スノボHP・平野歩夢、満身創痍で挑む「夢の先」【ミラノ・コルティナ五輪 期待の星たち】

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2月6日に開幕するミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪で、連覇を狙うスノーボード男子ハーフパイプ(HP)の平野歩夢(ひらの・あゆむ=TOKIOインカラミ)。2022年の北京五輪で金メダルを獲得した後、ずっと求めてきたのは「夢の先にあるもの」だ。今回は直前の大会で大けがに見舞われ、その影響が懸念されるが、強行出場となる大舞台でどんな演技を見せるのかー。

代表決定直前のアクシデント

五輪代表が発表される直前の1月17日、大きなアクシデントが平野歩夢を襲った。スイス・ラークスで行われたワールドカップ(W杯)の決勝1本目、空中高く舞い上がると着地でバランスを崩し、前に倒れる形で転倒したのだ。

建物の3階に相当する推定8メートルの高さから落下した衝撃でボードの先端は折れ、平野歩は顔面付近を強打して鼻や口から流血。右ひざなども負傷して2本目を棄権した。斜め軸に縦2回転、横3回転半するなど、高難度の技を組み合わせた「フロントサイドダブルコーク1260クリップラージャパングラブ」という平野歩のオリジナル技だったが、思わぬ大きな痛手を負ってしまった。

帰国して精密検査を受けた結果、複数箇所の骨折や打撲と診断された。骨がずれていないことが確認されたため、腫れや痛みが引くのを待って五輪に強行出場する意向だという。本番は2月11日に予選、同13日に決勝が予定されている。「夢の続きじゃなく、目指してきた夢の先」とミラノ・コルティナ五輪を位置付けてきた平野歩。しかし、目の前にあるのは、いばらの道と言わざるを得ない。

高難度の技がもたらす危険と恐怖心

4年前の北京五輪で優勝を引き寄せたのは「トリプルコーク1440」(縦3回転、横4回転)という大技だった。だが、日本国内ではその後、平野歩の得意技を成功させる後輩たちが出現。27歳の平野歩に続いて、24歳の戸塚優斗(とつか・ゆうと=ヨネックス)や23歳の平野流佳(ひらの・るか=INPEX)らが台頭し、W杯で次々と勝利を重ねている。いずれも世界のトップレベルにあり、今回の五輪は日本勢が表彰台を独占する可能性もささやかれるほどだ。

スノーボードW杯ハーフパイプ男子の開幕戦で優勝した平野歩夢。左は2位の戸塚優斗、右は3位の平野流佳=2025年12月、中国の張家口・密苑(共同)
スノーボードW杯ハーフパイプ男子の開幕戦で優勝した平野歩夢。左は2位の戸塚優斗、右は3位の平野流佳=2025年12月、中国の張家口・密苑(共同)

「技術には限界があると思っていても、時間がたつと改めて無限大だなって感じる。これからもさらなるトリック(技)が、次々と生み出されていくと思う」。それがこの競技を追求して得た平野歩の実感だ。技術的な進化はとどまるところを知らない。それぞれの選手が試行錯誤を繰り返し、新しい技が生み出されていく。

しかし、難度が上がれば上がるほど、危険を伴う競技でもある。世界の強豪が集う本番では恐怖心という別の敵とも戦うことになる。

長年のライバル、ホワイトは引退

平野歩の長年のライバルといえば、米国のショーン・ホワイトだった。冬季五輪は2006年トリノ、2010年バンクーバー、18年平昌の3大会で金メダルを獲得したスーパースターである。平昌五輪では平野歩と接戦を演じ、最後はホワイトが大逆転で頂点に立ったが、今もその名勝負は語り草だ。

続く北京五輪で4位に終わり、現役を引退したホワイトは、ミラノ・コルティナ五輪を前に東京で平野歩と再会。自身のSNSに「何年もこの若者と戦ってきたが、やっと応援できる立場になってほっとしている。 偉大なアスリート、偉大なライバル、偉大な友人!」と書き込んだ。

平野歩はいつもホワイトの背中を追ってきた。そして、北京五輪でついに上回り、表彰台の中央に立った。その時の心境を「彼(ホワイト)の果敢な挑戦を見て、(最後の)3本目は絶対に自分が勝ちたいと思い、攻めの気持ちを保てました。彼の挑戦を間近で見てこられた事は、一生忘れません」とSNSに投稿し、去り行く好敵手に賛辞を送ったものだ。

今回は旧知のライバルがいない中で迎える五輪となる。むしろ強敵は日本の選手たちだろう。HP男子の日本代表には4人が選ばれたが、昨シーズンのW杯では、平野流がランキング1位で3季連続の種目別優勝を果たし、戸塚が2位、平野歩は3位。さらに今季は19歳の山田琉聖(やまだ・りゅうせい=チームJWSC)がW杯第2戦で初優勝し、代表に食い込んだ。

