があるのか。

6年目の開幕戦で起きた番狂わせ

日本のバスケットボール界が、活況を呈している。

まず東京オリンピックでは、女子日本代表が史上初めて決勝に進出、アメリカに敗れたものの、銀メダルを獲得した。米プロバスケットボールNBAに目を移すと、八村塁(ワシントン・ウィザース)、渡邊雄太(トロント・ラプターズ)という日本で育った二人の選手が夢の舞台に立っている。そして国内では、2016年に幕を開けたBリーグが6シーズン目を迎えた。

かつて日本のバスケットボール界には、プロ志向のbjリーグと企業スポーツが母体のJBLという二つのリーグが並存していたが、それを国際バスケットボール連盟(FIBA)が問題視した結果、2016年にBリーグが誕生。現在、B1(1部)に22チーム、B2(2部)に14チームの計36チームが所属し、年間60試合を戦っている。

開幕からの5年間、初代のチャンピオンは栃木ブレックス(現・宇都宮)、翌シーズンからアルバルク東京が2連覇し、昨シーズンが千葉ジェッツと(注:2019-20はシーズン途中で打ち切り)、優勝チームは首都圏に固まっていた。

ところが今季は、負けが当たり前の「ドアマットチーム」と見なされていた島根スサノオマジックが、開幕戦でディフェンディング・チャンピオンの千葉ジェッツに勝利。11月中旬、第8節終了時点での順位表を見ると、島根の2位に続き、昨季B1に昇格した信州ブレイブウォリアーズが3位、広島ドラゴンフライズが6位につけるなど健闘していて、特に西地区において昨季までの「文法」では考えられない状況になっている。

金丸晃輔とともに今季から島根でプレーする安藤誓哉。キャプテンとして新生スサノオマジックを牽引する ©SHIMANE SUSANOO MAGIC
金丸晃輔とともに今季から島根でプレーする安藤誓哉。キャプテンとして新生スサノオマジックを牽引する ©SHIMANE SUSANOO MAGIC

富山グラウジーズのポイントガードで日本代表経験を持つ宇都直輝は、これまでのBリーグについてこう話す。

「外国人選手が地方のクラブで結果を残したとします。そうすると、翌シーズンは首都圏のクラブに引っ張られてしまうんですよ。お金も要素だし、生活面でも便利だし、楽しいというイメージがあるから。そうなると、地方のチームは継続的な強化が図れなくなるんです」

首都圏と地方の経済格差。日本社会が長年抱える問題は、バスケットボールにも反映されていた。ではなぜ今季になって、その様相が変わってきたのか。

地方クラブへの資金流入が起きているからだ。島根にはバンダイナムコ、広島には英会話教室で知られるNOVAが資本を投下。また、今季からB1に昇格した群馬クレインサンダーズは、総合不動産会社オープンハウス(プロ野球でセ・リーグを制したヤクルトスワローズの帽子にもロゴが入っている)がオーナーとなり、クラブを支えている。

地方クラブに流れ込んだ資金は有力選手を獲得する原資となり、チームの強化につながる。結果として、首都圏を中心とした従来の戦力バランスに変化が生まれてきたのだ。この流れは下部リーグであるB3にも及んでおり、なかでも注目はアルティーリ千葉と長崎ヴェルカだ。

アルティーリ千葉のオーナー企業は、IT人材向けの求人メディアのGreenやエンゲージメント解析ツールWevoxなどを手掛ける株式会社アトラエ。佐世保市に本拠地を置く長崎ヴェルカは、JリーグのV・ファーレンのスポンサーとしても知られるジャパネットたかたが多額の資金を出してBリーグ昇格を狙う。シーズン開幕後、両チームはB3では段違いの力を見せて、勝ち星を重ね、天皇杯の3次ラウンドでは、ヴェルカがB1のサンロッカーズ渋谷を破る大金星をあげた。

