消音できる熊鈴、長距離撃退スプレー、AIカメラまで:進化するクマ対策

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クマによる人身被害が相次ぐ中、対策グッズが進化している。昔ながらの熊鈴だけではない、工夫を凝らした最新の商品やサービスを探った。

熊鈴も進化、消音ロックや電子音、光も

「チリン、チリン」

歩くたびに鳴る熊鈴は、山歩きなどの際にクマを遠ざける最も身近な対策グッズだ。クマは人との遭遇を避ける習性があるため、音で知らせるのが有効だとされる。

環境省もクマの生息地では、出没情報を確認し、複数人で行動するとともに、鈴やラジオなど音が出るものを携行するよう呼び掛けている。

さまざまなデザインの熊鈴。消音ロック付きもある(nippon.com編集部)
さまざまなデザインの熊鈴。消音ロック付きもある(nippon.com編集部)

東京・神保町の登山用品店「さかいやスポーツ本店」は、入り口付近の目につく場所にクマ対策グッズコーナーを設置し、多彩なデザインの熊鈴をそろえている。市街地などでは音を止められる消音ロック付きや、おしゃれな装飾付き、ホイッスルを組み合わせたタイプなど、利便性を高めた商品も増えている。

営業主任の菅慎也さんは「デザインや音の響き、機能性などを考慮して購入するお客さんが多い」と語る。登山者だけでなく、環境調査などで山に入る企業がまとめて購入し、在庫が無くなったこともある。

大きな電子音で犬の鳴き声やサイレン、鈴の音などを大音量で発する機器もある。必要な時にボタンを押して音を鳴らすタイプで、強い光を発して威嚇する機能も備えている。

クマ対策グッズが並ぶ「さかいやスポーツ」(nippon.com編集部)
クマ対策グッズが並ぶ「さかいやスポーツ」(nippon.com編集部)

撃退スプレーは性能をチェック

都市部に出没するアーバンベアなど、人間を恐れないクマの存在も問題になっている。万が一クマに遭遇した場合の「最後の手段」になるのが撃退スプレー。唐辛子由来の刺激成分などを近距離からクマの顔に向けて噴射し、攻撃や接近を一時的に抑えるものだ。

さかいやスポーツでは1セット6000円台から2万円近くの商品が並ぶ。店頭には、噴射距離12メートルと表示された新商品や、練習用がセットになった商品もあった。高価でも山歩きをする人などの購入が絶えないという。

スプレーは製品によって、噴射の距離や時間、広がり方などが異なるため、購入時の確認が欠かせない。環境省は2026年8月、撃退スプレーの製造・販売者に対し、成分、噴射距離・時間、噴射パターン、噴射機構・安全装置、使用期限などについて推奨する性能要件を示した。また、消費者庁は購入者らに対し「クマ撃退用」であることを確認し、緊急時にすぐ使えるよう取り出しやすい場所に装備することなどを勧めている。いざという時に期待した機能が発揮されないと、命にかかわるためだ。

自治体・公共向け防災専門展示会「地域防災EXPO」で展示されたクマ対策グッズ=東京都江東区の東京ビッグサイト(時事)
自治体・公共向け防災専門展示会「地域防災EXPO」で展示されたクマ対策グッズ=東京都江東区の東京ビッグサイト(時事)

撃退スプレーは航空機内に持ち込めない。空路でクマの生息地域へ向かう場合、レンタルや現地での調達などを検討する必要がある。

「襲われた時」の重傷化軽減

襲われた際の被害そのものを小さくしようという発想も出てきた。クマによる外傷の多くは顔や頭に集中し、命に関わる事態になりやすいためだ。

秋田大学は9月、「クマ外傷重症化軽減プロジェクト」をスタートすると発表した。遭遇時の防御姿勢の普及を進めるとともに、帽子や手袋など身に着けて体を守る「減災用品」を開発するという。

既に複数の会社からクマの爪から身を守る防護服なども販売されている。

AIやセンサーで「出やすい場所」検知

「出会わない」ようにする技術も進化しつつある。デジタル機器を使ってクマが頻出する場所を把握して共有し、遭遇を防ぐものだ。

AI(人工知能)を搭載したカメラを出没歴のある場所などに設置し、クマを監視。クマの動きを把握した場合、放送やメールで希望者に通知する仕組みを導入する地域も出てきた。

AIセンサー付きのカメラでクマを感知すると人間に注意を促し、クマには大音量を浴びせて撃退する「ベアラート」(防除研究所、PRTIMES)
AIセンサー付きのカメラでクマを感知すると人間に注意を促し、クマには大音量を浴びせて撃退する「ベアラート」(防除研究所、PRTIMES)

目撃情報を地図上に蓄積したサイトは都道府県ごとに整備されつつある。「クマ出没マップ」「クマダス」など地域ごとに独自の名前がついているが、サイトでクマの出没歴をチェックできる機能はほぼ同じ。自治体サイトのクマ対策ページにリンクや使い方が示されている。

秋田県のクマ出没マップ「クマダス」の画面(時事)
秋田県のクマ出没マップ「クマダス」の画面(時事)

自治体の発表や専用カメラの情報などを元に全国の出没状況をまとめた「クマップ」「ファストベア」などのサービスも始まっている。

臭いを利用した忌避用品も

鋭い嗅覚のクマを臭いで遠ざける商品もある。オオカミの尿や乾燥ヒトデ、トウガラシの成分であるカプサイシンなどを使った忌避用品だ。

一方、食料や生ごみなどクマを引き寄せる臭いを外に漏らさないよう適切に管理することも重要だ。キャンプ場などでは密閉機能を強化したごみ袋などを使うことも推奨されている。

北海道や長野など住宅地でのクマ対策の歴史が長い地域では、住宅街のごみ集積場の扉を頑丈にして、クマが生ごみなどを荒らせないようにするといった工夫も進んでいる。長野県軽井沢町のNPOピッキオは、クマが物理的に開けることができない強固な構造を持つゴミ箱「Bear Smart Box」を販売している。

クマには操作が難しいロック機能を備えたごみ箱「Bear Smart Box」の実証実験の様子(NPO法人ピッキオ、PRTIMES)
クマには扉を開けにくいロック機能を備えたごみ箱「Bear Smart Box」の実証実験の様子=のぼりべつクマ牧場(NPO法人ピッキオ、PRTIMES)

クマ対策は「熊鈴」だけでなく、さまざまなグッズを用意する時代になった。しかし、どんな道具も万能ではない。機能と限界を正しく理解し、遭遇を避けられるよう人間の行動様式を変えていくことが最大の防御策となる。

【資料】

バナー写真:アウトドアや登山だけでなく、市街地への出没に備えて売れているクマ対策グッズ(PIXTA)

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