“レジャー”のつもりが“犯罪行為”…密漁が横行:罰則強化、ルール確認を!

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水産資源と漁業者の権利を守るため、密漁に対する罰則が強化されている。レジャーの際などに「ちょっとだけなら…」と魚介類を捕ると、多額の罰金が科されることもあるので、海辺に出かける際には法令や地域ごとのルールの確認が必要だ。

漁師の権利を侵す魚介類の採捕は“密漁”行為

近年、温暖化に伴う海水温の上昇といった海洋環境の変化が、日本周辺の水産資源に悪影響を及ぼしている。国産魚介類が減少する中、漁業者以外、つまり一般の人が海辺で魚や貝などを捕ることについて、国や自治体はルールの順守を懸命に訴えている。法を無視した「密漁」が後を絶たず、資源管理の上で問題視されているからだ。

そもそも海は誰のものなのか? 正解は「誰のものでもない」ということになる。海を所有したり、海面に所有権を設定したりすることは最高裁が否定している。

だからといって、自由に魚や貝類などを捕っていいというわけではない。海の利用という観点では、漁業協同組合や漁業者は、農林水産大臣または都道府県知事から漁業権の免許を受けている。つまり、それを持たない人が海で魚介類を採捕(さいほ)すれば、漁業者の権利を侵す可能性があるのだ。

漁業法では、アワビやナマコを捕ることを禁じているほか、都道府県ごとの規則でも、貝類を禁止区域で捕ったり、違反漁具を使用したりすることはできない。こうした関係法令を守らない行為を「密漁」と呼び、違反者には相応の罰則が適用されることになる。外国人についても「観光での短期滞在や就業・就学などの長期滞在といった条件には関係なく、日本人と同様の罰則が適用される」(水産庁)という。

高級食材・アワビの密漁は、最大3000万円の罰金が科される 写真:筆者提供
高級食材・アワビの密漁は、最大3000万円の罰金が科される 写真:筆者提供

一般の密漁による検挙が約9割

水産庁によると、2022年の海での漁業関係法令違反による密漁の検挙件数(速報値)は、前年比16パーセント増の1527件。21年まで5年間ほど減少傾向を示していたが、再び増加に転じ、過去数十年を見てもかなり高い水準となった。もちろん検挙数は氷山の一角であり、実際の密漁はその何倍にも及ぶとみられる。

密漁の検挙件数(海面)

注目すべきは、摘発されたのが「漁業者」か否かという点だ。04年から「非漁業者」が急増し、漁業者を逆転。非漁業者が多数を占めるようになり、22年は1329件と9割近くに及ぶ。

水産庁は「漁業者に資源管理の意識が浸透してきたのとは対照的に、無自覚な一般人による密漁が水産資源に悪影響を及ぼしている」と分析。自治体と連携しながら、密漁禁止を呼び掛けている。

新たな法令を施行、罰金は大幅増額

国は2020年12月施行の改正漁業法で、「特定水産動植物の採捕」に関する規定を新設し、アワビやナマコを捕ることを禁止した。23年12月には、シラスウナギ(13センチ以下のウナギの稚魚)を追加。個人的な消費を目的としたものであっても、数量や場所に関わらず採捕は禁止で、違反すれば3年以下の懲役または3000万円以下の罰金が科される。

さらに、漁業権のない一般人がサザエやイセエビなどを捕った場合の罰金を、従来の20万円以下から100万円以下へと引き上げた。

密漁防止へ一般の人にルールを知らせるチラシ 写真:水産庁
密漁防止へ一般の人にルールを知らせるチラシ 写真:水産庁

SNSを密漁に悪用する例も

ところが、罰則を強化しても、あまり犯罪抑止にはつながっていないようだ。アワビやナマコ、サザエといった高級魚介は闇ルートに流れ、暴力団などの貴重な資金源になっているため、密漁の手口も巧妙化。長崎県によると、改造エンジン搭載の高速艇を使用し、取締船のパトロール予定を事前に察知するなど、より「組織的・計画的」に変化している。

最近ではSNSを通じて実行役を募り、売りさばくのにもネットを利用するケースが増加。割のいい深夜バイトのはずが、知らぬ間に犯罪に手を貸していたり、お買い得をゲットしたつもりが反社会的勢力に資金を流してしまったりしないように、事前のルール確認が必要だ。

