東京湾でコンテナ船の無人運航に初成功:約300キロ離れた陸上から遠隔操船も実施

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1日に500隻もの船が行き交う世界有数の渋滞エリア・東京湾で、コンテナ船の無人運航に初めて成功した。日本の貿易における海運の割合は重量ベースで99パーセントを超えるが、船員の高齢化や労働力不足が課題となっており、早期の無人運航船の実用化に期待がかかる。

日本財団は3月1日、東京港-津松阪港(三重県)の往復約790キロの航路で、コンテナ船の無人運航実証に成功したと発表。東京湾のような多数の船舶が行き交う「輻輳(ふくそう)海域」での自律運航は、世界初の試みだという。

この実証実験は、日本財団が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」の一環で、日本郵船グループの日本海洋科学を中心に国内30社が参加する「DFFAS(Designing the Future of Full Autonomous Ship)コンソーシアム」が実施。海運・船舶関連会社に加え、NTTグループや気象情報会社、海上保険など多種多様な企業の技術やノウハウを結集させた。

左から日本海洋科学 赤峯浩一社長、日本財団 海野光行常務理事、笹川陽平会長
左から日本海洋科学 赤峯浩一社長、日本財団 海野光行常務理事、笹川陽平会長

400~500隻をよけながら無人航海

東京湾を航行する船は1日約500隻に上り、マラッカ・シンガポール海峡の1.5倍、パナマ運河の10倍以上に相当する。実験に用いたのは全長95メートル、総トン数749トンのコンテナ船「すざく」。大型船の多くは予定航路に沿って進む自動操舵(そうだ)装置を持つが、無人運航船は針路上に現れる他船を回避する自律避航や、自動離着岸の機能も備えている。すざくは2月26日午後、東京港での自動離岸に成功。東京湾を抜けて、津松坂港沖合までを片道約20時間で航海し、3月1日朝に再び東京港へ着岸した。

一時的に手動操船に切り替える場面もあったが、無人航行システムの稼働率は往路で97.4パーセント、復路では99.7パーセントを達成。DFFASコンソーシアムの桑原悟プログラムディレクターは「往路だけで避航回数は107回に及んだ。1回のコース変更で複数の船をよけるため、累計で400~500隻にもなると推測できる」と手応えを感じていた。

無人運航システムは、陸上でサーバーやモニター機器など一式をコンテナに積み込んでから、すざくの船上に設置した。この導入方法なら大規模改修なしに、既存の船を無人運航船にリニューアルすることが可能だ。

東京湾を航海するコンテナ船「すざく」。船尾に設置した白いコンテナ内に、無人運航システムをつかさどるサーバー類などが収められている 写真提供:日本財団
東京湾を航海するコンテナ船「すざく」。船尾に設置した白いコンテナ内に、無人運航システムをつかさどるサーバー類などが収められている 写真提供:日本財団

すざくの操舵室。ハンドル下にあるスイッチで、陸上支援センターからの遠隔操船に切り替えることができる
すざくの操舵室。ハンドル下にあるスイッチで、陸上支援センターからの遠隔操船に切り替えることが可能

遠隔操船可能な陸上支援センター

本実証実験の大きな特徴は、「陸上支援センター」(千葉県千葉市)を整備したこと。「航空機の管制塔のようなもので、無人運航船の実用化には欠かせない施設」(桑原ディレクター)で、気象・海象データや交通量を収集し、運航状況や機関室の状態を監視する上に、緊急時には遠隔操船することもできる。海上と陸上をつなぐ通信システムも構築したことで、包括的な無人運航実証となった。

JR海浜幕張駅近くの幕張テクノガーデンに設置された陸上支援センター
JR海浜幕張駅近くの幕張テクノガーデンに設置された陸上支援センター

エンジンや電気系機器の状態を監視するだけでなく、異常予知機能も備える
エンジンや電気系機器の状態を監視するだけでなく、異常予知機能も備える

遠隔操船用の操縦席。子どもたちに夢を与えられるように、近未来的なデザインにしたという
遠隔操船用の操縦席。子どもたちに夢を与えられるように、近未来的なデザインにしたという

2月28日には、陸上支援センターからの遠隔操船もテスト。直線距離で約300キロ離れる伊勢湾沖のすざくへ、衛星回線などを通じて航路変更や速度調整の指示を送ることに成功した。

桑原ディレクターは「陸上支援センターでは数千台の船を監視・支援できる。将来的にはクラウド化などが進み、自宅で大型船を遠隔操作する日が来るかもしれない」と語る。

船の速度を調整する桑原ディレクター。遠隔操船時には、操縦席の周りのLEDライトが赤色に変わる
船の速度を調整する桑原ディレクター。遠隔操船時には、操縦席の周りのLEDライトが赤色に変わる

夜間操船では赤外線カメラに切り替わるため、人間の目よりも視認性が高い
夜間操船では赤外線カメラに切り替わるため、人間の目よりも視認性が高い

2025年の実用化を目指すが、法整備が課題

船員の高齢化や労働力不足、人為的ミスの多い海難事故など社会課題解決に取り組むMEGURI2040では、2025年までに無人運航船の実用化を目指している。桑原ディレクターは「今回の実証実験で明らかになった課題の解消に取り組みながら、実用化に向けた環境整備にも努めたい」と今後を見据える。

技術開発に比べ、無人運航船に関する海事法や海上保険の整備には時間が掛かりそうだ。ただ、乗船定員の規定などが先に緩和される可能性もあるという。現状の船員法では、すざくのような700トンを超える船の場合、自動操舵装置があってもブリッジに常時2人以上を配置せねばならず、8時間交代とすれば最低6人が必要。自律避航が可能な無人運航システムの導入で、最少定員を1人に減らせれば、もう1隻分の船員が確保できる。そうした船員不足解消の観点からも、技術の確立が急がれている。

すざくの船尾に設置された無人運航システムを格納したコンテナ。内部にはモニター監視室とサーバールームがある。この導入方法なら、短期間で無人運航船を増やすことが可能だろう
すざくの船尾に設置された無人運航システムを格納したコンテナ。内部にはモニター監視室とサーバールームがある。短期間で無人運航船を増やすことが可能な導入方法だ

MEGURI2040では3月14日にも、水陸両用船での無人運航実証を実施予定。5つのコンソーシアムによる計6回の実証実験が完了することになるが、日本財団の海野光行常務理事は「今後は各コンソーシアムの長所を集め、さらに開発を加速させる。その成果を持って、法整備についてもIMO(国際海事機関)などに働きかけていく」と語る。2025年の大阪万博では、水の都で無人運航船が活躍することを期待したい。

東京湾の無人運航に成功し、無事帰港したすざく
東京湾の無人運航に成功し、無事帰港したすざく

写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:陸上支援センターでの遠隔操船の様子

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