【カタールW杯】初戦ドイツ戦がすべて──サッカー日本代表「ベスト8」の可能性とキープレーヤーとは

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11月20日に開幕するサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で、日本代表は7回目の出場にして初のベスト8を狙う。だが、日本が入ったグループリーグEには、優勝経験を持つドイツ、スペインに加え、ベスト8経験のあるコスタリカが待ち受ける。決勝トーナメント進出の行方を左右する初戦で、日本はドイツとどう戦うか。そして鍵を握る選手は誰か。

目指すは悲願のベスト8

サッカー日本代表には著しく飛躍してきた歴史がある。

1998年フランス大会でW杯に初出場して以来、前回ロシア大会までの20年間、グループリーグを突破したのは3回。つまりこのアジアのサッカー新興国は2大会に1回のペースでラウンド16に進んでいるのだ。最高位はベスト16ながら、それでも成長のスピードは驚異的と言っていい。中米の雄であるメキシコ代表でさえ、グループリーグ突破を果たしたのは初出場から7大会目だったのだから。

日本のFIFAランクはアジア2位の24位にとどまっているとはいえ、代表メンバーのほとんどが欧州でプレーするようになった。冨安健洋(とみやす・たけひろ/アーセナル)、鎌田大地(だいち/フランクフルト)、久保建英(たけふさ/レアル・ソシエダ)らの活躍は注目され、世界から警戒の目を向けられる位置づけになっているのは確かだ。

元日本代表でもある森保一(もりやす・はじめ)監督が掲げる目標は、初のベスト8進出だ。しかしながら、かなり難関なミッションになってしまった。というのも、日本が入ったグループEには優勝候補の一角を担うスペイン代表(FIFAランク7位)とドイツ代表(同11位)が同居。かつプレーオフを勝ち上がってきたコスタリカ代表(同31位)も前々回のブラジル大会ではベスト8まで進出しており、その堅守には日本も相当に苦しめられるはずだからだ。

だが突破の可能性が決してないわけではない。実現のためには、大きく3つのポイントがある。

多彩なタレントがそろうドイツ代表の注目株は弱冠19歳のジャマル・ムシアラ(左)。ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンに所属し、17歳でブンデスリーガ初出場を果たした(2022年6月7日、ドイツ・ミュンヘン)時事
多彩なタレントがそろうドイツ代表の注目株は弱冠19歳のジャマル・ムシアラ(左)。ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンに所属し、17歳でブンデスリーガ初出場を果たした(2022年6月7日、ドイツ・ミュンヘン)時事

準備時間の短さをメリットに

これまでのW杯と何が違うかと言えば、直前の準備期間がとても短いことだ。欧州の主要リーグは、英プレミアをはじめ11月12・13日の試合を終えて中断し、W杯期間に入る。日本の初戦となるドイツ戦(23日)まで10日間ほどしかない。この状況を森保監督はマイナスに受け止めていない。いや、むしろプラスに捉えている。彼は以前、このように語っていた。

「日本人選手は適応能力が高く、目の前のことに向けて協力しながら合わせていくことができる。すぐに同じ絵を持てる能力って言うんですかね。準備期間がないとしても、準備力のメリットを生かせれば、逆にパワーに変えられるんじゃないか」

強がりなどではない。

日本はアジア最終予選の戦いにおいて、長距離移動と時差という難問に常に向き合ってきた。欧州でプレーする選手が多数を占める中、集合しても準備期間が短いために2連戦のうち最初の試合はどうしてもパフォーマンスが上がっていかないという課題がつきまとった。だがW杯出場を決めた3月のアウェー、豪州戦は集合してすぐの試合ながら、攻守ともにアグレッシブな姿勢を示して2-0と快勝している。事前にスカウティング情報などを選手それぞれに伝えるなどして「短い準備期間」のデメリットを克服したのである。

この成功体験は、格上のドイツ代表に対しても適用できる。初戦でアップセットを起こせれば言うことなしだが、たとえ結果がついてこなくても初戦で良い入り方ができれば、それはきっと2戦目、3戦目に生きてくるはずだ。

戦い方にバリエーションを

第2戦(27日)はGKケイラー・ナバスを中心にした堅守速攻のコスタリカ代表と、そして第3戦(12月1日)はペドリ、エリック・ガルシア、フェラン・トーレスら若手が台頭するスペイン代表と対戦する。

東京五輪サッカー準決勝でスペインの注目の若手・ペドリ(左)と競り合う久保建英(2021年8月3日、埼玉スタジアム)時事
東京五輪サッカー準決勝でスペインの注目の若手・ペドリ(左)と競り合う久保建英(2021年8月3日、埼玉スタジアム)時事

格上のドイツ、スペインに対してはボールを相手に持たれ、守備の時間が長くなることが想定される。それだけに9月の国際親善試合、米国戦で見せたように、前線からの連動したプレスで相手のミスを誘い、ショートカウンターに転じる戦い方をベースに置くことになるだろう。

