宮崎市が史上初の餃子日本一!宇都宮、浜松を破った勝因と知られざる餃子文化、そもそも日本一の意味とは?

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2021年の1世帯あたりの餃子(ギョーザ)購入額で、宮崎市が宇都宮市と浜松市、2つの餃子王国を上回って初めて日本一になった。餃子好きも驚く知られざる餃子王国の実態と日本一の要因を、餃子ラバーな関係者の証言で明らかにする。

購入頻度、支出金額ともに念願の1位

2022年2月8日、宮崎市民は歴史的な一日を迎えた。

市役所では、「宮崎市ぎょうざ協議会」による結果報告会がオンライン生配信も兼ねて開かれ、渡辺愛香会長がマイクを手にする。餃子が描かれた赤い法被を着て、渡辺さんはこう語った。

「さきほど8時半に総務省の家計調査の結果が出ましたので、ご報告申し上げます。まず購入頻度は昨年に引き続き、1位となりました。そして昨年3位と悔しい思いをした支出金額でも、念願の1位を獲得することができました。全員で勝ち取った1位だと思うので、みなさまにおめでとうとお伝えしたいと思います」

会場は拍手に包まれ、市長から渡辺さんに感謝状が贈呈される。やがて宮崎空港には、地元の高校生が制作したステンレス製の餃子トロフィが展示されることになった――。

餃子で沸き立つ宮崎。だが、ここで私はふと思った。そもそも毎年2月にニュースになる、餃子日本一とはいったいなんなのか。

気になって調べてみると、それは総務省統計局が実施する家計調査をもとにしたランキングだった。1世帯あたりの餃子への支出額によって、餃子日本一が決まるのだ。

これを始めたのは宇都宮市で1990年代、地元にたくさんある餃子店に着目して町おこしをしようとしたのがきっかけらしい。

駅前に大谷(おおや)石の餃子像を立て、餃子祭を行い、人気タレントを巻き込むなど、あの手この手で宇都宮餃子をアピール。毎年2月、「今年も宇都宮が日本一に輝きました」というニュースが報じられるようになり、私たち日本人は成す術もなく「餃子=宇都宮」のイメージを刷り込まれていったわけだ。

宇都宮市は15年連続で日本一を独占。その後、浜松市という好敵手が現れたことで、新たな局面を迎える。

宇都宮か、それとも浜松か。そんな一騎打ちが定番化していたところ、突如として宮崎が頂点に立ったものだから、日本中がビックリなのである。

ネットを席巻する宮崎餃子の関連記事を読み漁るうち、今回の番狂わせには「宮崎ギョーザ王子」なる人物が関わっていることがわかってきた。SNSを通じて取材を申し込むとあっさりオッケーしてもらえたが、オンラインの画面に現われたのはけったいなかぶり物をした、王子と呼ぶには少々年を食った男性であった。

宮崎人が気づかなかった餃子の魅力

「宮崎ギョーザ王子」を名乗る、その人物は恒吉浩之さん。彼が宮崎餃子との出会いを語る。

「東京の神田で、お取り寄せ餃子を食べる餃子フェスというイベントに参加して、その中で宮崎餃子のおいしさを知ったんです。ちょうどその頃、宮崎と東京の2拠点間でライター活動をしてまして」

恒吉さんは宮崎入りするたびに、精力的にリサーチを行った。会う人会う人に、「餃子、どれくらいの頻度で食べてます?」と聞いて回ったところ、多くの人が申し訳なさそうに答えた。

「いやあ、週一くらいしか食べないんですよ」

恒吉さんは、すっかり興奮してしまった。

「週一って、むちゃくちゃ食べてるじゃないですか! 宮崎は知られざる餃子大国だったんですよ!」

たしかに私もそこまで餃子は食べないが、週一餃子で大騒ぎする恒吉さんがおもしろい。

東京から移住して数年で、宮崎餃子の伝道師を自認するに至った「宮崎ギョーザ王子」こと恒吉浩之氏。宮崎市内の繁華街、通称「ニシタチ」でスナックのアピールも行っている 写真=田村昌士
東京から移住して数年で、宮崎餃子の伝道師を自認するに至った「宮崎ギョーザ王子」こと恒吉浩之氏。宮崎市内の繁華街、通称「ニシタチ」でスナックのアピールも行っている 写真=田村昌士

