名優に愛された懐石弁当 コロナで苦境 老舗“別れの日”

社会

多くの歌舞伎役者や、歌舞伎ファンに愛され続けてきたお弁当。

人気の懐石弁当は、歌舞伎の幕あいに冷めてもおいしく食べられるよう、濃い目のしっかりした味付け。

作ってきたのは、東京・銀座の歌舞伎座前に店を構える弁当店「木挽町辨松(こびきちょうべんまつ)」。

ついに20日、長い店の歴史に幕を下ろすことになった。

152年続いてきた辨松の最後の営業が始まった。

店には、辨松の弁当との別れを惜しむお客さんが。

来店客「涙が出てくる。今まで本当にありがとうございました。仏様にあげて、報告して、ゆっくり味わっていただきます」

木挽町辨松の創業は、江戸時代が終わり、明治元年となった1868年。
国内では、まだ戊辰戦争が続いていた時代。

それから1世紀半にわたり、歌舞伎座とともにあり続けてきた弁当店。

5代目店主、猪飼信夫さん(67)は店を閉める理由を「後継者がいない。われわれも、だんだん年を取ってきますので、病気とかリスクも高くなってきます。誰か1人倒れてもできませんから」と話す。

猪飼さんは後継者がいない現状を考え、2019年の夏ごろから、事業を別の企業に譲渡する話を進めていた。

しかし、今回のコロナ騒動でその話は立ち消えとなり、正式に廃業を決めた。

別れを惜しむ声は、歌舞伎界の大物たちからも寄せられている。

松本白鸚さん(77)「さみしいですね。辨松のお弁当のおいしい味はいつまでも僕の心に残っています」

中村獅童(47)「幼い頃からのたくさんの思い出が詰まった味。心よりお疲れさまでしたの気持ちを伝えたいです」

そして、もう1人、この店の味に3~4歳のころから親しんできたという歌舞伎界のプリンス、尾上右近さん(27)は「酸素というか、空気というか、あって当たり前のような存在として親しんできたので、残念で切ない気持ちです。一緒にやってきたというものを、これからの僕の人生にも受け止めていきたい」。

この店で、およそ15年間働いてきた渡辺永里子さん(66)にも、忘れられない歌舞伎役者がいる。

渡辺さん「亡き勘三郎さま、白の懐石弁当をお求めになりました」

名優・中村勘三郎さんが愛したという懐石弁当。

その勘三郎さんがこの世を去ったあとには、長男の勘九郎さんがふらりと店を訪れたという。

渡辺さん「『お父さんがこれが好きだったんです』と言ったら、『僕も1つください』と『おやじと一緒の弁当を食べられる』と言ってお買い求めになられましたね。うれしかったですよ」

そして、迎えた閉店時刻。
いよいよ最後のときがやってきた。

猪飼さん「152年続きました辨松は、本日をもちまして閉店させていただく。歌舞伎座の前にこのような弁当屋があったことを忘れないでいただければ、幸いでございます。ありがとうございました!」

惜しまれながら、店じまいした歌舞伎座前の名物弁当。

その味は、ファンの思い出の中で生き続ける。

(FNNプライムオンライン4月20日掲載。元記事はこちら

https://www.fnn.jp/

[© Fuji News Network, Inc. All rights reserved.]

東京 銀座 歌舞伎座 FNNニュース 歌舞伎 弁当 新型コロナ 経済 影響・対策