本当は美味しいのに、外国人が「食わず嫌い」の台湾料理を探せ

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台湾は、言わずと知れたグルメのメッカだ。しかし小籠包(ショーロンポー)にマンゴーかき氷といった花形役者の陰に隠れて、見た目や臭いのせいで、しばしば一口も食べずに悪印象を持たれる料理も少なくない。本稿ではそんな「恵まれない食べ物たち」をいくつか取り上げて、名誉回復を試みたい。受け継がれてきた工夫と情熱、地元での愛されぶりを知れば、きっと味わってみたくなるはずだ。

台湾のエスカルゴ・螺肉(ルオロウ)

雨の日の夜、道で何かをうっかり踏んづけて、パリンという乾いた音が響き渡ることがある。台湾で「螺肉(ルオロウ)」と呼ばれるアフリカマイマイの殻で、台湾ではごく普通に食べられている。バジル、唐辛子、豆板醤やニンニクなどをあえて炒めることが多く、扇状の黒い肉はホッキ貝に似たコリコリした歯応えで、お酒にもご飯にもよく合う。

台湾に来たばかりの頃、会食で初めて口にし、うまい! と思った。きっと貝の一種だ。こんなに大きいのは海の貝だろう……何年もそう思い込んでいた。メニューに螺肉を見かけたら、毎度のように注文しては舌鼓を打っていた。

炒螺肉(アフリカマイマイ炒め)。ときには触角も見える。
炒螺肉(アフリカマイマイ炒め)。ときには触角も見える。

鹿児島県作成の駆除マニュアルの一部(鹿児島県HPより)
鹿児島県作成の駆除マニュアルの一部(鹿児島県HPより)

ある日、台湾の生き字引である陳俊郎氏から「戦争前、日本人は食用にするために大きなカタツムリをアフリカから持ちこんだの。後でそれが作物を食い荒らすようになっちゃってね」「今でもよく食べられているよ」との話を聞いた。

が、そのときはまだピンと来なかった。メニューに「蝸牛」(カタツムリ)という文字など見たことがなかったから。後日、日本語のレッスンをしていた時にカタツムリの話題になり、生徒から教えられて、ついに螺肉の正体を知った次第だ。それでも大の好物であることには変わりがない。

寄生虫がいる恐れがあるため、「触ったら死ぬ」と怖がっていた沖縄出身の友人にも味見してもらった事がある。「こんなにおいしかったなんて!」と大好評だった。台湾ビールのつまみに、一推しの品だ。もちろん寄生虫は調理のなかでしっかり除去されている。

臭豆腐には昔話を添えて

外国人を対象に「苦手な台湾料理ランキング」を作ったら、確実にナンバーワンに輝くと思われるのが臭豆腐だ。豆腐を植物性の漬け汁で発酵させた後、揚げたり蒸したりして食べる。

台湾には戦後、中国大陸からの移住者が持ち込んだ。「老板(ラウパン)の故国のはなし臭豆腐」という台湾人の俳句(黄霊芝編『台湾俳句歳時記』より)読んでいると、郷里なまりの中国語で昔話をしながら、おじさんが小さな屋台で豆腐を揚げる情景が浮かんでくる。

発酵学の大家である小泉武夫氏によれば、台南の臭豆腐店で食べた臭豆腐は中国よりもはるかに臭いがきつかったそうだ。

夜市グルメの定番でもある揚げ臭豆腐
夜市グルメの定番でもある揚げ臭豆腐

員林市・龍燈夜市の黒皮臭豆腐屋台
員林市・龍燈夜市の黒皮臭豆腐屋台

台湾で主流の揚げ臭豆腐は、外皮のサクッとした食感が歯に心地よく、スプーンなどで真ん中に穴をあけて注ぎ込む豆板醤とニンニクも香ばしい。

通常はきつね色だが、「黒皮臭豆腐」は真っ黒だ。彰化県員林市の龍燈夜市にはおばあさんが一人でやっている黒皮臭豆腐屋台がある。豆板醤をたっぷりかけた大きめの臭豆腐は、まろやかな味わいで臭みも気にならない。黒くなるのは、菌が違うからとのこと。中国湖南省の製法だそうだ。

独特の風味をダイレクトに味わいたいなら、蒸し料理の清蒸(チンジェン)臭豆腐が一番いい。辛いスープに浸した麻辣(マーラー)臭豆腐や、臭豆腐を使った蒸し餃子やソーセージなどの創作料理もある。

1955年創業「梁婆婆臭豆腐」(台中市)の麻辣臭豆腐(左上)と清蒸臭豆腐(右下)
1955年創業「梁婆婆臭豆腐」(台中市)の麻辣臭豆腐(左上)と清蒸臭豆腐(右下)

台湾生まれの大衆食・肉圓(バーワン)

「北斗肉圓生」の調理場
「北斗肉圓生」の調理場

一方、肉圓(バーワン)は台湾生まれの庶民料理を代表する存在だ。日本統治期の民俗研究誌『民俗臺灣』にも、「家庭客膳並(ならび)にはれの献立を見ても揚げものは少く、精々『肉員』か、『爆肉』か」との記述がある。

筆者の周囲には、その半透明のドロドロした外見と、ぷにぷにした食感が苦手だという日本人が少なくない。

サツマイモの粉や米粉などで作った皮で豚肉を包み、蒸したり揚げたりした後、味噌、米粉、砂糖、トマトペーストなどを混ぜたとろみのあるタレやパクチー、ニンニクおろしなどと共に食す。台湾では昔の食習慣から古い料理にサツマイモの粉を使ったものが多い。

