ロシアのウクライナ侵攻:現地では8年前から戦争が続いていた

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nippon.comロシア語版エディターのウクライナ人、ヴャチェスラヴ・オニスチェンコがロシアのウクライナ侵攻を受け、日本語版読者に向けて現在の思いをつづった。

現地の早朝に始まった悪夢

2月24日木曜日の正午過ぎ、ウクライナに住む友人がFacebookに「爆発で飛び起きた!何のこと?」と投稿してきた。現地は朝5時過ぎ。私は仕事柄、常にウクライナのニュースやSNSをチェックしている。これがロシアのウクライナ侵攻の始まりだった。

それまで、もう何週間もロシアは軍事力を国境近くに集めていた。「戦争になりかねない」と皆感じていた。しかし、これがプーチンの外交ゲームであってほしいと最後まで期待していた。プーチンは本気だった。目の前の現実が悪夢のように思えた。

ロシア軍は本格的な攻撃を続け、状況は日に日に悪化している。しかし3月3日の時点で電気、通信インフラの多くは機能しており、日本在住のウクライナ出身者はSNSやインターネットを通じて家族・友人と連絡は取れている。現地の状況も大まかには知ることができる。

女性・子どもの多くは、国の東部から西部へ、そして隣国のポーランドやモルドバなどに避難を始めている。18歳から60歳までの男性は国内に残り、その多くが国を防衛する任務に志願している。しかし、私の両親のような高齢者は自宅にとどまるしか選択肢はないようだ。とても心配だ。

2014年のクリミア併合から

今回の事態について、日本人の皆さんにぜひ知っておいてほしい、理解してほしいことをこの機会に伝えたい。それは、今の戦争が始まったのは2022年2月24日ではなく、14年2月のことだったということだ。われわれウクライナ人はこの8年間、常にロシアと戦争状態にあると感じて生活していた。

ロシアはウクライナの領土だったクリミアを併合し、東部にいわゆる「自称共和国」(親ロシア勢力が独立を宣言したドネツク、ルガンスクの2州)をつくった。ウクライナ政府軍と親ロシア勢力は紛争状態に入ったが、その後は毎週のようにウクライナの兵士が何人も何人も殺されていった。

ウクライナの安全保障について多くの関係国が合意した「ブタペスト覚書」という政治協定書がある。1994年12月にハンガリーの首都ブダペストであった欧州安全保障協力機構(OSCE)会議で署名された。

その内容はベラルーシとカザフスタン、ウクライナが核不拡散条約に加盟することを条件に、核保有国の米国と英国、ロシアがこの3国に安全保障を提供するものだ。中国とフランスも別の書面で、部分的な個別保障をしている。

この覚書に照らせば、ロシアはウクライナに手を出すことはできない。しかし、プーチンは2014年にクリミア半島に侵攻し、これを反故にした。当時、米国や欧州各国は経済制裁などでロシアに強い圧力を掛けたが、北方領土の交渉を抱える日本はほぼ事態を静観する対応をとった。

「ナチス」持ち出す空虚なプロパガンダ

もう一つ、日本人の皆さんにぜひ知っておいてほしいことは、ウクライナ政権を「ネオナチ」と呼び、反ファシズムを侵攻の理由に掲げるプーチンの主張は、全くのでたらめであることだ。

ウクライナに限らず、右翼はどの国にも一定程度存在する。しかし、極右勢力がウクライナ政界で主導権を握ったことなどは過去に一度もない。これははっきりしている。ユージン・フィンケル米ジョンズ・ホプキンス大教授ら第2次世界大戦やナチス、大量虐殺の歴史を研究する欧米の学者グループは、プーチンの言説を強く非難し、ホロコーストの犠牲者に対する冒とくであるとする声明を発表している。

連帯と支援に感謝

2月26日土曜日、渋谷駅前であった抗議デモに私も参加した。主催者のウクライナ人は、参加者を200人ほどと想定して警察に届けたそうだ、しかし、ふたを開けてみると、約2000人もの人が集まった。9割方が日本人の参加者だった。余りに人数が膨れ上がったため、近隣の迷惑になるとしてデモは予定の2時間から1時間に短縮されて終わった。

日本のメディア報道でも連日、ウクライナ侵攻に多くの時間が割かれている。これだけ強い関心を持っていただいて本当に感謝している。日本もウクライナと同様にロシアの隣国で領土問題を抱えている事情から、日本人は今回の事態に強い関心があるのだと感じる。

ウクライナは独立した主権国家であり、その安全保障をめぐっては、新たな「ブタペスト覚書」のような協定書が今後必要になるだろう。また、ロシアが破壊した物的・人的被害を補償するのは当然のことだ。加えて、今回の侵攻は明らかな国際法違反であり、最終的には責任者の訴追と裁判が必要だ。

バナー写真:在日ウクライナ人らによる抗議集会でロシアのウクライナ侵攻に対して抗議する人たち=2022年2月26日午後、JR渋谷駅前(時事)

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