さらに、外国人による密漁も増加傾向。これまで、東京湾や伊勢湾などで、中国人らによるワタリガニの密漁が横行。北陸の沿岸部ではベトナム人を含むグループが、高級貝類などを採捕し、摘発されている。地域によっては資源に大きなダメージを受けているが、外国人へのルール周知は難しいだけに、今後は大きな課題になっていくだろう。

密漁者に狙われることもある高級貝のサザエ 写真:筆者提供
密漁者に狙われることもある高級貝のサザエ 写真:筆者提供

見逃せない“レジャー密漁”、国や自治体が対策

その一方で、水産庁や自治体も警戒するのが、家族や仲間同士で海辺での余暇を楽しみながら、その延長で犯してしまう「レジャー密漁」だ。

千葉県の漁業関係者は「浜辺でバーベキューをするグループが、海に入ってアワビやサザエなどを捕って、焼いて食べたり、禁止された漁具を使って、アサリやハマグリなどを根こそぎに捕ったりするケースがある」と憤る。コンブやワカメ、ヒジキといった海藻類も、密漁被害に遭っているらしい。

ハマグリに加え、ダンベイキサゴ(通称:ながらみ)とコタマガイ(通称:てぶつ、ひらがい)の採捕を禁ずる九十九里海岸の看板 写真:PIXTA
ハマグリなど貝類の採捕を禁ずる九十九里海岸 写真:PIXTA

国や自治体では連携して、ルール周知のための看板設置や、海辺の監視を強化している。水産庁は「都道府県ごとに密漁に関するルールが定められているため、確認してから海のレジャーを楽しんでもらいたい」と呼び掛けている。

自治体ごとのルールをみると、神奈川県ではほとんどの海域で共同漁業権が設定されており、アワビ、サザエのほか、ワカメ、コンブといった対象種を捕ることは漁業権の侵害となる。潮干狩りでは、幅15センチ以下の「熊手」はOKだが、爪の間に網がかかった「忍者熊手」や「鋤簾(じょれん)」は使用不可。愛知県では、海で漁業者以外が使える道具を、釣りざお、投網、たも網などと具体的に定めているほか、アユやボラ、シラウオといった特定の魚種には採捕禁止の期間やサイズを設定し、注意を促している。

ホームセンターやWEB通販で購入できるが、多くの海岸で使用が禁止されている「忍者くまで」 写真:PIXTA
ホームセンターやWEB通販で手軽に購入できるが、多くの海岸で使用が禁止されている「忍者熊手」 写真:PIXTA

横浜市の「海の公園」で潮干狩りを楽しむ人々。忍者くまでを使う姿が散見された 写真:筆者提供
横浜市の「海の公園」で潮干狩りを楽しむ人々。使用禁止の忍者熊手を持つ姿が散見された 写真:筆者提供

釣りにもクロマグロ規制、小型はNG

愛好者の多い釣りの場合も、「海のダイヤ」と呼ばれるクロマグロについては厳しいルールがある。国の広域漁業調整委員会の指示により、30キログラム未満の小型は採捕禁止で、他の魚種を狙って偶然釣れた場合でも、即リリースせねばならない。

30キログラム以上の大型は、1人1日1匹まで持ち帰ってもOKなのだが、スマートフォンのアプリなどを使い、国への報告が義務付けられている。2024年春から報告期間が、これまでの陸揚げ後5日以内から3日以内に短縮され、指示に従わない場合は「農林水産大臣名で指示に従うべき旨の命令が発出され、従わない場合は罰則が適用される」(水産庁)という。

さらに、時期別に採捕数量が設けられており、上限に達する恐れが出ると「釣り禁止」が公示される場合がある。実際、24年は4月6日から5月31日までは、大型クロマグロも採捕禁止期間となった。違反すれば、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が適用される可能性がある。

「知らなかった」「つい、うっかり」では済まされないので、海辺のレジャーや釣りに出かける際には、地域のルールや情報を確認しておく必要がある。特に「クロマグロをたくさん釣って一獲千金だ」などといった邪(よこしま)な考えは、もっての外なのだ。

クロマグロ釣りに対する注意喚起ポスター 写真:水産庁
クロマグロ釣りに対する注意喚起ポスター 写真:水産庁

バナー写真:北海道積丹町の密漁禁止の看板 写真:PIXTA

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