形状でも唯一無二! カシオG-SHOCKが“文字なし”で立体商標に登録、腕時計では初

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カシオのデジタル腕時計「G-SHOCK」が2023年6月、ロゴなどの文字情報なしの形状のみで立体商標に登録された。日本で立体商標が導入された1996年以来、文字なしで取得できたのはごく一部のヒット商品のみ。G-SHOCKは腕時計として初の事例で、発売40周年に花を添えた。

G-SHOCKのマスターピースが立体商標取得

「落下強度10メートル、防水10気圧、電池寿命10年」の“トリプル10”をコンセプトに、1983年に誕生したカシオ計算機(本社:東京都渋谷区)のデジタル腕時計「G-SHOCK」。唯一無二のタフネス性能は進化を続けており、誕生から40年が経過した今も世界中に熱烈なファンを持つ。

G-SHOCKは2023年6月26日、企業名や商品ロゴなどの文字情報なしの形状のみで、日本の特許庁に立体商標として登録された。しかも、長年の使用によって消費者に対して、強い識別性を発揮しているとする商標法3条2項が適用。平たくいえば「形状を見ただけで、多くの人がG-SHOCKと分かる」と正式に認められたことになる。腕時計では日本初の事例となり、カシオの広報担当者は「長年“唯一無二”をキャッチフレーズとしてきたG-SHOCKが、形状でも唯一無二と認められた」と胸を張る。

今回登録されたのは初代モデル「DW-5000C」から続く、八角形のベゼル(ガラス縁)が特徴の意匠。この角形デザインを基調に、現在も「ORIGIN」シリーズなどを展開しており、高い人気を誇っている。知財渉外部の松村聖子部長は「初代モデルはカシオにとって、まさにマスターピース。一切無駄のない研ぎ澄まされたデザインで、今でも新機能を搭載する際、このケースに収まるように開発を進めることで技術力を磨いている。誕生40周年に合わせて、ブランディングに貢献できたらと立体商標の登録にトライした」と語る。

カシオ本社にもたった一つしか残っていないG-SHOCKの初代モデル
カシオ本社にもたった一つしか残っていないG-SHOCKの初代モデル

G-SHOCKの立体商標登録を推進した松村部長
G-SHOCKの立体商標登録を推進した松村部長

ハードル高い“文字なしの立体商標”

立体商標は、立体的な形状で商品やサービスを識別できるものに商標権を認める制度。日本で導入されたのは1996年で、取得を目指す企業やメーカーは年々増えている。特許行政年次報告書によると2022年は311件の出願に対し、202件が登録された。

ただ、この数字は文字情報があるものを含めた数字。カシオの調査では、文字なしでの登録は50件ほどで、今回G-SHOCKが適用を受けた「使用による識別性」が認められたものはおそらく3件だけだという。

松村さんは「G-SHOCKも2005年に初めて立体商標を出願したが、その時に登録できたのはロゴなどの文字ありだけだった」と言う。当時で発売から20年以上が経過し、90年代には大ブームを生み出した実績があっても、乗り越えることができない高いハードルだった。

一度頓挫した文字なしでの登録へ向け、再始動したのは2020年秋。登録に向けて奔走した商標意匠室の米倉雅子さんは「一番クリアせねばならないのが、識別力の証明だった」と振り返る。そもそも腕時計のほとんどがケースとベルト(ストラップ)で構成され、大まかにいえば似た形状となるため、商標権を取得するのは至難の業なのだ。

左が立体商標に登録された、ロゴや文字なしの形状画像。黒とグレーで出願したため、色や素材をアレンジしても商標権が認められる。右が同アングルの初代モデル「DW-5000C」
左が立体商標に登録された、ロゴや文字なしの形状画像。黒とグレーで出願したため、色や素材をアレンジしても商標権が認められる。右が同アングルの初代モデル「DW-5000C」 画像提供:カシオ計算機

上段の一番左が初代モデルで、他はそのデザインを踏襲した商品
上段左端が初代モデルで、他はそのデザインを踏襲した商品

出願したのは2021年4月で、登録までは2年以上を要した。カシオでは累計1億4000万個を超えるG-SHOCKの出荷数や140カ国以上での販売実績、初代モデルと同系デザインの商品販売数などの数字に加え、過去に掲載された新聞や雑誌記事のコピーなど、大量の資料を提出。中でも識別力を示す大きな根拠となったのが、一般消費者へのアンケート調査だった。

