台湾人が東京や大阪のタワマンを現金一括払いで購入するわけ

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円安を背景に、台湾人による日本の不動産購入の流れが止まらない。購入後の物件をどのように運用するのか?資産価値が下落する不安はないのか?日本の不動産のどこに魅力を感じているのか?不動産業者や購入者に事情を聞いた。

台湾で日本の不動産説明会が好評

ある週末の朝。台湾一の高さを誇る「101ビル」にほど近いオフィスビルで、大阪・東梅田に完成予定の新築タワーマンションに関する説明会が開かれた。

台湾で開催された大阪の新築タワーマンションに関する販売説明会(筆者撮影)
台湾で開催された大阪の新築タワーマンションに関する販売説明会(筆者撮影)

50人ほどの会場の席はほぼ埋まり、「カジノ計画が進み、2025年は万博会場になる期待値の高い都市」と司会の営業マンが周辺環境を紹介。このタワマンがどれだけの資産価値を有するのか説明していた。

台湾の富裕層は財テクとして不動産を所有することに熱心で、ゲームを楽しむように売買を趣味にしている人も多い。

しかし台湾内や言語が通じる中国大陸ならまだしも、外国で資産を持つには、言葉以外のハードルも高い。それにもかかわらず、台湾人は日本を選択しているのだ。

不動産説明会を主催した「信義房屋不動産」で日本事業部の代表取締役社長を務める王茂桑さんは、

「今回の案件は、日本のデベロッパーがこれまでの私たちの実績を評価し、台湾人向けに優先的に販売権を割り当ててくれたんです」と教えてくれた。

どうやら台湾人の日本不動産購入の動きは、だいぶ前から始まっていたようだ。

購入の決め手は「報酬率」

—日本の新築タワーマンションを、日本人に先駆けて台湾人向けに販売するのが最近のトレンドのようです。どうしてそのような状況になっているのですか?

「2022年度は信義不動産の東京支社と大阪支社でほとんど同程度の営業成績でしたが、その中で大阪では8割が新築タワマン物件でした。万博開催などで開発が進み、新築物件が集中する時期だったのです。

ダイワハウスなどの建設案件も、2021年度はコロナ禍にもかかわらずよく売れましたが、2022年に入っての大型物件として、東急ブランズタワー(大阪市本町)があります。全戸数の約2割を台湾人が購入したのです。そのようなことから当社と日本のデベロッパーとの信頼関係が強まり、優先的に分譲してくれるようになりました」

—東京はどうなのでしょう。

「東京はもちろん最も人気のあるエリアですが、新築物件が少ないため、タワマン系の営業額は3~4割です。台湾では新築物件の方が資産価値は高いと考えられ、人気が集中しています。また、新築マンションは報酬率(利回り)に左右されることなく、資産価値が上がるので好まれます」

台湾人が不動産を購入する際に最も気にするのがこの「報酬率」である。例えば1000万円で購入した物件が、年間100万円の家賃収入で回せれば、報酬率は10%、10年で原資を回収できると考える。

もちろん、不動産経営はそんなに生易しいものではない。物件の管理やその費用をどうするかを考える必要がある。何より購入する不動産が、将来的に価値が上がるものなのか見極める能力も必要だ。ただ、台湾人にとって「報酬率」が購入時の最初の決め手となるのである。

台湾人購入者は、台湾と同様、都市部なら値上がりするだろうと、期待を込めて東京や大阪に投資していることが分かる。

半数以上が「現金一括」!?

日本のデペロッパーに台湾人をひいきにしている理由を聞くと、ズバリ「支払いのよさ」にあった。

「ローンを組まず、全額現金で支払いをする台湾人が全体の半数以上です。そこが歓迎される最大要因ではないでしょうか。ローンを組んだ場合、多くは金額の3~4割を自己調達し、残りの6~7割を20年、2%程度の利子で返済することが多いようです。もともと外国で不動産を持とうとする人は、資金面で余裕があることが多く、ローンを組むよりも一括支払いを選択することが多い」

—半導体受託製造で世界最大手のTSMCの進出で、熊本市周辺の不動産が高騰していることが台湾人に知られるようになりました。ビジネスに敏感な人は地方の不動産にも注目をしているのではないでしょうか?

「台湾のTSMCの下請けの中小企業からも、熊本県内の工場用地について問い合わせがあります。検討はしていますが、当社はあくまでも東京と大阪をメインにしているので、その他の都市へは、まだ積極的に紹介していません。地方の物件は、購入後に想定外のトラブルが発生することがあるからです。例えば、敷地が広く、建物が立派な中古物件でも、管理面で不備があり、役所から自己負担の修繕が必要と指導されてしまう。外国人としてはリスクが高い状況です。そうしたことから、当社は、現在は都市の新築物件に注力しています。」

日本人の発想を超えた地方の不動産活用

その後、コロナ禍のさなかに、信義不動産から大阪市内のタワマンを購入した広告会社経営のKさんに話を聞いた。

「台北市内の物件が高く売れたので、手元の資金の一部を日本の不動産に投資しようと考えました。これまで、中国とのビジネスを多く手がけてきましたが、ここにきて中台関係がギスギスしてきたため、リスク分散を考えたわけです。コロナ後はビジネスの一部を日本にシフトしようとも考えていたので、手始めに不動産購入を考えました。調べてみると、東京では1億円の物件が大阪では3~4割安いことが分かったので、オンラインで物件の内見をして、即決しました」

Kさんは、ここ1年で東京港区をはじめ都心で不動産を2つ購入した知人や、Kさんの購入体験を聞いて大阪市内の別の物件を即決購入した女性の話もしてくれた。

そしてKさんは、購入した不動産の活用方法について、次ように語った。

「日本に住む韓国人の友人に協力してもらい、湯布院温泉郷(大分県由布市)で老朽化した宿泊施設の物件を探しています。湯布院は韓国人観光客も多い人気温泉地です。昨年、友人は引退する日本人オーナーから打診され、10室ほどの温泉旅館を購入。韓国人客を中心に連日、満室状態です。私と友人は、もう少し大きく部屋数も多いホテルで、台湾人観光客を呼び込もうと考えています。すでに、知り合いの旅行会社社長などにも出資を依頼。数千万円調達できれば、1~2億円相当のホテルは購入できると思うんです」

北海道ニセコのスキーリゾートに集まるオーストラリアからの不動産購入者や、沖縄の無人島を購入した中国人など、外国人に「切り売りされる日本」を心配する声もある。

しかし、活用してくれる外国人の中に、日本のすばらしさを知っているKさんのような台湾人が多くなれば、過疎化が進む地方であっても、観光客の誘致などで新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれない。

日本人の発想を超えた日本の潜在力を見出す外国人に期待してもいいのではないだろうか。

バナー写真 : PIXTA

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