「VTuber」ニッポンPOPカルチャーの結節点:広がる市場、企業も個人も
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Kizuna AI、3年ぶりの活動再開
「今まで応援してくれて、復活を待ってくれていたみんなにも、もう一度好きになってもらえるように一生懸命やっていきたいと思ってます」
2025年2月26日、「Kizuna AI(キズナアイ)」が3年ぶりに活動を再開した。ライブ「hello, world 2022」の後、活動を休止していた伝説の存在だ。音楽アーティストとしての活動を宣言し、新曲を発表した。

東京・新宿のKizuna AI復活ライブ「KizunaAI Comeback Concert “Homecoming”」。最新の技術で映像が実在の立体的なキャラクターのような姿で浮かび上がる(Kizuna AI/PR TIMES提供)
Kizuna AIのデビューは9年前の2016年12月1日。自らを「バーチャルYouTuber」と名乗った。「人々の無意識下の願いがネット上に結集した結果、シンギュラリティ(人工知能が人間の知能を超える時点)が起こり、人間が思い描く理想の存在として誕生した」という設定だ。
活動再開後、チャンネル登録者数は約10万増え、307万になった(10月1日現在)。YouTubeチャンネル登録者数は、国内の主要政党の党首で最も多い国民民主党の玉木雄一郎代表の約5倍、企業では、任天堂の公式チャンネルの350万に近く、影響力の大きさを推し量ることができる。
Kizuna AIは25年9月20、21日の2日間、Zepp Shinjuku(東京)で活動再開後初のオフラインライブ「Kizuna AI Comeback Concert “Homecoming” 」を実施した。筆者が参加した2日目に、ゲストとして登場し、会場を大いに盛り上げたのは「星街すいせい」。彼女は25年2月には日本武道館でのライブを成功させ、雑誌「Forbes JAPAN」の「30 UNDER 30(世界を変える30歳未満30人)」に選ばれ、10月号では表紙を飾った。彼女もまたKizuna AIをきっかけにVTuberの世界を知った。
急増VTuber、市場が拡大
Kizuna AIの鮮烈なデビューで知られることになったVTuberは、人々の“想像性”と“創造性”に火をつけた。同じようにアバターを用いて表現する人が急増したのだ。
SNS分析のユーザーローカルの調べでは、VTuberの数は2018年3月に1000人を記録。半年後の9月には5000人に達し、20年の1月には1万人を突破、22年11月に2万人を超えた(※1)。個人集計による「VTuber統計レポート2024」によると、現在の伸びは鈍化しているものの、少なくとも6万人程度が活動していると推計する(※2)。
経済規模も拡大している。矢野経済研究所の25年4月のレポートでは、国内市場は23年度時点で800億円。25年度は1260億円と見込む(※3)。20年度比で4倍以上の伸びだ。
日本だけでなく、世界的にも市場が拡大。市場調査会社グローバルインフォメーションは24年10月のレポートで、VTuberの世界市場規模は23年に13億5000万ドル(約2000億円)で、30年までに50億3000万ドル(7000億円)に達すると予測した(※4)。

米カリフォルニア州ハリウッドで行われたVTuber森カリオペのライブ。世界各地でVTuberのライブが行われ、チケット完売が続出している=2025年2月(AFP=時事)
英語圏で人気VTuberだった「がうる・ぐら(Gawr Gura)」は4月末で活動を休止したが、直後の5月時点でチャンネル登録者数が470万人もいた。他にも、中国やインドネシア、韓国、英語圏向けのVTuberのグループがあり、日本発のネット文化が世界に広がりを見せている。