それにはコンパクトな陣形を維持することが大切になる。味方との距離を近づけることで組織としてボールを奪いやすくし、「守から攻」に転じる際も、組織として前に向かえることでチャンスが広がる。押し込まれるとどうしても失点のリスクが高まり、攻撃においても前に出にくくなる。なるべく下がらずに、高い位置でボールを奪うことができるかどうかがポイントになる。

大切になってくるのが、1トップの人選。米国戦では、前に後ろに激しくボールを追える前田大然(だいぜん/セルティック)が大きな役割を果たした。本番には誰を起用するだろうか。

また、第2戦のコスタリカ戦では、日本が多くボールを持つことになるだろう。当然ながら守備の時間より攻撃の時間が長くなり、対ドイツ、対スペインとはまた違った戦い方が要求される。

日本は守備に特色のあるチームとの対戦を得意としていない。思い出すのが、前々回のブラジル大会での第2戦、ギリシャ戦である。コートジボワールとの初戦を1-2で落として後のない状況だった。ギリシャは前半に1人退場して、全員で引いて守った。日本は7割近いボール保持率を誇ったものの、結局ギリシャの守備をこじ開けられないまま、スコアレスドローに終わっている。

引いて守備を固めてくる相手からどのように点を奪うか。ラウンド16に進むためには、日本よりランキング下位に位置するコスタリカからしっかりと勝ち点3を取っておく必要がある。

メンバー26人を駆使して戦う

今回のW杯がこれまでと違うのは、開催時期だけではない。登録メンバーが23人から26人に増え、1試合の交代枠も3人から5人になる。層の厚いチームへ有利に働くルールにはなるが、いずれにせよメンバーを有効活用できるチームが勝ち進んでいく可能性が高い。メンバーを固定化して戦うとしても、試合間隔が中4日ではなく、中3日であることでリスクを伴う。日本はハードワークを信条とし、100%以上の力を出さないと突破できないグループで戦うだけに消耗度も大きいはず。多少なりともメンバーを入れ替えながら戦っていく道こそが、ベストではないだろうか。

18年7月から日本代表を率いる森保監督(左から2人目)。カタールW杯は4年以上に及ぶ代表活動の集大成となる(2022年9月27日、ドイツ・デュッセルドルフ)時事
18年7月から日本代表を率いる森保監督(左から2人目)。カタールW杯は4年以上に及ぶ代表活動の集大成となる(2022年9月27日、ドイツ・デュッセルドルフ)時事

ドイツ、スペインに対しては守備の時間が長くなり、一方でコスタリカに対しては攻撃の時間が長くなる。対戦相手に合わせた人選と戦い方のバリエーションが必要になるが、ここは森保監督の腕の見せどころになる。

彼が26人のメンバー全員に求めているのは、“チームのため”を優先できるマインドである。

「個の特長や優れている部分を出させてあげたいが、それだけで戦うわけではありません。個を発揮しつつ、周りと協力しながら組織力を発揮していけるのが日本の強み。日本代表のために戦えるかどうかが前提で、そこは選手たちにも求めていくところ」

組織として団結し、一体感を持って戦うことができれば、難関突破の可能性は高まるはずだ。

キープレイヤーは冨安・鎌田・久保

上記のポイントを踏まえて、日本のキープレーヤーを3人挙げるとすれば、1人はセンターバックの冨安健洋(24歳)。パワー、スピード、テクニックすべてを併せ持った現代的なディフェンダー。コンパクトな陣形の先導役となるだけでなく、後方からのパスからチャンスを生み出すこともできる。

11月3日のUEFAヨーロッパリーグ・チューリッヒ戦で右太ももを痛めて負傷交代。けがの状態が心配されるが、所属チームのアーセナル公式サイトは、W杯には出場可能との見方を示している。

2人目は、フランクフルトでゴールを量産している絶好調の鎌田大地(26歳)。何より、どのポジションであってもシュートチャンスを生み出せる強みがある。先の米国戦ではゴールを決めた一方でいくつか決定機も逸していたが、あれだけシュートに持ち込んでいること自体が彼の非凡な才能を物語っている。

最後の1人は、レアル・ソシエダに所属する久保建英(21歳)。このところスペースに出ていくプレーなど幅を広げており、一気に進化を遂げてきた印象がある。キックの精度も高く、セットプレーのキッカーとしても期待がかかる。

彼らが存分に力を発揮してアップセットを起こせるか。ラウンド16に進出できれば、日本代表は新たな歴史の1ページを開くことになる。

バナー写真:国際親善試合の日本−米国戦で先制ゴールを決めた鎌田大地(手前)を祝福する(右から)冨安健洋、久保建英ら日本イレブン(2022年9月23日、ドイツ・デュッセルドルフ)時事

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