東海道新幹線の個室が23年ぶりに復活:仕事も休息も自分好みの移動空間へ
旅と暮らし 経済・ビジネス- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
プライバシーやセキュリティーに配慮
東海道・山陽新幹線に登場するのは、その名も「Supreme Class(スプリームクラス)」。東京―新大阪間では23年ぶりの個室復活となる。
完全個室タイプの「Cabin(キャビン)」は、N700S車両(16両編成)の7号車と10号車に1室ずつ設けられ、7号車はリクライニングシートとソファを向かい合わせに配置して2人でも利用できる。10号車は1人用となる。扉には電子錠とオートロック機能を備え、乗車に使う交通系ICカードやQRコードで解錠する仕組み。プライバシーだけでなく、セキュリティーにも配慮した。
室内のタブレットでは、座席のリクライニングや照明、空調、車内放送の音量などを調整できる。時間制限のない専用Wi-Fi(ワイファイ)のほか、周囲への音漏れを抑えたシートスピーカー、大型テーブル、電源コンセントなども備える。
2027年度中には、電子錠付きの扉と大型バックシェルタイプの座席を備えた半個室タイプの「Seat(シート)」も加わる。座席を回転させ、2人で向かい合うこともできる。
価格は東京―新大阪間で、ネット予約サービス「スマートEX」を利用した場合、2人利用可の7号車個室が大人片道1人当たり6万790円、1人用の10号車個室が4万2390円。7号車に同行者が同室する場合、その人にも利用列車に有効な乗車券・特急券が別途必要となる(普通車自由席・指定席、グリーン車のどれでも可)。ちなみに現在の同区間では、「のぞみ」の普通車自由席が1万3780円、普通車指定席が1万4720円、グリーン車が1万9590円となっている。(いずれも通常期の値段)
「Supreme Class」での快適性の追求には、2036年以降の開業が見込まれるリニア中央新幹線(品川―名古屋間)へスピード重視の乗客が移ることも見据え、東海道新幹線における移動時間の付加価値を高める狙いがあるとみられる。
では、どのような利用者層を想定しているのか。
JR東海は「移動時間を快適に過ごせるグリーン車よりも、さらに上質な設備・サービスを求める声があったため、プライベート感と上質性を兼ね備えた上級クラス座席を導入することとした。海外からお越しの方を含めて、周囲を気にせずに車内でくつろぎたいという方の利用を想定している」(東京広報室)と説明した。周囲の目が気になる芸能人、有名スポーツ選手らにはありがたい空間になるだろう。
また、山陽新幹線を運行するJR西日本も「グリーン車よりも、さらにプライベート感と上質性を求める方に新たな選択肢となると考えている」(コーポレートコミュニケーション部)と、新しい価値の提案に期待を込めた。

左:個室の電子錠は交通系ICカードやQRコードで解錠する 右上:室内のタブレットでは座席のリクライニングや照明などの調整のほかに、飲み物や菓子の注文も可能 右下:個室が設置される車両の出入り口には「Supreme Class」のロゴマークが掲げられる(いずれもJR東海提供)
飛行機派の経営者らも喜ぶ?新幹線「個室」の優位性
両社が強調する「プライベート感」「上質性」のうち、「プライベート感」については特筆すべき設備がある。鉄道車両としては世界初となる技術を用いた各個室専用のWi-Fi環境だ。車両の窓に第5世代移動通信(5G)対応の透明ガラスアンテナを設置し、通信品質の安定化を図るという。完全個室で通信環境も安定しているため、気兼ねなくウェブ会議ができる。
「上質性」に関しては、まさに個室という空間そのものが特別感や優越感を味わわせてくれる。組織でも、社長をはじめとする経営層には個室が割り当てられるように、独立した空間を持つことは特別なステータスの証しともいえる。
東京に本社を置く、ある大手企業の秘書は次のように明かす。
「うちは社長も会長も、大阪出張では飛行機しか使いません。VIP専用ラウンジで手続きを済ませた後、そのまま搭乗機に送り届けてくれる特別待遇が好きなようです。あるとき社長に、新幹線のグリーン車しか手配できなかったことを告げると、露骨に嫌な顔をされました。それを上司に伝えたら、『昔あった個室なら喜んでくれたのにな』と言われました。ですから、新しくできる新幹線の個室は、むしろ積極的に利用したがるかもしれませんね」
もちろん、多忙な経営者にとっての新幹線個室は、単に優越感に浸るだけの空間ではない。移動時間中にウェブ会議を行ったり、通話で関係各所へ指示を出したり、極秘資料を集中して読み込むことができたり、メリットは多数ある。