東京・渋谷駅舎に登場した人気VTuber、がうる・ぐらの広告=2023年3月(Stanislav Kogiku / SOPA Images/Sipa USA/ロイター)
ネット+アニメ 交じり合う文化
VTuberはアニメキャラと何が違うのか。『現代用語の基礎知識2024』では次のように説明されている。
「Vチューバー〔Virtual YouTuber、Vtuber〕 VRスタジオ内で3DCGキャラクターに扮(ふん)し、実況動画を配信する人のこと。2016年にキズナアイがYouTubeに最初の動画を投稿してバーチャルユーチューバーと称したことで定着した」
アニメキャラは台本に沿って物語を表現する存在だが、VTuberの3DモデルやLIVE2Dモデル(=アバター)には「中の人」が存在し、それぞれが1人の人間のように自由な振る舞いをする。SNSや動画投稿サイトを介して視聴者とのリアルタイムなコミュニケーションに応じる。音楽ライブでは最新技術によって、舞台上に映し出され、動き、歌い、語りかける。
「ネットを介した相互作用」という面で、VTuberには電子掲示板、SNS、動画投稿サイトなどのネットカルチャーが強い影響を及ぼしている。さらにアニメも先祖に持つ。
Kizuna AIを生み出したコンテンツ企画会社「Activ8」の大坂武史社長は、外資系CGスタジオで働いた時、アニメ、マンガ、ゲームなどの日本のポップカルチャーに対する海外からの尊敬のまなざしや需要の多さを肌で感じ、この分野を「世界で戦える産業」と考え起業したという。
Kizuna AIの設定は、日本アニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の影響も受けている。作中に登場するネット上に誕生した情報生命体「人形使い」がイメージの源泉だ。大坂はKizuna AIについて「人々が想像したものが現実化し、社会を変えていく」と言う。つまり人々を良い方向に導くポジティブな人工知能として生み出したのだ。
私は、VTuberは日本の「メディア」「コンテンツ」「コミュニケーション」のひとつの結節点だと考えている。なぜなら日本で育まれてきたネット文化、アニメ・マンガ・ゲーム文化、そして、現実空間と情報空間を横断する人と人との相互作用、これらが複雑に絡み合いながら、創造的な取り組みが出てくるプラットフォームになっているからだ。
「企業勢」と「個人勢」の存在
VTuberの形態は大きく2種ある。一つは事務所や企業に所属するプロの「企業勢」、もう一つが個人やアマチュアの「個人勢」だ。「~勢」はVTuberカルチャーでよく使われる語だ。動画投稿メインの「動画勢」、ライブ配信が中心の「配信勢」などの分類もある。
企業勢をけん引しているのは「にじさんじ」「ホロライブプロダクション」の2大事務所。所属するVTuberの活動は、ネットやSNS上のトーク配信やゲーム実況、カバー曲の公開「歌ってみた」などに加え、企業とのコラボ、オリジナル曲の配信、ライブイベントなど多岐にわたる。例えば、落語や美術が好きな文化系VTuberの「儒烏風亭(じゅうふうてい)らでん」は、「ホロライブプロダクション」傘下の「hololiveDEV_IS」に所属する。

「企業勢」のVTuberによる大型イベント「にじさんじフェス2022」=2022年10月、千葉・幕張メッセ(時事)
事業拡大に伴い、22年6月に「にじさんじ」を運営するANYCOLOR社が、23年3月には「ホロライブプロダクション」のカバー社が相次いで日本市場に株式上場した。両社の売り上げ領域は、大きく分けて次の4点である。
〈1〉プラットフォーム上の動画など
〈2〉グッズ・楽曲・音声コンテンツなど
〈3〉イベント・ライブ
〈4〉プロモーション・ライセンス・タイアップ
矢野経済研究所のレポートを基に分析すると、最も売り上げの規模が大きい「グッズ・楽曲・音声コンテンツなど」では、キャラクターグッズの販売が目立つ。東京駅一番街の地下「東京キャラクターストリート」では、「ポケモン」「ちいかわ」などの日本を代表するキャラショップが連なる中に、VTuberの事務所「hololive production」のオフィシャルショップがあり、連日にぎわいを見せている。

玩具見本市「東京おもちゃショー2023」で展示された「ホロライブプロダクション」のキャラクターぬいぐるみ。グッズはVTuber関連の売り上げの多くを占めている=2023年6月、東京都江東区の東京ビッグサイト(時事)

東京駅のショップで購入したホロライブグッズ。ぬいぐるみとアクリルスタンドは儒烏風亭らでん(筆者撮影)
伸び率が大きいのは「プロモーション・ライセンス・タイアップ」など「BtoB(企業から企業への取引)」の分野だ。例えば、「にじさんじ」所属のVTuber周央サンゴは、2023年春に三重県のテーマパーク「志摩スペイン村」とコラボした。SNSでスペイン村の魅力を熱く語ったことが話題になり、最終的に現地で大規模な公式イベントを開くに至った。文化ジャーナリストの吉川慧氏のBUSINESS INSIDER記事によると、イベント期間中の来場者数は前年比1.9倍で、周央サンゴが紹介したお菓子のチュロスは通常の33倍に当たる1日平均1000本を売り上げた。(※5)

志摩スペイン村最寄りの近鉄鵜方(うがた)駅。テーマパークとVTuber周央サンゴのコラボイベントでは大きなポスターが張り出された(筆者撮影)
従来のコンテンツツーリズムでは、アニメ、マンガなどに登場する一場面が目的地=聖地になってきた。一方、VTuberの場合は、コンテンツツーリズムの構築に至るまでに施設側、ファンとのコミュニケーションがネット上で盛んに行われるのが特徴だ。観光客は、VTuberが訪れた場所に集い、その「場所」を身近な「自分事」として体感するようになる。
影響力増す個人勢
VTuberシーンの盛り上がりは「個人勢」の多さにもみられる。配信やアバター制作に使うアプリや、アバターを動かすモーションキャプチャーが普及し、誰でも「中の人」になれる。
「個人勢」で有名なVTuberは、タヌキ忍者の「甲賀流忍者ぽんぽこ」と、ピーナツの外見の「ピーナッツくん」だ。「ぽこピー」というコンビで活動し、NTTドコモやJR西日本とコラボ。「企業勢」を超える影響力を持つ。

