ラグビー熱をもう一度!「トップリーグ」から名称変更、前途多難の船出となった「リーグワン」の1年目を総括する

スポーツ

「トップリーグ」から名称変更したラグビー「リーグワン」の初年度が幕を閉じた。ラグビー界のプロ化、さらなる人気向上、日本代表の強化などを目指して行われた改革は、コロナ禍の影響や運営サイドのドタバタもあり、必ずしも順風満帆ではなかった。リーグ1年目を検証して明らかになった改善点とは——。

リーグワン初代王者は埼玉パナソニックワイルドナイツ

2022年、日本のラグビー界は新たな船出を迎えた。

企業名を冠にしたチームで構成され、03年から行われていた「トップリーグ」から、地域名を押し出し、地域とのつながりをより重視する「リーグワン」へと再編されたのだ。

3つのディヴィジョンにわかれ、合計24チームが参加するリーグ戦は1月に始まり、5月29日のプレーオフ・トーナメントの決勝で、埼玉パナソニックワイルドナイツが東京サントリーサンゴリアスを18対12で破って初代王者に就いた。

決勝に進んだ両チームは稲垣啓太や山沢拓也(ワイルドナイツ)、流大(ながれ・ゆたか)に中村亮土(りょうと、サンゴリアス)など、ともに日本代表候補選手が多数プレーしている強豪。決勝では鉄壁のディフェンスを誇るワイルドナイツが、リーグワンで最多得点をあげるなど、攻撃力が特徴のサンゴリアスを見事にノートライに抑えた。彼らの強固なディフェンス・システムは、世界基準を十分に満たしていると感じられた。

敗れたとはいえ、サンゴリアスの中では、フルバックのダミアン・マッケンジーが強く印象に残った。

オールブラックスに選ばれたこともある花形スターだが、ビッグゲームになればなるほど、献身的なプレーを見せる。その姿勢は、ラグビーにおけるスターが個人技で魅了するだけでなく、チームの利益を最大化できる存在なのだということを改めて示してくれたように思う。

プレーオフ決勝でも活躍を見せたNZ代表のダミアン・マッケンジー。一昔前なら考えられなかったスター選手が日本でプレーしている 時事
プレーオフ決勝でも活躍を見せたNZ代表のダミアン・マッケンジー。一昔前なら考えられなかったスター選手が日本でプレーしている 時事

ラグビーを事業として成功させる難しさ

グラウンドからビジネスへと視点を移すと、リーグワンはどう見えてくるだろうか。

リーグワンがトップリーグと大きく異なるのは、チケット販売や会場の設営などをラグビー協会ではなく、各チームが興行権を持って自分たちで行う点だ。それぞれのチームがラグビーを切り口に事業をどう成功させるかが問われるため、独自の経営戦略が必要となる。22年は、いわば日本の「ラグビービジネス元年」とも考えられる。

リーグワンの決勝が行われた5月29日、東京の神宮外苑周辺では奇しくも3つのスポーツイベントが行われ、人の波でごった返していた。東京体育館でバスケットボールBリーグのチャンピオンシップ・ファイナル第2戦、神宮球場で東京六大学野球の早慶戦、そして国立競技場ではリーグワンの決勝だ。

観客動員数はBリーグの6874人、早慶戦の1万8000人(主催者発表)に比べ、リーグワンは3万3604人と、会場の規模の違いはあれど予想以上にラグビーが人を集めていた。

もちろんワイルドナイツ、サンゴリアス両チームが、リーグ戦での観客動員ランキングでも1、2位を誇る人気チームということもあるだろう。だがそれだけでなく、両チームとも「いかにラグビーを事業として成功させるか」を追求し、独自の路線を歩んでいることがこの集客につながったのではないかと感じる。

優勝したワイルドナイツは、リーグワン開幕後の4月1日に「パナソニック スポーツ株式会社」を設立。パナソニックグループのコーポレートスポーツチームであるワイルドナイツとパナソニック パンサーズ(バレーボール)にガンバ大阪(サッカー)を加えて事業化し、各チームの強化と運営、ホームゲームでの興行などを始めている。

注目すべきは、彼らが進める「ホストタウン」化だ。

昨年8月、練習グラウンドを群馬県太田市から、ラグビーワールドカップが開催された埼玉県熊谷市に移転して「ホストタウン」として定めると、9月にはスタジアムを見下ろす「熊谷スポーツホテル」を開業。今年3月には、整形外科、リハビリテーション科を備える「ワイルドナイツクリニック」を敷地内に開院した。選手の治療はもちろんのこと、ワイルドナイツ以外のアスリートや周辺住民らの治療、リハビリなどを支援していくという。

一方のサンゴリアスは、「ハイブリッド型」経営を標榜している。

トップリーグ時代にサントリーホールディングス内でサンゴリアスを管轄するのは、企業の社会的責任(CSR)の部署だったが、リーグワンの発足を機に、管轄は新設のスポーツ事業推進部に移った。

田中澄憲ゼネラルマネジャーは開幕前、次のように話していた。

「これまでのような年間予算の中での運営から、今後は自分たちで事業性を確立することになりました。完全プロ化ではなく、従来の実業団スポーツとのハイブリッドのような形でしょうか。目指すべきは、企業スポーツの継続可能なモデルをつくることです」

ワイルドナイツのように完全プロ化を謳(うた)うチームもあれば、サンゴリアスのように親企業との適切な連携を継続するチームもある。

現時点ではどちらが正解かはわからない。だが、今後各チームがどのようなビジネスモデルを作り上げることができるのかが、日本のラグビー界にとって非常に重要となってくるはずだ。

どのチームかわからない!