地方クラブのキーワードは「連携」

地方クラブが獲得した資金は、戦力補強にばかり投下されているわけではない。

今季からB1に昇格した茨城ロボッツは、水戸市にある「アダストリアみとアリーナ(東町運動公園体育館)」を本拠地として年間24試合を戦っている。チームの演出を担当している山村竜太さんは、B1に昇格した今季、場内演出が大きくレベルアップしたと話す。

「今季、体育館には天井から吊り下げ式の大型ビジョンが取り付けられました。このビジョンの存在によって、体育館と呼ぶよりもアメリカにあるような“アリーナ”という雰囲気になりましたね。縦5m×横15mと巨大なので、このビジョンを最大活用するのが演出上の課題です」

茨城ロボッツのホームアリーナ「アダストリアみとアリーナ」に設置された大型ビジョン。映像や音響を駆使したショーアップもBリーグの人気の理由のひとつだ © IRSE / Akihide TOYOSAKI
茨城ロボッツのホームアリーナ「アダストリアみとアリーナ」に設置された大型ビジョン。映像や音響を駆使したショーアップもBリーグの人気の理由のひとつだ © IRSE / Akihide TOYOSAKI

同ビジョンの取り付けまでの経緯が興味深い。本来、体育館は水戸市の所有だ。借りている立場のロボッツがビジョンを設置しようと思っても、自由に取り付けられない。では、どうやってこの課題を解決したのか。

ロボッツのオーナーである堀義人氏が代表を務めるグロービスグループ3社が、「企業版ふるさと納税」の制度を使って水戸市に5000万円を寄付。その資金を活用して水戸市が国の拠点整備交付金も活用し、ビジョン設置を事業化したのだ。自治体とクラブ、それを支える企業が“ビジョン”を共有し、政府のスポーツによる地方創生の気運を活かして実現した「官民連携事業」の先駆的事例として注目されている。

これはスポーツチームと自治体の連携が成功したひとつのケースだが、今後のBリーグビジネスのモデルにもなり得るだろう。

スポーツにおいて、特に地方のクラブが成功するにはさまざまな場面での連携が欠かせない。水戸には、サッカーJリーグのJ2に所属する水戸ホーリーホックもある。ロボッツとホーリーホックは手を携えて、水戸市を盛り上げようとしていると山村さんは言う。

「11月14日の日曜日は、両チームの試合が重なったんです。地元のみなさんにはホーリーホック、ロボッツの両方を応援していただきたいと両者で話し合い、試合時間をずらしました。2つの試合をセットにした、スペシャルチケットも販売しました」

こうした連携は、アメリカでは当たり前のことだ。たとえば今シーズンのメジャーリーグのポストシーズンでは、サンフランシスコ・ジャイアンツの試合に、同じくサンフランシスコに拠点を置くNBAのゴールデンステート・ウォーリアーズの大スター、ステファン・カリーが応援に来ていた。チームの広報同士も仲が良く、日頃からプロモーションで協力し合っている。

ところが日本では、どことは書かないまでも、プロ野球とJリーグのチームの関係があまりうまくいっていない地域もある。今シーズンのプロ野球では、日本シリーズ進出を決める「クライマックスシリーズ」で、セ・リーグとパ・リーグの試合が同じ時刻に開催され、両方の試合を見たい野球ファンはないがしろにされた。どちらも、運営母体のトップのリーダーシップを疑いたくなる。

Bリーグはまだ創設まもない若いリーグだ。スポーツファンのマーケットを他競技のプロチームと食い合っても仕方がない。むしろ互いに連携して最大限活用しようという好例がロボッツとホーリーホックで、「水戸プライド」をスローガンに、両者で成功への道を模索している真っ最中なのだ。

沖縄アリーナ成功の理由

Bリーグのチームにとって、自治体との連携も経営の成功に向けて重要なポイントとなる。

ユニークなのが、琉球ゴールデンキングスと沖縄市だ。琉球の木村達郎社長は、チームがbjリーグに所属していた時代、県内の体育館を転々として試合をしていたことに限界を感じ、ホームアリーナの重要性を痛感したという。

