中村鷹之資が「女方ができるまで」を披露:欧州公演で歌舞伎の魅力発信、化粧や着付けも実演【動画】
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女方は歌舞伎の基本
「MEET KABUKI-The Art of “Onnagata” Europe Tour 」(「女方ができるまで」欧州公演)と銘打ったツアーで、今春、中村鷹之資さんはパリ(仏)、ローマ(伊)、ケルン(独)の三都市を巡った(4月9日~23日)。
主に立役(たちやく=男役)が多い鷹之資さんだが、今回は女方の舞踊を披露した。初体験となる欧州公演に向けた東京での会見では、海外の観客にも歌舞伎の女方の魅力を伝えたいと意気込みを語った。

初めての欧州公演に向け、抱負を語る鷹之資さん=2026年2月、東京・銀座(撮影:ニッポンドットコム編集部)
「女方は歌舞伎の基本的な要素です。芝居では立役がメインの私も、舞踊では女方も踊りますし、立役を演じる上でも女方の気持ちを理解する必要があります。歌舞伎俳優は皆、小さい頃から必ず女方の踊りをお稽古します」
今回の演目は、若い娘の初々しい恋心を表現する「藤娘」だ。「女方の基礎や日本舞踊、歌舞伎舞踊の良さが詰まった、お稽古には欠かせない作品」だと言う。鷹之資さんは、15歳の時に自身の勉強会「翔之會」で、初めて披露している。

「女方ができるまで」は欧州3都市の国際交流基金日本文化会館で開催。ポスターには翔之會で演じた藤娘が使用された(撮影:ニッポンドットコム編集部)
400年かけて磨き上げた芸
歌舞伎は出雲阿国(いずものおくに)による「かぶき踊り」(1603年)に発したといわれる。人気が過熱して、「風紀が乱れる」と幕府が女性のかぶき踊りを禁止したため、男性が女性を演じるようになり、400年の歴史の中で女方の演技が磨き上げられてきた。
鷹之資さんは「荒事」(荒々しく豪快な演技)で頭角を現したが、踊りにも定評がある。亡き父は人間国宝の五世中村富十郎(1929~2011)で、立役も女方もこなす踊りの名手だった。
初代富十郎は江戸時代中期に活躍した代表的女方の一人。幅広い役を演じたが、特に「所作事(しょさごと)」(=舞踊)を得意とした。富十郎が初演した「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」は、女方舞踊の代表的な演目になっている。
また、初代富十郎の父親は伝説的な女方・芳澤あやめ(1673‐1729)だ。女方の心得を説いた芸談「あやめぐさ」でも知られる。「日常から女性のように暮らさなくては、上手な女方とはいえない」などの心得は、後世の女方に多大な影響を与えた。

パリ公演では立役の「石橋(しゃっきょう)」も披露。渡航直前の歌舞伎座での通し稽古にて(撮影:松田 忠雄)
化粧の仕方で役のキャラが分かる
今回の欧州公演では、通常楽屋で行う化粧や衣裳の着付けを舞台上で実演した。効果音の「ツケ」(木の板を拍子木で打って、演技を強調する)と共に鷹之資さんが登場して、力強い見得を切る。威勢のよい立役が、鏡台の前で顔を白くメイクしてカツラを付け、衣裳を着て可憐な藤娘になるまでを見せる斬新な趣向だった。
歌舞伎俳優にとって、化粧は一つの役に「なりきる」までの重要なプロセスだ。メイクアップアーティストは使わず、自分自身で顔を作っていく。メイクを習得することも役者の修行の一つだという。まず化粧のノリをよくするため、顔全体にびんつけ油を塗り、ドーラン(油性のファンデーション)で眉も唇も白く塗りつぶしていく。その上におしろいを塗り、眉を描く。思うような形に眉を引くには、集中力と習熟を要するそうだ。