リーグワンでは、様々な問題も浮き彫りになった。まずなにより、チーム名が分かりにくい。報道などで省略表記される次の5つのチームについて、正式名称を答えられる人はどれくらいいるだろうか?

  • BL東京
  • BR東京
  • 東京SG
  • S東京ベイ
  • SA浦安

正解は次の通り。

  • 東芝ブレイブルーパス東京
  • ブラックラムズ東京
  • 東京サントリーサンゴリアス
  • クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
  • シャイニングアークス東京ベイ浦安

興行権がチームに移ったことで人口が多い首都圏にホームタウンが集中し、差別化がしづらくなった。ニックネーム(略称)と実際のチームとがすぐに結びつかないので、すぐにもリーグ側とチーム側で話し合い、分かりやすい略称を考えてほしい。

皮肉なのは、海外出身の監督たちが会見で相手チームをニックネームではなく、「サントリー」や「パナソニック」、「東芝」などと旧チーム名で呼んでいたこと。実際その方がファンに伝わりやすく、私もリーグワンの報道では、現在のチーム名にかつての企業名も併記しても構わないのではないかと思ったくらいだ。

コロナ禍への対応にも、疑問符が付いた。開幕前、リーグワンは「コロナの感染はコントロールできる」という方針のもと、試合開催に必要な登録メンバーがそろえられない場合は不戦敗となる方針を打ち出した。

結果として予定された96試合のうち18試合が開催されず、事業としての成功を目指す各チームには大きな痛手となった。

グリーンロケッツ東葛の梶原健代表は、『ラグビーマガジン』(ベースボール・マガジン社)7月号で次のように語っている。

「8試合しかないホストゲームのうち、1試合が中止になりました。代替試合すらない。ここは改善の余地があると思います。ホストゲームはチーム経営において生命線です。(中略)スポンサーには、その試合の開催時の広告露出などを約束しています。中止とするのがどれだけのことか認識して欲しいですね」

静岡ブルーレヴスにいたっては、ホストゲーム4試合が中止になった。

2015年のラグビー・ワールドカップで一躍時の人となった五郎丸歩氏は、現在ブルーレヴスで「クラブリレーション・オフィサー」のポジションに就いている。

「お客さまをお迎えできなかったことが残念でしたし、申し訳ない気持ちでした。実際にチケット代金の払い戻しの作業をするのは、つらかったです」と、胸の内を話してくれた。

ホストゲームの中止は、チームにとっては収入源の喪失を意味する。来季以降、リーグワンがどのようなレギュレーションで運営していくのかは気になるところだ。

キックルーティンのポーズで一世を風靡した現役当時の五郎丸氏。現在はチームのマネジメント側で活躍する 時事
キックルーティンのポーズで一世を風靡した現役当時の五郎丸氏。現在はチームのマネジメント側で活躍する 時事

熱を生み出すリーグにするために

事業としての成功という高いハードルを前に、残念ながら初年度終了後に撤退や縮小を決めたチームもある。

NTTドコモレッドハリケーンズ大阪は、NTT内でのチーム再編に伴い、来季以降からの活動縮小が決まった(現体制でのラストマッチは新型コロナの影響で中止となり、しかもキックオフ2時間半前に中止を発表するという不手際がリーグ側にあった)。

現在の日本代表のヘッドコーチを務めるジェイミー・ジョセフがかつてプレーした宗像サニックスブルースは、3部にあたるディヴィジョン3に所属していたが、活動中止を決定した。収入の点からも、観客が集まりやすいディヴィジョン1(1部)に所属していなければ、チーム運営はままならない。何らかの改善がなされなければ、昇格・降格を繰り返すチームが運営から手を引いてしまうリスクは、この先も残るだろう。

こうして振り返ってみると、正直なところ、リーグワンの船出は課題ばかりが目立ってしまった。それでも各チームは、スタッフの数を充実させ、ファンを獲得し、満足度を上げるために様々な施策に取り組んできた。

運営側のガバナンスやマネジメントが改善されれば、リーグとして発展するチャンスはまだ十分にある。コロナ禍によって今年は情勢が厳しかったが、この経験をしっかり来年に生かしてもらいたい。

来年、2023年は、ラグビーワールドカップ・フランス大会が開催される。日本代表の試合はきっと盛り上がるだろう。

だが一方で、このままでは日本のラグビーはワールドカップが開かれる「4年に一度のコンテンツ」として定着してしまうのではないかと、私は危惧している。野球やサッカーのように、身近で、人気があるプロスポーツとして定着するためにも、リーグワン全体を発展させ、ホストタウンのファンが地元チームの勝敗に一喜一憂するような「熱」を生み出したい。

ラグビーと同じように、人気の定着を目指して発足したバスケットボールのBリーグを見ると、今季準優勝に終わった琉球や、準決勝でその琉球に敗れた島根のホームタウンでは歓喜と失意が交錯し、来季への期待につながっている。

リーグワンがこれからどんな「熱」を生み出せるのか、しっかりと見守っていきたい。

バナー写真:プレーオフ決勝で東京SGを破り、リーグワン初代王者となって喜ぶ埼玉の選手たち(2022年5月29日、東京・国立競技場) 時事

ラグビー ラグビートップリーグ リーグワン 埼玉パナソニックワイルドナイツ