そこに登場したのが、沖縄市長の桑江朝千夫氏だった。桑江氏は新アリーナ建設を公約に掲げ、2014年の市長選に当選。沖縄市が主体となって行われたアリーナ建設には、設計段階からゴールデンキングスも加わり、総事業費約162億円をかけて6階建て、最大収容人数1万人という沖縄アリーナが2021年に完成した。コロナ下にあった4月には、こけら落としの試合が行われ、観客数を抑えつつも大きな盛り上がりを見せた。

木村社長は単なるアリーナビジネスだけではなく、他競技からのヒントも取り入れながら、戦力アップへとつながるビジョンを描いている。

「沖縄市でキャンプを行う広島カープの存在も欠かせない。新球場が誕生して人気が急上昇し、チームも強くなったという好循環のストーリーは、同じように県民球団として成長している琉球と重なる部分が多かった」(2021年5月11日 日本経済新聞)

バスケットボールの観戦に適した大きすぎないサイズで設計された沖縄アリーナ。収容人員1万人は、プレーの迫力を伝え、観客が一体感を味わうのに最適な規模だ ©RYUKYU GOLDEN KINGS
バスケットボールの観戦に適した大きすぎないサイズで設計された沖縄アリーナ。収容人員1万人は、プレーの迫力を伝え、観客が一体感を味わうのに最適な規模だ ©RYUKYU GOLDEN KINGS

なぜ今、日本のバスケットボール界で、資金が活気づいているのだろうか。前出の山村さんはこう分析する。

「東京オリンピックの開催が大きかったと思います。ちょうどこのタイミングで八村塁、渡邊雄太というふたりの日本で育ったNBAプレーヤーが誕生しました。もともと日本ではミニバスケットボールが盛んですし、中学、高校の競技人口も多い。裾野は広がっていたのに国内のトップリーグが分裂した状態が長らく続き、ビジネスとしてのバスケットボールの実現が遅れていたということでしょうか。今、アリーナビジネスを含め、まさに日本のバスケットボール界は“成長産業”なんだと思います」

待ち受けるプレミアリーグ化

この先、Bリーグはリーグ創設10年目となる2026年に大きな転換を図ろうとしている。それがいわゆる「プレミアリーグ」化だ(ここでは新B1と呼ぶことにする)。

Bリーグがさらに活性化し、日本のスポーツ界で存在感を増すためには、それぞれのクラブが選手強化や地域活動に投資できる経営力をつける必要がある。そのため、競技成績による昇降格制度を廃止し、ライセンス基準を満たしたクラブが参入する形にすることで、事業投資を促進するのだという。

参入ハードルを高くするため、ライセンスの基準は現行から大幅に引き上げられた。入場者数は2期連続で平均4000人以上で、売上高は12億円以上(バスケ関連事業で9.6億円以上)。さらにアリーナ運営権を持つなど、さまざまな観点の基準を満たしたクラブだけが、新B1に参加できる。

開幕は2026年の予定だが、初回審査は2024年の10月。新B1参入へ意欲を見せる経営者は、3年後を見据えてすでに今年から資金を投入しているのだ。これから3年間は、これまで以上にクラブの経営能力が試されることになる。

日本におけるバスケットボール産業は、まだ離陸したばかり。Bリーグのビジネスが活気づけば、日本のスポーツシーンにおけるバスケットのプレゼンスも高まり、より多くの選手が世界から集まる魅力的な場になっていくだろう。

本格的なアリーナでハイレベルな試合が行われ、観客が増えていく。そんな好循環が、首都圏ではなく地方のそこかしこで起こり始めると、ますますBリーグはおもしろくなりそうだ。

バナー写真:今季から島根スサノオマジックに移籍した金丸晃輔。Bリーグでは5年連続で「ベストファイブ」に選出され、日本代表でも活躍するトッププレイヤーのひとりだ ©SHIMANE SUSANOO MAGIC

Bリーグ 島根スサノオマジック 千葉ジェッツ 信州ブレイブウォリアーズ 広島ドラゴンフライズ 群馬クレインサンダーズ アルティーリ千葉 長崎ヴェルカ 茨城ロボッツ 琉球ゴールデンキングス 沖縄アリーナ 富山グラウジーズ