スピードスケート・高木美帆が切望する1500メートルの「ラストピース」【ミラノ・コルティナ五輪 期待の星たち】
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世界記録保持も平昌・北京は「銀」
31歳のベテラン・高木は、これまでに3度出場した五輪で金2つ(女子 1000メートル、女子チームパシュート)を含む合計7つのメダルを獲得した。夏冬の五輪を合わせて日本女子歴代最多だ。
ミラノ・コルティナ五輪では1000メートル、1500メートル、チームパシュートの3種目で代表入りした。500メートルでも補欠に選ばれ、最大で4種目に出場する。2018年平昌五輪、22年北京五輪の2大会で数々のメダルを積み重ねてきた高木がミラノで3種目の表彰台に立てば、夏冬通じて日本女子初となる「2桁メダル」という前人未到の記録に到達する。
だが、高木の目標はそこにはない。彼女のスケート人生には今なお埋められていない“ラストピース”があるからだ。それは自身が1分49秒83の世界記録を持つ女子1500メートルの金メダル。W杯ではシーズン総合優勝を含めて何度も頂点に立っている種目だ。
高木は五輪でこの種目に過去3度出場し、平昌五輪と北京五輪では表彰台に上がっているがいずれも銀メダルにとどまっている。だからこそ、このように言う。
「1500メートルが最大の目標。五輪ですべてを出し切って、目指しているゴールにたどり着けるように頑張りたい」
日本のエースはそこに向けて突き進んでいる。
高木が五輪の舞台に初めて立ったのは中学3年生で初出場した2010年のバンクーバーだった。技術と筋力が必要なスピードスケートは20代になってから五輪初出場をかなえる選手が大半を占める。力みのない天性のスケーティング技術とコーナーワーク、そして最後までほとんどラップを落とさない抜群の持久力を持った15歳の出現に日本のスケート界は沸いた。
バンクーバー五輪では下位に沈んで世界の厳しさを肌で知り、14年ソチ五輪は出場を逃す屈辱も味わった。けれども、そこからはい上がってきた経験が高木を希代のアスリートへと成長させた。
17、18年のシーズンはW杯で勝利を重ね、平昌五輪では日本女子初となる金銀銅メダル(金チームパシュート、銀1500メートル、銅1000メートル)を獲得。その後も中長距離の世界一を決める世界オールラウンド選手権や短距離の世界スプリント選手権、世界距離別選手権で優勝を重ねた。
21、22年シーズンも絶好調。北京五輪では5種目(個人4種目、団体1種目)に出場し、自身初となる個人種目の金メダルを1000メートルで手にするなど、合計でメダル4個を獲得する破格の活躍だった。
しかし、それでも届かなかったのが五輪での1500メートルの頂点だったのだ。
オランダ人コーチと新たな挑戦
北京五輪の後は、ミラノ・コルティナ五輪で意中の種目の頂点をつかみ取るべく、新たな取り組みに挑戦してきた。2014年から在籍していた、所属の枠を超えて強化を図る日本スケート連盟のナショナルチームを離れ、オランダ人のヨハン・デビットコーチと新チーム「team GOLD(チームゴールド)」を結成。23年にはチームパシュートで五輪2大会をともに滑ってきた佐藤綾乃や中国選手が加わり、24年には男子中距離の野々村太陽も加入。互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら高みを目指す多国籍チームで実力を磨いてきた。

高木美帆(左)とコーチのヨハン・デビット氏=2025年2月28日、長野・エムウェーブ(時事)
「チームゴールドでは質の高いトレーニングができているし、いろいろな選手がいるので違う視点を知ることができる。それによって自分の強みも知ることもできている」と利点を感じている。
23年にはスケート靴のブレード(刃)を中学生の頃から使っていたバイキング社製の「ナガノスプリント」(バイキング社製)から、平昌五輪後に発売された「アイコン」(同)に替えた。現在、世界の中長距離選手の間で主流となっているブレードだ。狙いはもちろん、1500メートルのタイムを短縮すること。誰よりも繊細な感覚を持ち、精密機械のような微調整をしながらレースに挑む高木にとって、道具を替えることは想像以上に大きな冒険だった。
結果的に「アイコン」は高木の滑りにはマッチせず、今シーズンから元の「ナガノスプリント」に戻したが、重要だったのは新たな領域に挑戦したこと。この心意気が高木の強みでもある。
自問自答しながら迎える本番
1500メートルは高木にとって特別な種目だ。1000メートルが「最初からフルスピードで行く種目」(高木)だとすれば、1500メートルは「パワーだけじゃ超えきれない種目」。スピードと持久力、技術と戦略、すべてが求められる1500メートルに対して高木は「この種目を滑れないと面白くないなと感じる」と語っている。
そういった中、昨シーズンの最後の大会だった世界距離別選手権(ノルウェー)では、あえて前半から攻めたレースを選択した。
「今の私の持っている力では、最初から攻めるしか勝つ手段としては残されていないのではないかと考えていた」からだ。
そのため、後半勝負ではなく、序盤から踏み込んだ。判断の裏には、「後半で粘れるだけの力がない」という冷静な自己分析があった。しかし、結果はまさかの4位。連戦の疲れがあったとは言え、厳しい結果に首をかしげた。
不安や迷いはミラノ・コルティナ五輪シーズンとなった今季も続いており、連戦連勝に近かった北京五輪前のように明確な道筋が見えているわけではない。それでも、「常に自分の中で何がベストなのかを自問自答しながら進んでいく」という覚悟は固い。
「これ以上ないレースを」
「取れそうだからというのではなく、1500メートルに対する思いはずっと昔から強くある。負けたくないという気持ちもどの種目よりも強い」
目標であると明言したから追い続けているのではない。追い続けてきたから、明言している。その距離が、1500メートルなのだ。
ミラノ・コルティナ五輪の代表に決まった後、高木はこう語っている。
「このユニホームを身にまとい、あらためて身が引き締まる思いがある。とうとう五輪が近づいてきたのだと心から実感している。本番までの残り少ない日々を大切にしながら、自分の目指し続けてきたゴールにたどり着けるように全速力で向かっていきたい」
1000メートルでは既に五輪で金を手にした。チームパシュートでも頂点を知る。残るピースは、1500メートルの金メダルのみだ。
今季はW杯第4戦の1500メートルで優勝。一方、最大のライバルとみられたオランダのヨイ・ベーネが国内の代表選考会で落選し、頂点に近づいたことは確かだろう。だが、高木は本番に向けて改めて気を引き締めている。
「ミラノの1500メートルでは、自分がこれ以上ないというくらいのレースをする」
その一点に、すべてを注ぐ。
短距離陣もメダル獲りへ
スピードスケートで日本選手のメダル候補は高木だけではない。女子短距離界に現れた22歳の新星・吉田雪乃(寿広)は500メートルでワールドカップ(W杯)優勝経験があり、表彰台の期待が大きいうえに、1000メートルも金メダル候補の高木に肉薄する力を付けている。

ミラノ・コルティナ五輪代表に選出された高木美帆(前列中央)らスピードスケートの選手たち=2025年12月28日、長野・エムウェーブ(時事)
男子500メートルは、北京五輪銅メダルの森重航(オカモトグループ)とこの種目の日本記録保持者である新濱立也(高崎健康福祉大学職員)が、ともに金メダルを目指して切磋琢磨してきた。2人とも北海道別海町出身。同郷の2人がそろって表彰台に上がる姿を見られるかもしれない。
バナー写真:スケートの全日本距離別選手権・女子1500メートルで滑走する高木美帆=2025年10月26日、長野・エムウェーブ(時事)