「結果っていうのも大事なんですけど、そこにあまり縛られない形で自分自身が満足する滑りを全て出し切れることを理想としている」と話していた平野歩。他の選手がどうであれ、あくまで自分が納得できる演技に集中するつもりだ。

地元に待望の練習施設

北京五輪後は練習環境にも変化があった。2024年9月、実家のある新潟県村上市に待望のトレーニング拠点が完成したのだ。雪がない季節でもハーフパイプのエア(空中技)が練習できる世界初の屋外型施設「村上スノーリサーチ&トレーニングセンター」である。

同市でスケートボードの屋内施設を営む父、英功(ひでのり)さんが代表となり、隣接する場所に練習拠点が建設された。平野歩のスポンサー企業「ユニクロ」も特別協賛として協力し、海外に出向かなくても1年を通じてトレーニングに専念できる環境が整った。

「次の五輪に向けて天候に左右されない環境での練習ができないか、と家族や現場の人と打ち合わせを重ねながら、この施設を準備してきた。自分の地元に施設ができたことは夢のような感覚。世界で一つしかないものを作るのは大変だった」

自ら施設建設の計画策定に加わったのは、五輪の金メダルの先にあるものを目指してのことかもしれない。

社会貢献活動にも取り組む

施設の完成式典には、小中学生たちを招いた。「グローバルブランドアンバサダー」として契約を結ぶユニクロが企画する「次世代育成イベント」だった。

イベントは競技者の育成が目的ではなく、スポーツの分野を極めた一流アスリートとの交流によって、子どもたちの人間的な成長を促す社会貢献活動として開かれている。参加した小学生から「塾、サーフィン、スノーボードの『三刀流』を目指しているのですが、どうしたら両立できますか?」と質問された平野歩はこう答えた。

「本気になればなるほど、何かを失わないと得られない感覚がある。自分もスノーボードの時間を割いてスケートボードをやることに苦労した。でも、今しかできないことを大事にして諦めずに進んでほしい。失敗しても、大人になった時に振り返って力になる」

2021年に開かれた東京五輪では、スケートボードのパーク種目に出場し、夏冬の二刀流アスリートとしても注目を集めた。挑戦には困難がつきものだ。しかし、「今しかできないこと」に全力で打ち込む姿は常に変わらない。北京で五輪王者となり、夢をかなえた平野歩がその先を見据えて取り組んできたミラノ・コルティナ五輪。満身創痍(そうい)で挑む本番では、結果よりも、人々の心に訴えかける演技に期待したい。

ビッグエアはメダルラッシュか

女子HPやビッグエア、スロープスタイルもメダルラッシュの可能性がある。

HP女子は、北京で銅メダルを獲得した冨田せな(宇佐美SC)に加え、清水さら(TOKIOインカラミ)、工藤璃星(くどう・りせ=TOKIOインカラミ)ら若手も出場。1月、世界のトッププロが集まる招待制のXゲームで清水が初優勝、工藤は2位となった。今季W杯では、工藤、清水のほか、小野光希(おの・みつき=バートン)も表彰台にのぼっている。

ビッグエア、スロープスタイルは同一選手が出場するが、女子は昨年3月の世界選手権で表彰台を日本勢が独占した際のメンバー、村瀬心椛(むらせ・ここも=TOKIOインカラミ)、岩渕麗楽(いわぶち・れいら=バートン)、深田茉莉(ふかだ・まり=ヤマゼン)が出場。その再現も期待される。

スノーボードの世界選手権 女子ビッグエアで表彰台を独占し、写真に納まる(左から)2位の岩渕麗楽、優勝の村瀬心椛、3位の深田茉莉=2025年3月28日、サンモリッツ(AFP=時事)
スノーボードの世界選手権 女子ビッグエアで表彰台を独占し、写真に納まる(左から)2位の岩渕麗楽、優勝の村瀬心椛、3位の深田茉莉=2025年3月28日、サンモリッツ(AFP=時事)

男子は昨季W杯種目別王者の長谷川帝勝(はせがわ・たいが=TOKIOインカラミ)、昨年の世界選手権を制した木俣椋真(きまた・りょうま=ヤマゼン)ら実力者が並び、それぞれ表彰台を狙う。

バナー写真:スノーボードW杯ハーフパイプ第5戦、男子決勝の平野歩夢。この大会で転倒し、大けがに見舞われた=2026年1月18日、スイス・ラークス(IMAGO/justpictures.ch via Reuters Connect、ロイター)

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