16歳以上の男女1100人を対象に、立体商標登録に使用したのと同じようなロゴや時刻表示のない画像を提示。その結果、自由回答式で55パーセント、多肢選択式で66パーセントの人が「G-SHOCK」と認識した。米倉さんは「ロゴなどがなくても、選択式も含めて6割強が識別できるというのは、私たちにとっても予想以上の結果だった。このアンケートも含め、立体商標登録がG-SHOCKのブランド価値の見える化につながったと思う」と、成果に満足げだ。

アンケート調査や提出資料集めなど実務を担った米倉さん
アンケート調査や提出資料集めなど実務を担った米倉さん

形状のみで立体商標に登録される大ヒット商品

立体商標について調べていくと、文字なし登録の事例にはメード・イン・ジャパンを代表する商品ばかり。せっかくなので、少し紹介したい。

日本のみならず、米国や欧州でも立体商標に登録されているのが、キッコーマンの「しょうゆ卓上びん」。日本を代表する工業デザイナー・栄久庵(えくあん)憲司氏の傑作で、1961年の誕生以来、世界100カ国以上で販売している。

シンプルで美しいデザインに加え、液だれしないように注ぎ口を下向きにし、ガラス部分の上部はくびれて持ちやすく、下部はどっしりとして倒れにくいなど機能性も高い。他のメーカーのしょうゆを買った場合でも、この卓上びんに移し替える人が少なくなく、まさに「しょうゆ自体のシンボル」といえる形状だ。日本での登録は2018年で、同じ容器としては「ヤクルトプラスチック容器」(1968年から販売、2011年登録)も有名だ。

左が「しょうゆ卓上びん」(第6031041号)で、右が「ヤクルトプラスチック容器」(第5384525号) 画像:共に特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」より
左が「しょうゆ卓上びん」(第6031041号)で、右が「ヤクルトプラスチック容器」(第5384525号) 画像:特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」より

そして近年、話題になったのは明治の菓子「きのこの山」(1975年発売、2018年登録)と「たけのこの里」(1979年発売、2021年登録)。こちらはパッケージではなく、商品の形状自体が登録された特例で、やはり長年の販売実績やアンケート調査によって、高い識別力を持つと評価された。

左が「きのこの山」(第6031305号)と「たけのこの里」(第6419263号) 画像:共に特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」より
左が「きのこの山」(第6031305号)と「たけのこの里」(第6419263号) 画像:特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」より

販売数が多く、日常生活でよく目にする手頃な値段の商品が識別力を証明しやすそうだが、変わり種といえるのがホンダの小型二輪車「スーパーカブ」だ。

1958年発売という超ロングセラーで、デザインコンセプトも貫き続けている。登録された2014年時点で累計生産台数8700万台超、160カ国以上で販売された「世界で一番売れたオートバイ」だった。乗り物自体の形状では日本初の登録例で、機械工業製品としてはG-SHOCKの数少ない先輩に当たる。

世界中で走る姿を見掛けるホンダ「スーパーカブ」(第5674666号) 画像:特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」より
世界中で走る姿を見掛けるホンダ「スーパーカブ」(第5674666号) 画像:特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」より

ファンの思い出も永遠のものに

ここで紹介した大ヒット商品も全て、G-SHOCK同様に1度は登録につまづいている。登録を拒否されても、消費者がしっかりと識別している証拠となる資料をそろえたり、アンケート調査をしたりして、査定不服審判で登録を勝ち取ったのだ。存続期間のある特許などと違い、商標権は10年ごとに更新さえすれば、永遠に継続できる強力な権利。文字のない形状だけでの登録となれば、ハードルが高くなるのも納得である。

米倉さんに困難なミッションを成し遂げた感想を聞くと、苦労など忘れたように「改めてG-SHOCKのブランド価値の大きさを実感した」と述べ、さらに「WEB記事へのコメントやSNSの書き込みで、G-SHOCKファンの人たちがすごく喜んでくれたのがうれしい」と笑顔。

松村さんも海外の取引先から届いたメールを見て、「トライしてよかった」と再確認できたという。英語で“子どもの頃、誕生日プレゼントに両親が選んでくれたG-SHOCK。その思い出を呼び起こしてくれてありがとう”といった内容が記されていたのだ。そして「これからは知的財産とブランディングをつなげる動きをもっと活発にしていきたい。今回はその第一歩として、良いスタートが切れたと思う」と力強く語った。

カシオ本社のショールームにて
カシオ本社のショールームにて

撮影=ニッポンドットコム編集部
バナー:立体商標に登録された画像(左、カシオ計算機提供)とG-SHOCKの初代モデル

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