台湾で盛り上がる大河ドラマブーム!——「鎌倉殿の13人」の日台同時配信が視聴の在り方を変えた

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台湾の日本ドラマファンは、戦後、違法ビデオや衛星放送、ケーブルテレビなどを通して作品を楽しんできた。2022年、ストリーミング配信によって大きな変化が起きる。台湾でも日本のドラマが同時に、言葉の心配もなく視聴できるようになったのだ。さらに人々のニーズが、分かりやすい恋愛ドラマから、歴史の知識が必要な大河ドラマに広がってきた。「鎌倉殿の13人」が変えた台湾の視聴文化を紹介する。

NHKは2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の日台同時配信が、どれほど反響があったのか知っているだろうか?筆者の周りの日本史ファンによれば、

「ドラマで鎌倉幕府を追い続けた1年間は、まるで当時にタイムスリップしたように感じた。自らの目で血なまぐさい権力闘争と、人生のやるせなさを見てきたようだった」

私のような熱烈な日本ドラマファンにとって、2022年は非常に重要な1年だったと言える。日本の視聴者と同じように、毎週日曜日の同じ時間にドラマを見られたのだ。これほどうれしいことはなかった。

「篤姫」旋風でも超えられなかった時差の壁

近年の台湾では、欧米や韓国、中国の作品人気に押され、日本ドラマのファンはもはや多数派とは言えない。しかしそれでも熱烈なファンは多い。一昔前は、日本のドラマが見たければ、台北市内にあった中華商場で違法ビデオを利用するしかなかった。レンタルビデオ店に置いてある作品はほとんどが海賊版。字幕がおかしなものもあれば、何度もレンタルされて画質が悪いものも多かった。

その後、通称「小さな耳」と呼ばれたBSアンテナを設置して、NHKの放送をリアルタイムで視聴できる時代がくる。しかし番組は見れても日本語が聞き取れなければむなしいだけである。特に毎週日曜日の大河ドラマは高度な日本語力が必要だ。

「今年の大河ドラマは出来が良い!」と評判を聞いても、中国語の字幕なしには到底無理。台湾の日本ドラマファンにとって、大河は神の領域だったのである。

2000年頃になると、衛星チャンネルとケーブルチャンネルが登場する。すると正式にライセンスされた日本ドラマも続々と上陸してきた。ほとんどが恋愛ドラマだったが、中にはNHKの朝ドラ「おしん」のように何度も再放送されたものや、中国語や台湾語に吹き替えて放送されるものも出現した。私の母の世代は「おしん」のストーリーをほとんど暗記している。台湾ではおしんは「阿信」と訳され、苦労人の代名詞になっていた。

本格的な大河ドラマブームの到来は日本で2008年に放送された「篤姫」からだ。台湾では09年に日本の番組に特化した「緯来日本チャンネル」で放送された。台湾中に鹿児島旅行ブームが巻き起こり、週5日2カ月間で放送が終了すると、人気の高さからすぐに夜8時のゴールデンタイムで再放送された。その後も「民視チャンネル」でも2回放送。緯来日本チャンネルでは2016年まで繰り返された。

日本で2010年放送の「龍馬伝」でもブームが起こった。日本で最終回を迎えた週から台湾での放送が始まり、今度は台湾中が龍馬熱に浮かされた。ただ、「篤姫」にしろ「龍馬伝」にしろ、日本での放送からほぼ1年遅れで、待ちきれない人は中国の違法サイトでアップロードされた動画を視聴。画質の悪さやネットワークの安全性に不安があるばかりでなく、なんと言っても著作権を無視している点でダメだろう。当たり前だがファンの多くは違法サイトで視聴していない。

ストリーミングで再燃した大河ドラマ熱

その後も、台湾では日本から1年遅れで大河が放送されたが、次第にファンは盛り上がらなくなり冷めていった。そんな中、2022年に台湾のインターネットストリーミング大手の「KKTV」と、IPTVサービスを展開する「中華電信MOD」が毎週日曜日に「鎌倉殿の13人」を日本と同時配信を発表。ニュースは瞬く間にファン中を駆け巡った。

台湾でも脚本を担当した三谷幸喜さんは人気が高く視聴率も好調。その上、人気俳優の小栗旬さんら豪華なキャストが名を連ねている。ファンにとってはうれしいことずくめで、大河ドラマ熱が再び沸き起こったのだ。お金を払えば正規版の大河ドラマをリアルタイムで見られる。しかも高画質で字幕も完璧。私は大河ファンの友人らと、これこそファンが待ちわびた正義の形だと喜び合ったのだった。

台湾のファンにとって、鎌倉時代について、それほど詳しいわけではない。しかし、三谷幸喜さんの作風はファンに好評だった。大河の伝統を守るべきか、新しい境地を切り開くべきかという議論は台湾でも起こったが、ネットの声を見る限り反応は良好だ。NHKと台湾のストリーミング配信の提携モデルは、2022年にかなりの成果を出したと言える。

