「少年A」の全記録、裁判所が廃棄:97年の神戸連続児童殺傷、家裁「運用、適切でなかった」―23年度新聞協会賞

社会

【神戸新聞】日本新聞協会は2023年度の新聞協会賞を発表し、神戸新聞社の「神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄スクープと一連の報道」(「失われた事件記録」取材班 代表・編集局報道部デスク兼編集委員 霍見真一郎)などを選んだ。1997年の神戸連続児童殺傷事件で逮捕された当時14歳の「少年A」に関する全ての事件記録が廃棄されていた事実をスクープした初報(2022年10月20日)を紹介する。一連の報道が契機となって、最高裁は各地での裁判記録廃棄の責任を認めるに至った。

神戸市須磨区で1997年、小学生5人が襲われ、2人が殺害された連続児童殺傷事件で、14歳で逮捕され、少年審判を受けた「少年A」の全ての事件記録を、神戸家裁が廃棄していたことが分かった。裁判の判決書に当たる少年審判の処分決定書や捜査書類、精神鑑定書など、非公開の審議過程を検証できる文書一式が消失した。最高裁による内規は、史料的価値が高い記録の事実上の永久保存を義務づけている。神戸家裁は「運用は適切ではなかった」とする一方、経緯や廃棄時期は「不明」としている。

関係者によると、神戸連続児童殺傷事件に関して廃棄されたのは、処分決定書▽兵庫県警、神戸地検が作成した供述調書や実況見分調書▽神戸大学の中井久夫名誉教授(2022年8月に死去)らが書いた精神鑑定書▽異例となる4人が任命された家裁調査官による少年Aの報告書-など。

裁判記録を巡っては、2018年に当時の上川陽子法相がオウム真理教を巡る一連の事件の刑事裁判記録を原則永久保存すると表明した一方、19年には憲法判断を争った歴史的な民事裁判の記録が多数廃棄されていることが判明した。少年事件でも重要な記録の廃棄が分かり、改めて司法文書の保存のあり方が問われる。

一般的な少年事件の捜査書類や審判記録は、少年が26歳に達するまでの保存が定められている。しかし、最高裁が作った裁判所の内規で、史料や参考資料となるべきものは「保存期間満了の後も保存しなければならない」とし、26歳以降の「特別保存(永久保存)」を命じている。

さらに、この内規の具体的運用を定めた最高裁通達(1992年2月7日付)は、保存期間満了後も保存する対象例として、世相を反映した事件で史料的価値の高いもの▽全国的に社会の耳目を集めた事件▽少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件-などを挙げる。

これらとは別に、成育歴などを調べた少年調査記録も、保存について同様の内規や通達がある。

一方、成人の刑事裁判記録は、記録の種類や刑の重さなどによって保管期間が法律で定められ、判決文の保管期間は100年から3年までと決まっている。

97年2~5月に起きた神戸連続児童殺傷事件では、山下彩花ちゃん=当時(10)=と土師淳君=同(11)=が殺害された。少年Aは、「酒鬼薔薇聖斗」という名で挑戦状を遺棄現場に残したり、神戸新聞社に犯行声明文を送ったりし、少年審判を経て医療少年院に送致された。逮捕時は14歳で、当時は刑罰の対象年齢未満だった。この事件は少年法を厳罰化する契機となり、2001年の改正法施行で、刑罰の対象年齢は「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられた。

少年審判は、少年の立ち直りを重視し、非公開となっている。同事件の当時は遺族は傍聴できず、記録も見られなかった。神戸家裁で審判を担当した井垣康弘元判事(2022年2月に死去)は、医療少年院送致を決めた際、社会的な影響の大きさなどから、決定の要旨を公表したが、具体的な記録の内容は現在まで明らかになっていない。

神戸家裁は、記録が永久保存にされなかった理由や廃棄された状況は不明とした上で、「当時の運用は、現在の運用からすると適切ではなかったと思われる」などとコメントした。複写も残されておらず、紛失の可能性もないとしている。

記事・霍見真一郎
バナー写真:「全国的に社会の耳目を集めた事件」などと、特別保存(永久保存)の対象例を示した最高裁通達
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