秋まで続く?日本の猛暑:6月の異常高温が引き金─豪雨災害も頻発か
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高温の海がヒーターのように
7月の平均気温は全国的に高かった。月の平均気温は平年より2.89度高く、明治の統計開始以来、最も高温になった。7月30日には兵庫県丹波市で41.2度を観測し、国内の歴代最高気温を更新。さらに8月5日にも群馬県伊勢崎市で41.8度に達し、わずか1週間で記録を塗り替えた。
今年の夏は、太平洋高気圧やフェーン現象といった典型的な夏の天候に加え、海水面の温度が異常に高くなっている特徴がある。日本周辺の海水温は7月に平均25度を超え、猛暑続きのここ数年よりもさらに1度以上高くなった。海に囲まれた日本列島は、まるで食パンがトースターの中の熱いヒーターで、両面をこんがりと焼かれているような状態になっている。
三陸沖で観測した異常な高温
6月中旬から7月上旬にかけて2週間、三重大学の練習船と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の観測船が東北地方の太平洋側で共同調査を実施した。驚いたことにこのエリアの海面温度は調査中のわずか1週間で3〜4度上昇した。三陸沖では平年を約5度上回り20度以上だった。異常な海水温の上昇は、6月からの猛暑で海面が継続的に温められたためだと考えられる。
高度約1キロまでの湿度は100%に近く、視界は時に霧で見通せない状態だった。気温上昇で空気中に水分が含まれやすくなったためだ。この時期の霧は従来、寒流の親潮による「やませ霧」で、農作物に悪影響を及ぼしていた。ところが今年は温度が上昇し、「暑いやませ霧」と称しても過言ではないほどだった。盛岡地方気象台によると2025年6月下旬の岩手県大船渡市の平均気温は23.5度と平年より4.3度も高かった。

東北沖の太平洋で観測船で気球を使い調査する三重大学のチーム=2025年6月、筆者提供
要因は温暖化が招いた6月のトリプル高気圧
猛暑の原因となっている6月の暑さを振り返ってみよう。
気象庁によると、6月の平均気温は平年より2.34度高く、統計開始以降の記録を塗り替えた。海面水温の平年差はプラス1.2度で、2024年と並んで6月としては過去1位タイだった。
この猛暑は、西のチベット高気圧、南の太平洋高気圧、北の南北傾斜高気圧の「トリプル高気圧」が同時に日本に覆いかぶさったために起きた。それぞれの高気圧から暖かい空気が日本列島に吹き下ろして気温が上昇し、6月なのに真夏並みの暑さが続いたのだ。夏に至る前に3つの高気圧がそろって日本に張り出すのは異例だ。
理由を分析すると、地球温暖化の影響が色濃いことがわかる。例えば、チベット高気圧の発達は、モンゴル付近やチベット高原の雪解けが早まり、地表が太陽光を反射せずに熱を蓄えて気温が上昇しやすくなったために起きた。
南方の太平洋高気圧が張り出したのも、フィリピン周辺からインド洋にかけての海面水温の異常な高さに起因している。さらに、北極温暖化による偏西風の蛇行が北方高気圧を形成し、日本への暖気流入を強めた。
6月中旬は夏至で、一年で最も日照時間が長い。通常、この時期の日本は梅雨で、雨雲による日傘効果によって気温上昇はある程度抑えられる。しかし今年は、この時期に高気圧が張り出して梅雨明けが早まった地域が多く、日傘効果が薄かったことで大量の熱が蓄積されてしまった。
実は気象庁は5月、黒潮の流れが弱まる兆候を発表していた。これを受け「夏の暑さは例年より穏やかになるのでは」との予測も出ていた。高温の海水を熱帯から日本近海に運ぶ黒潮の力が弱まれば、気温もある程度下がると予測されたのだ。ところが、6月の急激な猛暑がその予測を覆した。日本の陸地と周辺の海に熱が大量に蓄積され、海の温度上昇は黒潮の弱体化の影響を上回った。この影響は、8~9月も続くと予想される。
「どこでも豪雨」リスク増大
懸念されるのが豪雨災害だ。温暖化により海水温が上昇し、大気中の水蒸気量が増えているためだ。低気圧や前線が海上にある場合、海面水温が高ければ高いほど水蒸気が大量に空気中に吸収されるため、豪雨の危険性が増す。東北の海水温も急上昇しており、全国で局地的かつ激しい豪雨の発生リスクが高まっている。
