押し寄せる避難民に支援の手を! : “人道の要衝” ウクライナ東部・ドニプロのフィラトフ市長

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ウクライナ東部のドニプロ市は、北東部ハリコウ、南東部マリウポリなど激しい戦闘地帯から比較的近く、現在、多くの避難民が押し寄せている。ウクライナ出身のnippon.comロシア語版エディターのヴャチェスラヴ・オニスチェンコが、旧知の友人であるドニプロのボリス・フィラトフ市長にインタビューした。「罪のない人々に支援の手を差し伸べてほしい」―その声は切実だ。

ボリス・フィラトフ Boris FILATOV

ウクライナの弁護士、実業家、ジャーナリスト、政治家。2015年11月よりドニプロ市長。日本の歴史や文化に深い関心を持ち、2003年から根付を蒐集。2011年から2014年まで国際根付蒐集家協会のCIS諸国支部長を務め、2011年秋に高円宮妃殿下に拝謁。

ドニプロに多くの避難民が押し寄せる

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、およそ20万人の人がドニプロを通過して鉄道で避難している。ドニプロは鉄道での移動の安全をなんとか確保し、駅構内に市民ボランティアによる支援センターを設置。ウクライナ中から避難してくる人々に食料や衣服、一時的な宿泊施設を提供している。今や、“人道の要衝” だ。

ドニプロはウクライナ東部の工業都市で、ロシア軍による侵攻が始まってからも、比較的安全な状態が保たれていた。3月に入り、ミサイルが市内の工場の1棟に命中し、高層住宅や国際空港周辺が被害を受けたが、激しい戦闘が続く北東部ハリコウ、南東部マリウポリなどに比べると被害が限定されている。そのため、他地域からドニプロを目指して、毎日、多くの人が押し寄せてくるのだ。

2022年3月11日のロシア軍からの攻撃で様変わりしたドニプロの街(ドニプロ市提供)
2022年3月11日のロシア軍からの攻撃で様変わりしたドニプロの街(ドニプロ市提供)

ロシア軍からの攻撃で建物も大きな被害を受けた(ドニプロ市提供)
ロシア軍からの攻撃で建物も大きな被害を受けた(ドニプロ市提供)

つい数カ月前まで、ドニプロは美しい街だった。車で走りながら、街を発展させるための将来の計画を思索する豊かな時間があった。

ザハ・ハディドの設計によるユニークなデザインの駅の計画が完成し、まさに建築が始まったところで戦争による中断を余儀なくされた。この先、地下街を拡張し、美しい中庭のある高層住宅を開発し、新しい公園を作る。私の頭の中には、いつも未来のドニプロがあった。

高齢者にどのような支援をするか、新しい雇用をどう生み出すか、若者たちと素晴らしい街の未来をどのように築いていくか…考えることは尽きなかった。

ドニエプル川沿岸の街ドニプロ(ドニプロ市提供)
ドニエプル川沿岸の街ドニプロ(ドニプロ市提供)

市民の憩いの場だったドニプロの旧市街(ドニプロ市提供)
市民の憩いの場だったドニプロの旧市街(ドニプロ市提供)

しかし、慣れ親しんだ世界は崩壊してしまった。2月24日の朝、ロシアの最初のミサイル攻撃によって。

かつて重要だったものはすべて重要でなくなり、過去のものとなってしまった。この先どうなるかは誰にも分からない。

薬は残っているのか? 遺体袋のストックはあるのか?

今の私は、一日を、戦況の報告から始めなければならない。

病院には、負傷者のための薬がどれだけ残っているのか。救えなかった人々のための遺体安置所には充分なスペースがあるのか、遺体を入れる袋には、まだストックがあるのか。食料はあとどのくらい残っているのか。毎日、押し寄せてくる何万人もの避難民のために、これからも必要な食料や物資を供給できるのだろうか。ハリコフ、ヴォルノヴァハ、マリウポリ、セベロドネツク、イジウムなど、ロシアに爆撃された都市からやってきた高齢者は、なんとか生き延びることができるのだろうか。