大河ドラマの同時配信を始めた中華電信MODは、2022年第4期に加入者数が204万人を突破した。一方、元々、日本ドラマに強かったKKTVは、新型コロナウイルスの流行が始まった2020年末に、サイト閲覧数とトラフィックが170%に成長したとのデータを発表した。同年4月、台湾最大の違法サイト「楓林網」が当局に摘発されサイトが閉鎖。さらに7月には、台湾で通信や放送事業を監督する「国家通訊伝播委員会」(NCC)が「インターネット視聴サービス管理法」(網際網路視聽服務管理法)の草案を採択する。これらの理由から視聴者がKKTVに流れてきたと考えられる。視聴スタイルはスマートフォンやタブレットの小さい画面から、Apple TVやAndroid TVなどを介した大画面に変化しているそうだ。

また、KKTVは視聴行動を分析し「外国語学習機能」をリリース。2カ国語字幕を表示できるデュアル字幕機能が利用でき、加入者は右肩上がりで増加している。同社がユーザー2500人を対象に実施したアンケート調査によると、9割以上の会員が「外国語学習機能は勉強に役立つ」と回答、6割が「新機能には追加課金したい」と答えている。外国語学習のニーズに応えるため、倍速再生機能に0.75倍と0.5倍も選択できるようにしている。

字幕機能の充実で視聴者の好みにも変化が現れるようになった。これまで台湾で人気があった日本ドラマのジャンルのトップは、あまり深く理解しなくても共感しやすい「ラブストーリー」、次いで「お仕事ドラマ」だった。しかし、コロナ禍の2021年は、トップこそ「ラブストーリー」で変わらないものの、2位に「コメディ」が登場した。

「鎌倉殿の13人」の成功と「どうする家康」への期待

KKTVは毎年、その年を代表する日本ドラマ大賞「Kドラマ大賞」を発表している。人々の好みだけでなく表彰でも変化があったようだ。台湾で同時配信した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が視聴者投票でフジテレビ制作の「Silent」に次ぐ2位を獲得。また、日本ドラマファンのコミュニティーで影響力がある12人のKOL(Key Opinion Leader / インフルエンサー)が選ぶ2022年最優秀作品に選出されたのだ。さらに、北条義時を演じた小栗旬さんは主演男優賞を、三谷幸喜さんは最優秀脚本賞を受賞。監督も最優秀監督賞の2位に輝いた。「知識ゼロから楽しめる日本史ドラマ」を合言葉に始まった大河ドラマ同時配信によって、ストリーミング配信が普及しドラマは高評価を獲得した。

「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エージェンシー」(文化内容策進院 / TAICCA)が発表した2021年コンテンツ消費動向調査によると、既存のケーブルテレビと衛星放送では、68.6%の人々が主にニュースや政治討論番組を視聴している。一方、ストリーミング配信では70.2%の人々が主にドラマを視聴しているという。また、政府系シンクタンク「資策会産業情報研究所」(MIC)が2021年にまとめた報告書によると、台湾のインターネットユーザーがストリーミング配信の利用に毎月支払っている平均額は242台湾ドル(約1060円)。世代ごとに見ると26〜30歳が65%と最も多く、次いで56〜60歳が62%。平均利用額が最も高いのが51〜55歳で、46%が毎月平均300台湾ドル以上(約1310円)をかけている。さらにその中の18%が500台湾ドル以上(約2180円)かけてもよいと回答。お金を払ってでも見たい理由として、世代ごとでは、18〜35歳のグループでは「正規版で見たい」、36歳以上では「地上波やケーブルテレビの代わり」、46〜55歳では「広告のスキップ」となった。

台湾政府が発表した視聴習慣調査報告によると、台湾のストリーミング配信業者と提携を望む日本の放送事業者が増加傾向にあるそうだ。日本側で、同時配信や週ごとの更新、繁体字字幕、デュアル字幕による外国語学習機能をリリースし、視聴のタイミングや話題性も日本とリアルタイムに共有したいからだろう。正規版で広告のスキップが可能、好きな場所で好きな時間に、多種多様なデバイスで連続視聴も繰り返し視聴もできる。従来の地上波や衛星放送と比べ、ストリーミング配信は、インターネットユーザーの視聴習慣によりフィットしたものと言える。

数々の新記録を打ち立てた「鎌倉殿の13人」に続いて、2023年は「どうする家康」の話題でスタートした。徳川家康は台湾の日本史ファンの間でもよく知られている。主演の松本潤さんはアイドルグループ「嵐」のメンバーだったこと、また脚本家の古沢良太さんが過去に台湾でも大ヒットした「リーガル・ハイ」の脚本を担当していることで、台湾ファンの間でかなりの信頼と期待を持って迎えられている。

インターネットの発展と普及で、国境や言語は取り払われ、エンターテインメントにおける新たな配信モデルが誕生した。最近、筆者は「NHK World」で番組を見ることが多いのだが、VPNのようないわゆる壁超えのソフトウェアが不要な上、クオリティーの高い繁体字字幕が付いていて、番組選択肢の自由度も高いと感じる。だが、最もうれしいのは60年の歴史がある大河ドラマがこの潮流にしっかりと乗っていることである。

バナー写真=2022年放送のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で主要キャストを務めた俳優陣。左から3人目、北条義時役の小栗旬さん、同4人目、源頼朝役の大泉洋さん(共同)

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