女子中長距離・田中希実─海外強豪と切磋琢磨、上位狙う飛躍の舞台に 【東京2025世界陸上 注目の日本選手】
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2年前からプロアスリートに
このままではダメだ、との思いが強かったのだろう。女子中長距離界のエース、田中希実が豊田自動織機を退社し、米ボストンに本社を置くシューズメーカー「ニューバランス」と所属契約を結んだのは2023年4月のことだった。プロアスリートとして国際的な環境に身を置かなければ、世界の上位を争うランナーにはなれないという決断だった。
ニューバランスには同志社大学時代の19年からシューズ提供などの支援を受けており、同社の海外チームとボストンで練習を積んだことも環境を変えるきっかけになったという。
「世界を舞台に戦う経験を積むにつれて、今まで以上の成長を目指していきたいと思うようになりました。いろいろなチームや人、場所でトレーニングをしたり、世界のトップアスリートたちと同じシーズンに合わせたリズムを作ったりしていきたい」
4年前の東京五輪女子1500メートルで8位に入賞し、日本の女子中距離では1928年アムステルダム五輪の人見絹枝以来、93年ぶりの決勝進出という快挙を果たした。日本選手の中では驚異的なスピードを誇り、他の追随を許さない存在だ。
豊田自動織機も実業団屈指の強豪であり、国内の第一人者として競技に打ち込むには、十分な環境だったかもしれない。しかし、さらなる高みを目指すには、自分に対する厳しさが必要だった。退社に当たって田中は「近頃は自分自身の甘えによりハングリーさが失われてきた」と説明した。
父を専属コーチに世界転戦
専属コーチとして大学時代から指導を受ける元実業団選手の父、健智(かつとし)さんと二人三脚で世界を転戦する。ケニアや米国などで海外の選手たちと一緒にトレーニングを積んでいるのも、よりレベルの高い走りを追求するためだ。
試行錯誤は続いている。プロ転向後の2023年世界選手権(ハンガリー・ブダペスト)では5000メートルで8位に入ったが、一方の1500メートルは準決勝敗退。昨年のパリ五輪は両種目とも決勝進出を逃した。それだけに東京での世界陸上にかける思いは強い。
「パリ五輪ではフランス選手たちへの声援がすごくて、地鳴りのような歓声があった。それは勢いというか、背中を後押ししてくれるものだなと肌で感じたので、満員の国立競技場で世界陸上を走れるというのは、強みになるんじゃないかなと」
日本代表内定の記者会見でそう語った田中。地元の声援を追い風に、今回のレースを飛躍の舞台にしたいものだ。
選手data
- 生年月日:1999年9月4日
- 出身地:兵庫県
- 主な成績:
2023年 ブダペスト世界陸上 5000メートル 8位
2023年 ダイヤモンドリーグファイナル6位
2021年 東京五輪 1500メートル 8位
バナー写真:陸上のダイヤモンドリーグ第14戦の女子5000メートルで力走し、9位に入った田中希実(中央)=2025年8月22日、ブリュッセル(AFP/時事)