日々、考えなければならないのは、命にかかわる差し迫ったことばかりだ。

それでも、私たちは毎日、今、この瞬間を生きている。

かつて思い描いていたすべての計画は、戦争が終わり、真っ当な時代を取り戻すまで、残しておくしかない。

ドニプロから、多くの市民が、ウクライナ西部や国外に避難している。しかし、ドニプロからその先に避難できなくなった人々、あるいはドニプロを離れたくないという人の数は増える一方だ。その多くは高齢者、障がい者、幼い子供を持つ母親など、身体的、経済的に弱い立場の人だ。私たちは、彼らを見捨てることはできない。

これまで、公私にわたって交流があった世界各地の都市や企業の皆さんに、支援をお願いしたい。

あなた方の心が本当にウクライナと共にあるならば、ウクライナへの平和の使者、それぞれの国でのウクライナの親善大使になっていただきたい。お寄せくださる支援金はすべて、第二次世界大戦以来の最大の戦禍を乗り越えようとしている罪のない人々を救うために使うことを約束する。

ドニプロと日本のつながり

ドニプロには丸紅をはじめとする多くの日本企業が進出。私が2015年にドニプロ市長就任後は、「ドニプロにおける日本デー」や、日本語弁論大会を開催。美しい日本の「桜通り」は、市民や観光客の大切な憩いの場となっている。

ドニプロは、ウクライナと日本の文化・経済交流の旗手のような存在だと自負している。ロシアによる侵攻が始まるわずか3カ月前には、18世紀から20世紀までの日本の版画200点以上を集めた大規模な展覧会も開催した。

私が、日本と出会ったのは、高校生の頃、柔道と空手を始めたことがきっかけだった。ソ連時代、手に入れることが難しかった数少ない日本に関する本を片っ端から読んで、日本の歴史、特に哲学を通して、日本そのものに傾倒するようになった。

2000年代になると、根付の魅力に取りつかれて、収集と研究にのめり込み、国際根付協会のCIS支部会長を務めたこともあった。2011年と18年に訪日した際には、高円宮妃久子殿下にお目にかかり、ウクライナと日本の交流の発展、CIS諸国での国際根付協会での活動などについて説明をする機会を得た。

これまで、ご縁があった日本の皆さんにも、ドニプロへの支援を是非、お願いしたい。

2018年 高円宮妃久子さま
2018年 高円宮妃久子さま

原文ロシア語。フィラトフ市長のインタビューを基に、ヴャチェスラヴ・オニスチェンコが構成。本人の了解を得て、一部、Facebookの投稿を引用している。

ドニプロ市への支援の送金先

(ユーロでの送金の場合の送金先)
Details of the account of the Charitable organization
“Charity Fund ”TAPS“ (ESREOU: 42297939) for currency transactions in EUR:
Company Name: 50 TAMC 50 / CO ”CF“TAPS”
BAN Code: UA713052990000026005050563498
Name of the bank: JSC CB “PRIVATBANK”, 1D HRUSHEVSKOHO
STR. KYIV. 01001. UKRAINE
Bank SWIFT Code: PBANUA2X
Company address: 49000
XapkiBba 6.3a
Account in the correspondent bank: 400886700401
SWIFT Code of the correspondent bank: COBADEFF
Correspondent bank: Commerzbank AG, Frankfurt am Main,Germany
Account in the correspondent bank: 6231605145
SWIFT Code of the correspondent bank: CHASDEFX
Correspondent bank:J.P. MORGAN AC, FRANKFURT AM MA
GERMANY

(ドルでの送金の場合の送金先)
Details of the account of the Charitable organization
“Charity Fund ”TAPS“ (ESREOU: 42297939) for currency transactions in USD:
Company Name: 50 TAMC 50 / CO ”CF“TAPS”
BAN Code: UA793052990000026002050304854
Name of the bank: JSC CB “PRIVATBANK”, 1D HRUSHEVSKOHO
STR. KYIV. 01001. UKRAINE
Bank SWIFT Code: PBANUA2X
Company address: 49000
XapkiBba 6.3a
Account in the correspondent bank: 001-1-000080
SWIFT Code of the correspondent bank: CHASUS33
Correspondent bank: JP Morgan Chase Bank, New York ,USA
Account in the correspondent bank: 890-0085-754
SWIFT Code of the correspondent bank: IRVT US 3N
Correspondent bank: The Bank of New York Mellon, New York, USA

バナー写真 : ロシア軍の攻撃で様変わりしたドニプロの街(ドニプロ市提供)

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