彼はさっそく、餃子フェスの主宰者で、のちに一般社団法人「焼き餃子協会」を設立する小野寺力さんに宮崎の状況を報告。ふたりは意気投合する。

「宮崎餃子、想像以上にすごいですよ。しかも肝心の市民が、餃子をめっちゃ食べてることに気づいていないんです」

「それはぜひ、地元の意識から変えないと。宮崎で餃子イベントやりましょう」

「いいですねえ!」

宮崎市民はただ好きで餃子を食べていて、それだけで十分に幸せなのに、マニアのふたりは「こんな素敵な餃子の理想郷を埋もれさせておくわけにはいかない!」と居ても立ってもいられなくなってしまったのだ。

ではここからは、宮崎餃子の魅力を王子に存分に語っていただこう。

「まず宮崎には変な餃子文化があって、親戚や友達の家に行くとき、いつも食べているお気に入りの餃子を手土産に持って行くんです。あと多くの家庭が、お気に入りの店で餃子をたくさん買って、冷蔵庫に常備しているんですが、ご近所さんにおすそ分けすることも多いんですよ」

おお、餃子が暮らしに密着してるんですねえ。

「そういうときに重宝されるのが、地域ごとにがんばっているお惣菜系の餃子屋さん。みんななじみの地元店があるから、チェーン店が付け入る隙がない。『餃子の王将』も6年くらいで撤退しちゃって」

すごい!『丸亀製麺』が苦戦する香川みたいだ。

見た目は同じようでも、さまざまな味わいに富む宮崎の餃子の一例。左上から時計回りに、『黒兵衛(宮崎市)』『りょうGARDEN(宮崎市)』『樹樹(高鍋町)』『餃子の里(日向市)』 写真提供=宮崎ギョーザ王子
見た目は同じようでも、さまざまな味わいに富む宮崎の餃子の一例。左上から時計回りに、『黒兵衛(宮崎市)』『りょうGARDEN(宮崎市)』『樹樹(高鍋町)』『餃子の里(日向市)』 写真提供=宮崎ギョーザ王子

「餃子というとしょうゆや酢、ラー油で食べるのが定番ですけど、宮崎はつけるものがとにかく多いんです。そもそも“ディップ大国”なんて呼ばれているくらいで」

え? そんなの初めて聞きました。

「地元産のおいしい野菜を生で食べる機会が多くて、ドレッシングの種類が豊富なんです。それを餃子にもつける。例えば日向夏(ひゅうがなつ)ドレッシングなんか、すごく合う。みそ、ゆずこしょう、ポン酢につけても、むっちゃおいしくて。とにかく、いろんな食べ方があるんです」

ほー。

一日26~28万粒、毎日ほぼ完売の大人気店

さて、そんな餃子大国の盟主に君臨するのが、『ぎょうざの丸岡』。この店のことになると、王子の言葉はさらに熱を帯びてくる。

「宮崎には精肉店が始めた餃子屋が多くて、丸岡もそう。ここの餃子は甘味があって、外はパリパリ。ひょいひょいつまめて止まらなくなるんですよ」

丸岡は鹿児島や福岡、大阪などにも直営店があり、どの店も毎日ほぼ完売。一日に26~28万粒を売り切ってしまうらしい。丸岡は持ち帰り専門店で、お客さんは買って支払いをして帰るだけだが、店には行列が途切れないという。

宮崎県内に6店舗のほか、鹿児島、熊本、福岡、兵庫、大阪で店舗展開する「ぎょうざの丸岡」。宮崎では売り切れるまで行列が続くことが多いという 写真提供=宮崎ギョーザ王子
宮崎県内に6店舗のほか、鹿児島、熊本、福岡、兵庫、大阪で店舗展開する「ぎょうざの丸岡」。宮崎では売り切れるまで行列が続くことが多いという 写真提供=宮崎ギョーザ王子

丸岡の味に感動した王子が、あるとき店に取材を申し込んだところ、残念ながら断られてしまった。その顛末(てんまつ)を王子は、なぜかうれしそうに語る。

「『皆さんに知っていただくのは嬉しいですが、これ以上、餃子の数を増やせないので』ということで。丸岡の26~28万粒はすべて都城のおばちゃんたちが工場でつくっていて、もう人手が足りないそうなんです」

続いて王子とタッグを組む、小野寺さんが付け加える。

「丸岡は、賞味期限4日間の生餃子しか売ってません。ビジネスを考えたら、長持ちして販路も広がる冷凍餃子がいいに決まっているのに、新鮮な肉や野菜の味を楽しんでもらうために生餃子にこだわり続ける。それはすごいことだと思うんです」

利潤よりも味が大切。ここにきて、宮崎餃子の素晴らしさが腑に落ちてきた。

王子は移住直後から県庁、市役所に出向き、担当者に「宮崎餃子をPRするために予算を確保してください」と陳情した。だが、「宮崎には牛、鶏、野菜とPRするものがたくさんあるので、餃子まで手が回りません」とあっさり却下された。それでも粘ると、「日本一になったら、検討してもいいですよ」と言われた。担当者もまさか日本一になると思っていない。

