女子やり投げ・北口榛花─初心に返って目指す連覇【東京2025世界陸上 注目の日本選手】

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陸上競技の世界選手権(世界陸上)が9月13日から9日間、東京・国立競技場を舞台に開かれる。大会を沸かせるであろう、日本のトップ選手を紹介するシリーズの1回目はパリ五輪のトラック・フィールド種目で日本人初の金メダルを得た女子やり投げの北口榛花(JAL)。けがに苦しみながらも、連覇を目指す戦いとなる。

五輪覇者の複雑な心境

7月の日本選手権を欠場した女子やり投げの北口は、複雑な胸中だったに違いない。日本の陸上界で最も注目される立場にあって、右肘痛による欠場を余儀なくされたからだ。

出場できない歯がゆさを抱えながら、テレビやインターネットで大会を観戦した北口は何度も「感動して泣いた」という。だが、改めて気持ちを奮い立たせた。「すごくいい刺激でした。自分も腐らずに頑張りたい」

2023年の世界陸上(ハンガリー・ブダペスト)で初の頂点に立ち、昨年のパリ五輪では日本の陸上史上、女子で初となるトラック・フィールド種目で金メダルを獲得した。五輪スタジアムに設置された「勝利の鐘」を打ち鳴らした歓喜のシーンは記憶に新しい。ところが、18年ぶりの日本開催となる今回の世界陸上を控え、6月の国際大会でアクシデントに見舞われたのだ。北口は自身の交流サイト(SNS)にこう書き込んだ。

「チェコでの試合の後、右肘に違和感があり、帰国後すぐにメディカルチェックをしてもらった結果、炎症があり、日本選手権の出場を見送ることになりました」

診断結果は「右肘内側上顆炎(じょうかえん)」。ゴルフやテニスの選手にも見られる症状で、肘や手首を使い過ぎたために、肘の内側の骨の突起に炎症を起こすというものだ。幸い、世界陸上の前回覇者として日本代表に内定していたため、代表選考会の日本選手権は大事を取った。復帰戦は8月20日にスイス・ローザンヌで行われたダイヤモンドリーグ(DL)。しかし、結果は10位と振るわず、完全復活に向けて試練が続いている。

期待される「70メートル超」

北口には大会連覇だけでなく、自身初となる70メートル超えの投てきが期待されている。自己ベストは、2023年9月のDL・ブリュッセル大会でマークした67メートル38であり、これが現在の日本記録でもある。世界記録は2008年にチェコの選手がたたき出した72メートル28。70メートル超を投げた女子選手は過去に5人しかおらず、よほどの好条件がそろわなければ達成できない記録だろう。

7月7日に日本代表の記者会見に臨んだ北口は、主催者からの求めに応じ、七夕の短冊に「やりがまっすぐとびますように」と書いた。シンプル極まりない初歩的な言葉だ。だが、これが最も難しいのだろう。少しでもフォームが乱れれば、やりは思うように飛んでくれない。右肘の故障を通じて、北口はもう一度、初心に立ち返ろうとしている。その先にこそ、目指す境地があるはずだ。

選手data

  • 生年月日:1998年3月16日
  • 出身地:北海道
  • 主な成績:
    2024年 パリ五輪 金メダル
    2023年 ブタペスト世界陸上 金メダル
    2022年 オレゴン世界陸上 銅メダル

バナー写真:陸上のダイヤモンドリーグ第6戦、女子やり投げで優勝した北口榛花=2025年6月12日、オスロ(ゲッティ=共同)

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