歌舞伎俳優は自身がメイクアップアーティスト(撮影:松田忠雄)
化粧の仕方で、どんなキャラクターを演じるのかが分かるのが歌舞伎の特徴だ。顔の色がその人物の役割を表す。立役の場合、基本的に若い男や善人、高貴な人は白塗りで、荒々しい役なら赤っぽく、庶民的な役なら普通の肌色に近い。「隈取り」は、顔の血管や筋肉が浮き出ている様子を表現し、歌舞伎で最も特徴的な化粧法だ。正義感や勇気、血気盛んな若さを表す赤の他にも、青、茶の隈があり、その色や構図にさまざまな意味がある。
女方ではおしろいを塗り、目の周りや頬に薄紅色を重ねる。唇は実際の唇より内側に丸みを持たせて描く。化粧、衣裳、そして最後にカツラを付けて「こしらえ」(役の扮装)は完結する。衣裳の裾は普通の着物よりも長く、引きずるように着る。これは、美しい模様がよく見えるように、また、優雅に見せるための工夫だ。肩のラインが本来よりもほっそり見えるように、着物の襟は少し広めに抜く。これも女方の工夫の一つだ。

化粧、着付けから舞踊の稽古まで入念に準備した(撮影:松田 忠雄)
「藤娘」では、一瞬にして衣裳が変わる「引き抜き」が見どころの一つ。着物を重ねて仕付け糸で縫い合わせ、「後見」(舞台上で演技を補助する担当)がその糸を抜いて上衣を引っ張ると、パッとはがれて下の衣裳が現れる仕掛けだ。黒、藤色、赤など鮮やかな色の変化が目に楽しい。
カツラは全て役者の頭に合わせたオーダーメイド。「床山」と呼ばれる職人が数時間かけて結い上げ、飾りをつけて仕上げる。藤のかんざしをあしらった「藤娘」のカツラはかわいらしいが、重さは約2キロだという。その重さを感じさせぬように、軽やかに舞う。

本番では、化粧道具を並べた鏡台の鏡がくりぬかれている。鷹之資さんが女方に変化する様子がよく分かる趣向だ ©SHOCHIKU
“無骨な体”をしなやかに見せる
「華やかで、かつ女方のしなやかで、しっとりとした美しさをぜひ感じ取っていただけるように勤めたい」と語っていた鷹之資さん。
「やはり男性が女性を演じる上で、体の見せ方は常に意識します。どうしても無骨になってしまうのを、いかにしなやかに女性らしく見せるかが重要です。昔は、女方の稽古では貝殻骨(肩甲骨)を寄せてぐっと下におろし、両膝に紙を挟んで落とさないように内またで歩くのが基本といわれました。立役以上に、体の見せ方を意識しなければならないのです」
さらに、女方に求められるのは繊細さだ。特に芝居の場合、女方は常に立役の存在を意識して動く。立役への細やかな「気配り」を重ねることで、女性らしい雰囲気が生まれるのだという。

「藤娘」では衣裳の変化も見どころのひとつだ ©SHOCHIKKU
パリ公演では、「藤娘」の後に、勇壮な霊獣の獅子を演じる「石橋(しゃっきょう)」を披露し、女方から一転、立役のダイナミックな動きを見せた。能を基にした舞踊で、隈取りをして白い獅子の長い毛を勇ましく振る「毛振り」が見せ場だ。
それぞれの都市で、観客の反応に手ごたえを感じたと自身のインスタグラムで発信していた鷹之資さん。将来は、かつて父・富十郎が四世中村雀右衛門と「二人椀久(ににんわんきゅう)」を舞ったパリ・シャトレ劇場をはじめ、海外の主要な劇場で歌舞伎を演じてみたいと意欲を見せている。
取材・文・動画編集=土師野幸徳・板倉君枝(ニッポンドットコム編集部)
バナー写真:化粧によって藤娘へと変身する鷹之資さん(撮影:松田忠雄)

