日台の友情を守りたい : ネット発のムーブメントと絆の強さ

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台湾の有名YouTuberが日本を紹介する動画を投稿し、台湾中で「炎上」した。しかし、日台間の友情を大切にしたい人々によって火は消し止められ、結果、関係はさらに緊密なり深まっていった。このような現象は他の国・地域でも見られるが、台湾との間では特に際立っている。背後には自ら進んで懸け橋になろうとする人々の細やかな心遣いがあった。

2023年6月、台湾のYouTuberが「日本の超まずい地雷飲食チェーン店5選(日本5家超難吃的連鎖地雷店)」と題した動画を公開した。内容は台湾で物議を醸し、瞬く間に炎上。さらに日本のテレビでも紹介され、Yahoo!ニュースでトップに取り上げられてしまった。その後、YouTuberは動画を削除し、公開謝罪している。

5選に名前が挙がったのは、「𠮷野家」「名代富士そば」「デニーズ」「ケンタッキー・フライドチキン」「なか卯」。𠮷野家は台湾にも店舗があるし、富士そば好きの台湾人も多い。動画は、これらの店を利用したことのある台湾人や、日本の文化や習慣に詳しい台湾人の怒りを買い、「日本に対して失礼ではないか」という意見も出ていた。

動画を投稿したYouTuberは、元々騒がしいイメージで知られていた。私はWBC(ワールドベースボールクラシック)の中継の途中で、そのYouTuberが出演しているCMが流れると、すぐにリモコンでテレビの音量を下げていた。今回も撮影のために公道を占領したり、一人前の料理を複数人で分け合ったり、店内で大声で騒いだり、皮肉まじりの口調で嘲笑さえも感じられるものだった。

もっともその騒がしさが人気の秘密でもあり、これまでもこのような手法で多くのファンを獲得してきたのだ。しかし今回は批判一辺倒の状況に陥ったのだった。

友情の深化は危機感の裏返し

動画の制作チームはどういうつもりだったのか。台湾人の共感を得ようと思ったのか、あるいは単なる悪ふざけだったのか。

企画段階では、これほどまで批判にさらされるとは考えていなかったのだろう。しかし、日本は台湾人にとって大人気の海外旅行先である。日本文学が好きな人もいれば、アニメやゲーム、あるいはドラマやJ-POP、さらには野球の可能性もあって、日本を好きな理由は多種多様だ。

個人旅行の人が多く、私も一人旅ではチェーン店で食事を済ますことが多い。外国人観光客にとって、注文が簡単でメニューも豊富、そして価格もリーズナブルなチェーン店はありがたい存在だ。お腹が空いた寒い夜に「松屋」のカレーライスに癒され、石田衣良さんの小説『4TEEN』やドラマ『最高の離婚』で、デニーズなどのファミレスも好きになった。だから、あの動画拡散されていくのを目の当たりにし、真っ先に思い浮かんだのは「まずい、日本人に嫌われたらどうしよう」ということだった。

たかが料理のおいしいまずいで、ここまで「炎上」することはない。YouTuberらの異文化へのリスペクトが欠けていたのはもちろんだが、なにより台湾人の日台友好への思いを甘く見ていたのではないだろうか。

今回、いち早く動き出したのはSNSで「なるみの楽しい日本語教室」を主催しているなるみ先生だった。事件発生から間もなくして、なるみ先生は「#ありがとう安くて美味しいチェーン店」「#台湾人はこれが好き!」というハッシュタグを作って、日本旅行の思い出のチェーン店グルメを書いていこうと呼びかけた。さらに、なるみ先生は「一部の人物の発言を台湾全体の意見だと思われたくありません。それなら私たちはポジティブな方法で自分の意見を言ってみましょう」とも投稿している。

私がネット上で交流がある大半の人は、いわゆる「知日派」の台湾人と「知台派」の日本人である。このような急激な「炎上」を目の当たりにするたび、私たちはいつも焦りを感じる。一生懸命火消しやフォローに回るが全く追いつかず、誤解ばかりが広がるのを恐れているのだ。

幸い私は日本語が少し読めるので、日本のニュースだけでなく、読者のコメントにも目を通している。そこで感じるのは日本と台湾の間に正式な外交関係はないものの、台湾中部大地震、東日本大震災、そしてコロナ禍の日本からのワクチン提供など、外交関係を超えた人々の友情がしっかり根付いていることだ。また、お互いの間に誤解が起きないように、細心の注意を払っているようにも思う。これは戒厳令初期に教育された日本観、つまり「抗日戦争(日中戦争)」に基づく敵意をベースにしたものとは全く異なるものと言える。

アフターコロナに起きた2つのトラブル

2023年、各国で次々と入国規制が解除されアフターコロナ時代が始まった。台湾人の日本旅行ブームも本格化したが、実は2件、トラブルが発生している。

1つ目は台湾人旅行客がインターネットで旅館の宿泊予約をしたが、無断キャンセルした事件だ。そのため、旅館側は20万円以上の損失を出したとの情報も明るみになると、ネット上で類似の「ひどい旅行者」について、さまざまな議論が噴出したのである。