台南人にとっての肉圓といえば、海老入り蒸し肉圓(「光蝦仁肉圓」)
台南人にとっての肉圓といえば、海老入り蒸し肉圓(「光蝦仁肉圓」)

発祥地は彰化県北斗鎮。1898年に大水害があり、范萬居という人がサツマイモ粉と米のペーストを蒸し上げて、被災者に配ったのが始まりだという。

奠安宮。主神である媽祖のほか観音菩薩、鄭成功、月下老人などが祀られている
奠安宮。主神である媽祖のほか観音菩薩、鄭成功、月下老人などが祀られている

タレも絶品な「北斗肉圓生」の肉圓
タレも絶品な「北斗肉圓生」の肉圓

北斗鎮の奠安宮という壮麗な廟のそばに、范氏を創業者とする「北斗肉圓生」がある。大きな油鍋の中を無数の塊が、群れなす亀のように、泡を吹きながら漂っている。揚げ上がった肉圓にたっぷりとかけられる黄土色のタレは、もち米や黒豆豉(トウチ)など十三種類もの食材や漢方薬材を調合して作られていて、米や胡麻の香りが濃く、こってりとしている。弾力たっぷりの豚肉に加えて、たけのこの量も際立って多く、味の宝箱とさえ言える豊富さだ。

台南では米粉で作られる白い皮に、火焼蝦という香りのよい海老を包み、蒸したものが主に食べられている。柔らかく、つるりとした喉越しが特徴だ。

台南人にとっての肉圓といえば、海老入り蒸し肉圓(「光蝦仁肉圓」)
台南人にとっての肉圓といえば、海老入り蒸し肉圓(「光蝦仁肉圓」)

甘い蜜餞(ミージェン)の、ほろ苦い思い出

小学2年生の頃、家族で台湾を旅したことがある。電車で仲良くなった子供の親御さんから、別れ際に黒っぽくて水気を帯びた果実をいただいた。ところが親は、万一お腹を壊してはいけないと考えて、それを捨ててしまった。

大人になってから、あれが蜜餞と呼ばれる果実の砂糖漬けだったと知った。一見甘ったるそうだが、台湾では鹹酸甜(ギャムスンディー)とも呼ばれているように、適度な鹹(しおから)さと酸味がある。しかし西洋人などは、一口食べると顔をしかめるほどの過剰な反応を示したりする。

赤マンゴー、橄欖(カンラン)、梅、ミニトマトに挟んだスモモの蜜餞
赤マンゴー、橄欖(カンラン)、梅、ミニトマトに挟んだスモモの蜜餞

中国ではかつて宮廷料理として食され、また「餞別」としても用いられたことからこの名がついたという説がある。台湾では鄭成功が福建から二万余の大軍を率いて侵攻した際に糧食の一つとして持たせたのが始まりとも言われる。

台南「吳萬春蜜餞」の店主・吳宜勉氏に上述の思い出話をすると、こう言われた。

「汚いと思われたのは無理もない。台湾人でもそう思っている人が多い。昔は皆、ハエがたかり、鳥がつつくのもかまわずに野外で果物を干して作っていたから。やがて工場で作るようになると、今度は人口色素などの添加物が過剰に使われるようになった。私が子供の頃、真っ赤なマンゴーをくちゃくちゃ噛んでは、檳榔(びんろう)をかんだときと同じような赤い唾をペッと吐いて、大人ぶっていたもんだ。でも、そんな時代はもうとっくに終わっている。今の蜜餞は、至って清潔で健康的な食べ物だよ」

吳氏から教えてもらった台湾特有の食べ方は「化應子」という種なしスモモの蜜餞をミニトマトに挟むというもの。甘みと酸味が、かめばかむほど、トマトの水気を通して口のすみずみまで行きわたる。

「吳萬春蜜餞」の二代目店主・吳宜勉氏
「吳萬春蜜餞」の二代目店主・吳宜勉氏

見た目より質重視の台湾気質

台南「不老莊藥膳香腸」の臭豆腐ソーセージ
台南「不老莊藥膳香腸」の臭豆腐ソーセージ

食べたことがない料理を前にすると、誰しもまずは見た目から味を想像する。西洋料理や日本料理と比べて、昔ながらの台湾の食べ物は、外見はごく控えめで、悪く言うならぱっとしないものが多い。反面、アヒルの頭や舌を煮込んだものや、豚の血を固めたものなどが、外国のメディアで誇張気味に取り上げられたりもする。

しかし、以前も書いたことがあるが、見た目よりも質を重視するのが台湾スタイルだ。食器も設備も安っぽくて古びている食堂が、行列の絶えない人気店だったりする例も山ほどある。一方で、味覚への探求心は強い。それゆえ肉圓一つとっても、千差万別の製法が生まれてきた。

「アクワイアード・テイスト」(獲得された味覚)という言葉がある。何かを美味しいと思う感覚は多分に後天的なもので、初めは抵抗を覚えても、食べ続けていると、ある日それを「美味しい」と思える瞬間がくる。そんな体験が増えれば増えるほど、世界は豊かさを増していく。

苦手な外見や味のものに出遭ったとき、果敢にそれに挑んでいきたい。そんな人にとって、すべての旅は冒険となる。特に台湾では。

※写真はすべて著者提供

バナー写真:外見からは想像できないほどまろやかな黒皮臭豆腐(筆者撮影)

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