東海道・山陽新幹線「Supreme Class」の2人用個室(JR東海提供)
ちなみに筆者は20代前半の頃、100系のグリーン個室に話のタネで乗車したことがある。「こだま」専用のグリーン回数券でお手頃に利用できたため、東京から掛川まで乗ってみた。
発車直後には高揚感があったものの、ぜいたくをしている緊張感と1人でポツンと過ごす寂しさもあり、小田原を過ぎたあたりで飽きてきた。2階建て車両の1階部分で、眺望があまりよくなかったのも、飽きた原因の1つだろう。掛川到着時には何やらホッとしたのを覚えている。思えば当時、「プライベート感」が必要でもなければ、余裕を持って「上質感」を堪能できる立場でもなかった。

東海道・山陽新幹線の第2世代「ニュー新幹線」(100系)試作車両のグリーン個室。新幹線で初めてグリーン車と食堂車の2階建て車両が組み込まれた=1985年3月、東京・大井新幹線車両基地(時事)
JR東は「グランクラス」に加え、ビジネス集中型を本格展開へ
新幹線のハイグレードサービスといえば、JR東日本の「グランクラス」を忘れてはいけない。
2011年3月、東北新幹線のE5系「はやぶさ」で誕生したグランクラスは、1両に18席で、1列+2列配置の電動リクライニングシートを採用。15年に北陸、16年に北海道、19年に上越新幹線へ広がった。
専任アテンダントが乗務して軽食や酒類を含む飲み物を提供する列車と、座席のみの利用となる列車がある。22年には前者の車内サービスを刷新。軽食を和食と洋食から選べる「リフレッシュメント」に変更した。
東京―新青森間のグランクラス料金は、飲料・軽食付きの場合、運賃・特急料金とは別に1万3600円。通常期の片道総額は3万1180円となる。
グランクラスの狙いやこれまでの評価について、JR東日本は「例えば、到着地で仕事に専念するため車内でリラックスして過ごしたいビジネス層、旅の記念としての充足感を得たい成熟したミドル・シニア層などの利用を期待してサービスを開始した。ゆとりある広いシートを『落ち着きのあるプライベート空間』と感じてくださる方が多い」(コーポレート・コミュニケーション部門)と説明する。

東北・北海道、上越、北陸新幹線「グランクラス」の車内(JR東日本提供)

「グランクラス」で2026年の夏に提供されている軽食(リフレッシュメント)の和食メニューと日本酒(JR東日本提供)
2030年度内の営業運転開始を目指す東北新幹線の新型車両E10系では、現在公表されている計画にグランクラスは盛り込まれていない。ただ、車内空間を巡っては別の展開が予定されている。
「『移動時間の有効活用』という価値をさらに高めるための機能を備えたサービスを導入予定だ。シート配列を 2列+2列とし、作業性を高めるテーブルや座席間にディバイダ(仕切り)を設置するなど、(普通車指定席で仕事や勉強向けの)『トレインデスク』を発展させたサービスになる」(同)
「ゆとり」や「リラックス」に加え、ビジネスに集中できる空間も新たな選択肢となる。
](/ja/ncommon/contents/japan-topics/3062515/3062515.jpg)
ウェブ会議などができる「トレインデスク」の座席。通常はデッキでの使用を求められる携帯電話での通話も可能だ=2021年2月の実証実験時[JR東日本提供](時事)
これまで各新幹線は増発など主に輸送力の増強により、移動手段として「いつでも使いたい」要求を充たすよう努めてきた。JR各社の新たな施策は、「移動そのものを楽しみたい」「移動時間の使い方を自分で設計したい」といった多様化・高度化するニーズに応えるための戦略といえそうだ。
(※運賃・料金は全て2026年8月時点のもの)
バナー写真:東海道・山陽新幹線「Supreme Class」の1人用個室(JR東海提供)