ある日本人ネットユーザーが「一般的に日本の旅館が積極的にメディアに情報をリークすることはない」と言えば、議論は無断キャンセルが良くないという方向に。一方で、日本から宿泊客の情報を公開した旅館側の行動も見直すべきではないかという声が上がると、お互いの文化や習慣の誤解を解こうとするマナー関連の投稿が大量に出現。最終的には台湾人旅行客が電話で謝罪し、賠償を約束して騒ぎは収束した。

2つ目は、福岡のラーメン店を訪れた台湾人のケースだ。大人6人と子ども数人のグループだったが、元々座席が少なく子どもは入店お断りの店だった。そのためラーメンを3杯注文し、大人が順番に入れ替わり店外の子どもを世話しながら食べようとしていた。しかし旅行客らは日本語が話せなかったことから店側に事情を説明できず、入店を拒否されてしまった。それに怒った旅行客らは、Googleマップの店舗紹介で「星1」の低評価を付けたのだった。

ネット上で大きな物議を醸したが、今回も事態を鎮静化させた人物がいた。8万人以上のフォロワーがいる「台湾在住の日本人のおじさん」(以下、日本人のおじさん)が店舗と旅行客の双方から話を聞いて誤解を解いたのである。

ネット上で当事者らを特定しないよう呼びかけただけでなく、悪意があって店を出入りしたかったのではない、子どもの面倒を見たかっただけだ。日本のラーメン店側も改善すべき点があるという考えも示したのだった。

事件後、「日本人のおじさん」は一時帰国の際に自らラーメン店を訪れ、店主との会話内容をSNSで公開した。「日本人のおじさん」は、「福岡が好きな人に悪い人はいない、ラーメンが好きな人にも悪い人はいない。文化、言語、環境が違う日本と台湾だが、衝突や摩擦、誤解を経て、互いに理解し尊重することができる。それこそ真の日台友好だ」とも語っている。

「日台友好のための細心の配慮」とも呼べるこの種の自発的なフォローは非常に興味深い。普段、中国は歴史的にも台湾とは血縁関係があると声高に唱えているが、仮に同様のトラブルが発生した際、言葉が通じ合うだけに言い争いが過激化し、修復できない状況に陥るのではないだろうか。

「東日本大震災の時にもういただいている」が表す絆の強さ

台湾人の性格、生活習慣や価値観は、数百年にわたる移民と植民地化を経て形成された。台湾には、元々、住んでいた人たちだけでなく、明の鄭氏政権時代(1661~83)、清の統治時代(1683~95)、他にも台湾を植民地支配したオランダ統治時代(1624~62)、日本統治時代(1895~1945)とごく短期間ではあるがスペインによる北部支配(1626~42)、そして第二次世界大戦後に国民党政権と共にやって来た中国からの大量の移民と、文化の融合やカルチャーショックが繰り返し起きている。台湾社会はそもそも多様な人や文化によって構成されていると言える。

だが大まかにいうと、台湾人はあまり細かいことにこだわらず、日本人は比較的かしこまっていると言えるだろう。別の言い方をすれば、さまざまなルールや規則があっても台湾人は状況に応じて柔軟に対応するだけのゆとりがあるが、日本人は基本的にルールを守る。ただルールから逸脱して熱狂することもあり、ギャップの大きさから台湾人にはただただ驚くばかりだ。

戦争や日本統治時代を経験していない世代にとって、日本文化に対する好奇心と受け入れは自然発生的なもので、誰かに強制されたものではない。私は日本のアニメやゲームが両者を結びつける重要な役割を担っていると考えている。そして旅行はゲームやアニメで得た異文化知識を検証するような具体的なアクションと言えるのではないだろうか。

2021年に日本政府が台湾に新型コロナワクチンを無償提供した際、日本のニュースサイトのコメント欄には台湾のネットユーザーのコメントがあふれていたことをよく覚えている。彼らは世界的にワクチン確保が困難な中、提供してくれた日本に感謝を伝えたくて書き込んでいたのだ。そんな中、ある台湾人が台湾政府はワクチン代を支払うべきだというコメントを書き込んだ。

それに対して、ある日本人が「東日本大震災の時にもういただいている」とコメントを返していた。

後日、このやり取りは日台の絆を象徴するものとして、コロナ禍の台湾で大きな反響を呼んだ。

私の友人は仕事柄、日本に人脈があり、日台の政治経済、文化交流に大変熱心だ。少し前に台湾人に対しTSMCが熊本県に進出するにあたって周辺地域での投機的な不動産購入をしないように訴えていた。投機によって地価が急上昇し、長い時間をかけて日本人の中に育った台湾への「好感」に悪影響を及ぼすと心配していたのである。

日台関係はいつも温かい

私は日本のドラマや映画、翻訳された小説で、台湾マフィアの話題が出ると「台湾は悪いことをしたなぁ」という罪悪感に襲われることがある。

しかし台湾に長く住んでいる日本人の友人からは、「日本人にも悪い人がいる。過去の統治時代に台湾に対してひどいことをしたこともあったでしょう?」と注意される。

台湾好きの日本人は「台湾はほっとできる場所」だと思い、日本好きの台湾人は「日本は何度でも訪れる価値がある場所」だと考えていると思う。誤解があれば解けばいい、悪い点は互いに注意し合えばいい。言葉の違いを越えて、友情を守るために自ら進んで懸け橋になろうとする人が本当に多いのだ。

人間同士の心温まる交流がここにある。日台関係はいつも温かいのだ。

バナー写真=Sunrising / PIXTA

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