だが、宮崎餃子の底力を知るふたりは、あの手この手で地元の意識を変えようとする。

“よそ者”が売り込んだ餃子の魅力

その皮切りとなったのが、2018年の「宮崎ストリート餃子フェス」。続いて王子は高視聴率を誇る宮崎のローカル番組『つづくさんのどようだよ(^^)』に出演。番組内で「それなら宮崎餃子を盛り上げる、餃子王子になってください」とお願いされ、晴れて王子を襲名することになった。

地元での活動だけではない。王子は東京のメディアを通じて宮崎餃子を売り込んだ。宮崎が盛り上がるプロ野球キャンプに絡めて、スポーツメディアに餃子の記事を載せてもらったこともある。小野寺さんも2020年3月30日、人気番組『マツコの知らない世界』のお取り寄せ餃子の回で、宮崎餃子を猛プッシュした。

2018年に開催された「宮崎ストリート餃子フェス」の模様。餃子を30分間、焼き放題・食べ放題、1ドリンク付き1,500円という魅了的なイベントだった 写真提供=宮崎ギョーザ王子
2018年に開催された「宮崎ストリート餃子フェス」の模様。餃子を30分間、焼き放題・食べ放題、1ドリンク付き1,500円という魅了的なイベントだった 写真提供=宮崎ギョーザ王子

ローカルと全国区の、したたかな両面作戦。それは功を奏した。

王子が言う。

「宮崎県の県民性なんでしょうか。盛り上がってくるとみんなが集まってきて、県外の人にほめられたりするとすごく喜んでくれるんです」

ああ、わかる気がする、と岐阜の田舎で育った私は思う。

自分たちのいいところを、自分の口から言うなんてみっともないこと。だれかにほめられて、おずおずと腰が上がる。勢いが出てくるまで、なんやかんや手間がかかるのだ。

お節介な東京のマニアに「すごいんだよ、すごいんだよ」と言われ続けて、市民、県民は次第に本気になっていく。そしてふたりの予想よりも早く、宮崎は日本一になった。

これにはコロナの影響が無視できない。

毎年2月に発表されるランキングは、総務省の家計調査をもとにしたもの。カウントされるのはスーパーや持ち帰り専門店のチルド餃子だけで、冷凍餃子や飲食店で食べられる餃子は含まれていない。もともと宮崎餃子が強かったところだ。

ふたりのPRで徐々に地元の熱が高まってきたところに、コロナ禍の「ステイホーム」が始まったことで、宮崎市民はいつも以上に家で餃子を食べるようになった。

コロナ前から上向いていた購入額、購入頻度は大きく上向き、宇都宮と浜松を一気に抜き去ってしまった。

「餃子に人生を支えてもらった」

宮崎餃子の日本一。火をつけたのはふたりのマニアだったが、この地には長く餃子を大切にしてきた生産者がいる。

冒頭の報告会であいさつをした、宮崎市ぎょうざ協議会会長の渡辺さんもそのひとり。

「協議会は2019年9月に設立されたのですが、会長には自分から立候補しました。というのも、私は卸の餃子屋の家に生まれ、餃子に人生を支えてもらったという思いが強かったからです」

餃子に恩返しをしたい。その一心で奮闘するうちに、宮崎餃子は日本一になり、一日3、4件の取材をこなす目のまわるような日々を過ごしている。

個性的な面々が集う宮崎市ぎょうざ協議会の会長を務める渡辺愛香さん。王子によれば「渡辺さんだから協議会が一つになれた」という 写真提供=本人
個性的な面々が集う宮崎市ぎょうざ協議会の会長を務める渡辺愛香さん。王子によれば「渡辺さんだから協議会が一つになれた」という 写真提供=本人

マニアのお節介がきっかけで、地に足をつけていい仕事をしてきた人たちが報われるというのは、なんだかとてもいい話だ。

念願の日本一がかなっても、王子にはまだまだ伝えたいことがあるらしい。

「今回、日本一になったのは宮崎市ですけど、宮崎市だけがすごいわけじゃない。県全体で餃子が愛されていて、とくに高鍋町の人たちは、もう信じられないくらい餃子ばかり食べているんです」

王子の餃子熱は一向に冷める気配がないのである。

バナー写真:宮崎ギョーザ王子もぞっこんの『ぎょうざの丸岡』の餃子。冷蔵のみの販売で50個入り1,300円。味もコスパも抜群だ 写真提供=宮崎ギョーザ王子

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