温浴施設の極楽湯とコラボした個人勢VTuberの「ピーナッツくん」(左)と「ぽんぽこ」(右)©POKOPEA
筆者も「ゾンビ先生」という、学生に作ってもらったアバターを使う個人勢VTuberだ。存美語郎(ぞんび・かたろう)という名の「禁忌大学の狂授」で、「岡本健」が勤務する近畿大学の研究室に、サバティカル(研究休暇)で居候中という設定だ。
「ゾンビ先生」は講義やゲーム実況を動画配信する。書き込まれるコメントを読み上げておしゃべりしながらゲームプレイを流せば、子どもの頃、友人とわいわいゲームをプレイしていた楽しい時間を思い出す。
2025年7月7日には、増進堂・受験研究社との産学連携事業で「自由自在V」という教育チャンネルを立ち上げた。民俗学VTuberの「諸星めぐる」と「ゾンビ先生」がパーソナリティを務め、増進堂・受験研究社発行の参考書『自由自在』を基に、学びを楽しむ動画の公開や配信をしている。
私の活動は「学術系VTuber」といえるが、他にもマンガ家や投資家、高齢者のVTuberなど多様な活動がある。多くの人が、現実からある程度離れて、自由に活動を展開している。VRニュースサイト「PANORA」編集長の広田稔氏によると、「個人勢」の活動は中国、台湾、韓国、インドネシアなどの東南アジアで登場が早く、英語圏や中南米などでも確認できるという。(※6)
ゾンビ先生はVTuberの夢を見るか
VTuberの「中の人」は、自分とは別の新たなキャラの「生」を生きる不思議な環境で生活するようになる。私は活動中に「ゾンビ先生の時に普段と声の出し方が変わっている」と気が付いた。カフェで執筆していた時、「ゾンビ先生も今頃研究室で研究中だろうか」と感じたこともあった。もちろん、キャラが私無しで自立をするわけではないが、これはおそらく、小説家やマンガ家、役者などが「キャラが自立し動き始める」と感じる現象と似たものなのだろう。

VTuberゾンビ先生(右下)によるゲーム実況中継の様子(筆者提供)『都市伝説解体センター』© Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES 公式サイトhttps://umdc.shueisha-games.com/ 開発:墓場文庫 販売:集英社ゲームズ
アイデンティティーの問題も付きまとう。VTuberの「中の人」の詳細な情報は伏せられることが多く、その状態で人気を得た時、「これは自分のパフォーマンスだろうか」と悩む「中の人」もいるようだ。
中傷の問題も起きた。アニメの声優は担当キャラへの悪口があっても、セリフや容姿などは自分の個性とは重ならないのが普通で、重大な精神的傷を負うとは考えにくい。しかし、VTuberはキャラと「中の人」との個性の重なり合いが大きい。このため、誹謗中傷によって心理的に影響を受ける可能性が高く、実際に法律問題にもなっている。
良き生活に資する可能性
もちろん課題はあるが、VTuberという「あり方」には将来性を感じる。だれもがアバターを持つ時代が来れば、全ての人がVTuberになるようなものだ。多くの人の良き生活に資する知見が得られるように、今後も積極的に研究を進める必要がある。
VTuber文化には容姿や年齢、人種、言語、社会的な立場や国境といった「境界」を超えて人々がつながる「夢」があるのだ。「日本発」の新たな文化として、人々の幸せや世界の平和に資する存在へと成長を続けてもらいたい。研究者として、ファンとして、そしてVTuber「ゾンビ先生」として、夢が現実になっていく過程に関わっていきたい。

VTuber星街すいせいの日本武道館公演SuperNova。単独ライブで会場を満席にした=2025年2月1日© 2016 COVER Corp.
バナー写真:3年ぶりに活動を再開したKizuna AI © Kizuna AI
(※1) ^ 「VTuber(バーチャルYouTuber)、ついに2万人を突破」(ユーザーローカル:2022年11月29日)
(※2) ^ 「VTuber総数は2年連続横ばい、ファンダムは拡大で活況続く」(KAI-YOU Premium:25年2月20日
(※3) ^ 『VTuber市場の徹底研究 ~市場調査編~』(矢野経済研究所:23年、25年)
(※4) ^ 「VTuber(バーチャルYouTuber)の世界市場 - 市場シェアとランキング、全体の売り上げと需要の予測(2024年~2030年)」(グローバルインフォメーション:24年09月24日)
(※5) ^ 「来場者23万人超…志摩スペイン村×周央サンゴさんコラボ、なぜ大成功した?」(BUSINESS INSIDER:23年4月14日)
(※6) ^ 「VTuberの歴史 ―VRニュースサイト「PANORA」運営者の視点から」(岩波書店『VTuber学』:24年8月)
