日本人の「感謝台湾」の思いが詰まった一冊「約定之地:24位在台灣扎根的日本人」刊行に寄せて

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このほど台湾の時報出版からnippon.comの連載をもとに、馬場克樹さんの新刊「約定之地:24位在台灣扎根的日本人」が刊行された。本書について、繁体字版編集長の野嶋剛が、連載スタートの経緯や馬場さんの本書にかけた思いなどを紹介する。

馬場克樹さんに、nippon.comで連載「台湾に根を下ろした日本人」を依頼したのは4年前だった。そのとき、馬場さんには「ぜひ連載を20回やって本にしましょう」とお願いしたことを覚えている。馬場さんの連載は、その時の約束通り、20回を超えて、毎回読者からの強い支持を得ながら、2021年11月に見事完結した。そして、台湾で書籍化されることも実現した。当初の私との約束を実現してくれた馬場さんの実行力に、深く敬意を表したい。

馬場さんと初めて会ったのは10年ほど前のことだった。当時、私は朝日新聞の台北特派員で、馬場さんは日本台湾交流協会の広報担当だった。とても気さくで、気が利き、しかも、謙虚で、行政で働く人らしくないという印象だった。私が日本に戻ってから、馬場さんが国際交流基金を辞めて台湾に定住する、という話を聞いた。

国際交流基金という政府系団体での仕事を辞めるというのは、安定志向が強い日本人の常識ではあまり考えられない決断だ。ただ、不思議と「やっぱりそうなったか」と感じた。馬場さんの個性は、一つの企業や団体の枠には収まりきるものではなかったからだ。

それからの活躍は台湾の人々のほうがよく知っているだろう。歌手としては台湾各地で明るい歌声を響かせ、俳優としてはユニークな演技を映画やドラマで見せている。台北の人気居酒屋「北村家」の店長としても3年間、明るい人柄でお客さんを見事にさばいていた。馬場さんは本当に何でもできる人で、文章を書くだけの私からすれば羨望の限りだが、そのマルチな才能は、日本よりも寛容で多文化的な台湾社会でより大きく花開くものだと思う。

馬場さんの才能の一つが、文章を書くことである。馬場さんの文章は、明るく、やさしく、そしてしっかりと整っている。文章には、その人の性格や人格が現れる。そして、その時々の精神状態も影響する。馬場さんの文章はこの4年間、ずっと安定した視点で、台湾で頑張っている日本人たちを一人ずつ、日本と台湾の読者に紹介し続けた。これは簡単なことではない。

本書「約定之地:24位在台灣扎根的日本人」に登場する日本人たちは、こんな人々だ。

北村豐晴│青木由香│熊谷俊之│夢多(大谷主水)│MASA(山下勝)│片倉真理│西本有里│大竹研│千田愛紗│川嶋義明│藤樫寛子│二瓶里美│小路輔│戶田泰宏│原田潤│Nobu(粟田經弘)│熊谷新之助│蔭山征彥│Iku老師(佐藤生)│龍羽WATANABE(渡邊裕美)│鵜林理惠│木下諄一│松下聰樹│

いずれも個性派で、独自の考えや技能をもって、日本と異なる環境の台湾で刻苦励行しながら、台湾社会に溶け込み、成功を収めている人々だ。そして、本書のテーマである「台湾に根を下ろした日本人」の一人には、作者の馬場さん自身が、その筆頭に挙げられるべき人かもしれない。

日本はいい国だが、台湾のような自由さや楽しさ、明るさに不足している部分がある。台湾と関わりながら生きることを選んだ日本人は、それぞれ台湾社会に受け入れられ、歓迎され、台湾によって魂が救われ、新しい人生を与えてもらったという思いがあり、普段は口には出さないけれど、そうした台湾への感謝を抱きながら生きている。

この本には、そうした日本人の気持ちが詰まっているように私は思う。2021年は台湾から多くの支援をいただいた東日本大震災から10年目にあたり、日台友情年に指定された。本書は、日本による「感謝台湾」を、馬場さんの筆を通して台湾人に伝えるという意味で、2021年の最後を飾るのにふさわしい一冊である。

発行:時報出版
発行日:2021年12月7日
A5判:256ページ
価格:360台湾ドル(税込み)
ISBN: 978-9-57-139750-4

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