安くて大粒! 富山湾のホタルイカが豊漁:能登半島地震の影響で不安視も、3月は前年比17倍の水揚げ

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春の味覚・ホタルイカのシーズン到来。名産地・富山湾では、2023年に過去最低の水揚げ量を記録し、元日に発生した能登半島地震の影響も心配されたが、3月から始まった定置網漁は絶好調だ。東京・豊洲市場(江東区)には連日、ホタルイカが大量に入荷し、手頃な価格で取引されている。

大粒&濃厚な味で、前年の7割安!

富山湾の春の風物詩「ホタルイカ漁」が記録的な豊漁だ。2023年の総漁獲量は418トンと、データの残る1953年以来最低の大不漁だったが、今年は3月1日に定置網漁が解禁になると、たった1カ月でおよそ1200トンを水揚げ。前年同月比(70トン)では17倍という好調な滑り出しとなった。

今後、このペースを維持できるかは分からないが、富山県農林水産総合研究センター(滑川市)の水産研究所は、解禁前の他の漁における混獲状況や、調査船の結果などから、6月ごろまで続く今シーズンの漁獲量について、2200トン以上の豊漁と予想する。

当然、流通価格も大幅に安くなっている。豊洲市場における4月上旬の富山産ホタルイカの卸値は、ボイルでトレー1枚(300~400グラム)当たりが400~700円(中心値500円)。昨年4月上旬は800~2300円(同1500円)だったので、7割安の水準となっている。さらに市場関係者の間でも「大粒でぷっくりとしていて、味も濃厚」と評判は上々だ。

寄生虫がいるホタルイカは、軽くゆでてから出荷するのが主流 写真:PIXTA
寄生虫の危険があるホタルイカは、ボイルして出荷するのが主流 写真:PIXTA

水揚げ日本一は兵庫、知名度は富山

ホタルイカは日本海を回遊する群れを漁獲し、ボイルや冷凍してから各地へ出荷する。富山産が特に有名だが、実は兵庫県の日本海側、浜坂港や香住港など但馬地域での水揚げ量の方が多い。 

なぜホタルイカといえば、富山産のイメージが強いのかというと、この時期に富山湾沿岸で見られる「身投げ」の影響が大きい。沖合の水深200メートルほどの海底付近に生息するホタルイカは、産卵のために夕方から夜にかけて浅瀬の海面近くまで上がってきて、名の由来である青色の光を放つ。一部は浜辺に打ち上げられるために「身投げ」と呼ばれ、沿岸部に無数の青い光が浮かび上がる景色は春の風物詩となっている。これを定置網で一網打尽にする富山湾の漁は、観光船による見学ツアーも人気だ。

幻想的な風景を生み出すホタルイカの身投げ 写真:PIXTA
幻想的な光景を生み出すホタルイカの身投げ 写真:PIXTA

一方、兵庫県は沖合での底引き網漁のため、ホタルイカは海底近くから引き揚げる間に弱ってしまい、水面近くで発光することは少ない。

さらに兵庫産は雄雌が混在する状態で水揚げするが、富山湾の場合は産卵期のぷっくりと太った雌のみで、漁場と港が近いため、すぐにボイルして出荷できるのも強みだ。料理人からも「富山産は鮮度も味も抜群」と評価が高い。

網の中でも青く光っているホタルイカ。奥には乗客満載の海上観光船が見える 写真:時事
網の中でも青く光っているホタルイカ。奥には乗客満載の海上観光船が見える 写真:時事

能登半島地震に負けず、過去最低の不漁から一転

今年は元日に、最大震度7の能登半島地震が発生。富山湾の漁港施設にも地割れや地盤沈などの被害があったほか、海底の地形変化で定置網が破損した港もあった。「今年もホタルイカ漁は厳しいのでは…」と悲観する声も上がったが、ふたを開けてみれば大豊漁。その理由について、同県水産研究所は「日本海を回遊する群れが大きかったことや、海流・水温といった海洋環境が、富山湾への来遊に適していることなどが考えられる」と解説する。

そもそも、富山湾のホタルイカは漁獲量が不安定だ。1990年代前半には、年間4000トン近く水揚げされたこともあったが、ここ10年の平均は1300トンほどで、豊漁・不漁を繰り返している。昨年が大不漁であっても、「今年も悪い」とは言い切れない状況だった。いずれにしろ、被災地には明るいニュースで、消費者にとっても朗報だろう。そして、なんとかホタルイカ漁ができるまで、港の機能や漁具を復旧させた富山の漁業関係者には頭が下がる。

生のホタルイカも、寄生虫対策で一度冷凍する。震災で被害を受けた水産加工場も少なくなく、そちらも懸命に復旧した 写真:PIXTA
生のホタルイカも、寄生虫対策で一度冷凍する。震災で被害を受けた水産加工施設も、漁期に向けて懸命に復旧した 写真:PIXTA

富山産が鮮魚店でも、手頃な値段で購入可能

流通状況については、すでに鮮魚店に並んだホタルイカを見て「今年は大粒で安いな」と思った人も少なくないのではないか。

兵庫産は例年、流通量や価格が比較的安定している。豊洲市場では今年4月上旬、トレー1枚当たり300~450円(中心値350円)で、前年と同レベル。富山産に比べて安価な上に、流通量も安定しているため、スーパーなど量販店に卸される場合が多い。

富山産は主に料理店向けで、昨年みたいな高値なら、余計に量販店のバイヤーは手を出せない。ところが、今年のように豊漁だと、話は変わってくる。豊洲の競り人によれば「富山産の卸値が500円になったとたん、仕入れにくるスーパーの多くが、兵庫産から富山産に切り替えるようになった」と打ち明ける。

富山産の大粒のホタルイカを手にする築地場外市場の鮮魚店 写真:筆者提供
富山産の大粒のホタルイカを手にする築地場外市場の鮮魚店 写真:筆者提供

大粒のホタルイカ、手軽においしく味わおう

3月下旬、2つの産地のボイルホタルイカを購入して比較してみた。個体差はあるが、富山産が6グラム前後、兵庫産は3グラムとほぼ倍近い。さらに、はらわたがたっぷり詰まった富山産は、うまみも濃厚だった。

ちなみに富山産のホタルイカが大粒な理由は、はっきり解明されていないのだそう。ただ、「富山湾の水温や餌となるプランクトンなどが、ホタルイカの成長に適している可能性はある」(同県水産研究所)という。

購入した富山県産のホタルイカ(左)と、兵庫県産(右)。大きさと太さが段違いだ 写真:筆者提供
自宅で食べ比べた富山県産のホタルイカ(左)と、兵庫県産(右)。ぷっくり度合いが違う 写真:筆者提供

酢みそやしょうゆと合わせるのが一般的だが、築地場外市場の鮮魚店に聞くと、「しょうゆをたらした卵黄にからめるのもおいしい」そうだ。なめろうや茶わん蒸し、炊き込みごはんなど応用範囲は広く、オリーブオイルでニンニクと一緒に炒めればパスタにも合うという。

被災地応援の意味も込めて、豊漁の富山産ホタルイカを食卓の一品に加えてみてはどうだろう。

和食だけでなく、パスタなど洋食でも絶品のホタルイカ 写真:PIXTA
和食だけでなく、パスタなど洋食でも絶品のホタルイカ 写真:PIXTA

バナー写真:築地の鮮魚店で、パックからあふれるほど盛られた富山産ホタルイカ 写真:筆者提供

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