使用済み漁網をかばんに再生:海洋ごみ削減へ 兵庫県豊岡市のメーカー連携

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【神戸新聞】海洋プラスチックごみの削減と資源循環を目指し、使用済みの漁網を再利用して製造したかばんが人気だ。手掛けるのは、国内最大の産地、豊岡市の「豊岡鞄(かばん)」メーカー11社。環境保全を重視する姿勢が、地場産業のブランド価値や需要そのものを向上させた。各社はこうした動きが「ものづくり産業から他の産業へも広がっていけば」と期待している。

「こちらのかばん、使い終わった漁網から作られているんですよ」

豊岡市の市街地で、かばんの販売店が集まるカバンストリート。その一角にある豊岡鞄の販売店トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニューの橋本貴広店長(33)が説明する。

店頭の棚に並ぶのは、トートバッグ(7万9900円)やショルダーバッグ(2万3100円)。その手前には、淡い水色の漁網が置かれ、素材として活用していることをPRする。

豊岡鞄は、中国製など安価な輸入商品に対抗するため、「国産品」を前面に打ち出した地域ブランド。2006年に兵庫県鞄工業組合(豊岡市)が立ち上げ、厳しい基準をクリアした製品だけにブランドの使用を認めている。

2年前から、SDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指す取り組みを検討。日本財団が海洋ごみ削減と資源循環のために新設した一般社団法人アライアンス・フォー・ザ・ブルー(東京)が発案した「漁網を再生した生地づくり」を知り、参加を決めた。豊岡はズワイガニなど漁業が盛んで、それも後押しした。

生地は、北海道の漁網店がサケ漁で使われたナイロン製の漁網を回収し、東京にある素材再生企業がペレット(再生樹脂)化。それを大阪市の織物会社が糸に紡ぎ、布に織って生地に仕上げる。全国規模の連携事業だった。

現在、豊岡鞄のメーカー11社は、トートバッグやボストンバッグなど多彩な商品を製作。トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニューでは1カ月で約70点が売れ、入荷待ちになっている商品もあるほどだ。

生地の開発メーカー、モリト(大阪市)は、カニ漁を行う但馬漁協(兵庫県香美町)と組んで、地元で使われた漁網の資源化も模索する。カニ漁の網は素材が丈夫なため再生コストが高く、現時点で商品化は難しいが、再生しやすい素材の漁網の一部を持ち帰って、漁師が現場で使える小物などを企画している。

メーカーの1社、ナオト(豊岡市)は現在、スクールバッグの商品化に取り組んでいる。同社の宮下栄司社長(43)は「毎日使うものが(環境意識の)学びの機会になれば」と若い世代への広がりにも期待する。

漁網を再利用した素材を使った豊岡鞄はトヨオカ・カバン・アルチザン・アベニューのオンラインショップでも購入できる。

革や布、裁断後の端材も小物に

豊岡鞄(かばん)のメーカーは、かばんだけでなく、「豊岡財布」「豊岡小物」のブランドも展開している。豊岡小物は、かばん製造のために裁断した革や布の端材などを活用。ポーチやキーケース、小銭入れなどを販売する。

財布はかばん職人向けの技術教室をきっかけに2018年から、小物は加盟企業の製品を豊岡財布としてブランド認定する兵庫県鞄工業組合の認定会に小さなポーチが持ち込まれたのを機に19年から、それぞれ生産が始まった。

かばんの製造では、皮革に必ず廃棄部分が出てくる。特に豊岡小物はそうした端材を生かせるのがメリットで、一点物が多く、土産物としても人気だ。

また、一部メーカーは、ワイン製造で出るブドウの搾りかすでなめした革を使った製品を企画。化学薬品を使わないことで、環境負担の軽減を狙う。

記事・写真:石川 翠
バナー写真:漁網を再利用した素材で作られたかばん。手前には漁網も展示されている=トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー
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