豪雨には大きく4種類ある。「夕立」は短時間の局地的な雨で、比較的リスクは低い。「ゲリラ豪雨」は突然降り出し、1〜3時間持続する強い雨で、雷を伴うことも多く都市部では浸水被害が出やすい。「線状降水帯」は降雨時間が6〜12時間に及び、狭い範囲に積乱雲が連続して発生する現象で、災害リスクが非常に高い。さらに「前線型豪雨」は、広範囲に長時間降り続けるため、大規模水害の主因となる。
●豪雨の種類別特徴
夕立
- 継続時間:30分程度
- 範囲:局地的
- 災害リスク:低
ゲリラ豪雨
- 継続時間:1~3時間
- 範囲:局地的
- 災害リスク:中
線状降水帯
- 継続時間:6~12時間
- 範囲:狭い帯状
- 災害リスク:高
前線型豪雨
- 継続時間:12~24時間以上
- 範囲:広い
- 災害リスク:高

大雨で浸水した、能登半島地震を受けて建設された仮設住宅=2024年9月22日、石川県輪島市(時事)
例えば、2024年9月の能登半島の豪雨では、停滞した前線に南から暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生していた。当時の日本海の海水温は平年より最大5度も高かった。数日以上にわたり極端に海水温が上昇する「海洋熱波」と呼べる状況が起きていたのだ。高海水温による水蒸気の大量発生が雨雲の発達を促し、豪雨の規模を増大させた。
18年の西日本豪雨は、台風が日本の東へ進んだ後、梅雨前線が西日本付近に停滞した。前線による広域豪雨が起き、梅雨前線付近に南の海から暖かく非常に湿った空気が大量に流れ込み、積乱雲が発達して線状降水帯が発生。岡山・広島を中心とする西日本ほぼ全域と北海道に大雨を降らせた。
異なる現象でも、海上で暖められて大量の水蒸気を含んだ空気が日本列島に吹き込み、大量の雨を降らせたメカニズムには共通性がある。24年秋に発生したスペインの豪雨も、地中海の海面温度の上昇が引き金になった。世界中のあちこちで起きている未曽有の豪雨は、同じ理由でつながっている。
台風も異常ルート多発
台風の進路にも異常がみられる。拙書『異常気象の未来予想』でもまとめたが、従来の移動ではない「迷走台風」が増加しているのだ。反時計回りに動いたり、Uターンしたり、Zの文字のようにカクカク移動したり、「酔っ払い」のようにふらつきながらノロノロ進んだりする。こうした台風は最新技術でもルートの予測が外れがちだ。2025年7月末に関東に接近した台風9号も迷走台風だった。
迷走台風にも地球温暖化が関係している。偏西風は、南北の温度差が大きければ流れは速く真っすぐに進む。一方、温度差が小さければ遅くなり、蛇行する。今は北極の氷が解けて地面が熱を吸収するようになったことで、北極周辺と赤道付近との温度差が縮まっていて、偏西風の流れは遅く大きく蛇行するようになっている。
台風のルートは、この偏西風の蛇行の影響を受けている。偏西風が北に蛇行すると、強風域が日本のはるか北に遠ざかるため、日本付近は弱風域になって台風の動きが遅くなる。河川の流れがよどむ岩陰で、複雑に動きながら流れる落ち葉の様子をイメージするとわかりやすい。
迷走台風の顕著な例は、2024年8月下旬のノロノロした台風10号だ。当初は紀伊半島への上陸が予想されたが、太平洋上で西向きに進路を変え、九州に上陸。その後、瀬戸内海を経由して四国を通り、太平洋側に南下してから北に進路を変えて紀伊半島に上陸した。滋賀県近くで熱帯低気圧に変わるまで1週間も日本付近にとどまったため、豪雨が続き、東海道新幹線が3日間にわたって運休するなど、社会への影響は甚大だった。
台風が移動する北太平洋の西部は、黒潮海域で水温が高い。台風のエネルギー源は海の水蒸気だから、海が高温であればあるほど、そして動きが遅ければ遅いほど、台風は勢いを増す可能性が高くなる。
地球温暖化は、単に気温の上昇を起こすだけでなく、毎日の生活に影響するさまざまな気象現象に直結している。このまま温暖化が進めば、ゲリラ雷雨や線状降水帯、ノロノロ台風など私たちの生活を大きく乱す異常気象が増えていくだろう。
そんな未来は、誰も望まないはずだ。
構成:nippon.com編集部
バナー写真:PIXTA





