「やるなら今しかない」宣言解除の舞台裏を徹底検証 浮かびあがる“後悔”と“一強の揺らぎ”

政治・外交

  • 緊急事態宣言の全面解除にあった「自粛の限界」と「経済への影響抑止」
  • 世論の批判を浴びた政府の対策…それぞれの背景を検証
  • 様々な反省を糧に問われる政府の今後の対応

「やるしか今しかない!」全面解除の舞台裏

「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います。全ての国民の皆様の御協力、ここまで根気よく辛抱してくださった皆様に、心より感謝申し上げます」(5月25日・安倍首相会見)

5月25日、安倍首相は北海道や東京都など5都道県の緊急事態宣言を解除すると表明した。緊急事態宣言が最初に出されたのは4月7日。宣言が出されてから5回目の記者会見で、安倍首相は、国民に対し宣言解除後の「新たな日常」を作り上げようと訴えた。

「ここから先は発想を変えていきましょう」

この決断に至るまでは紆余曲折があった。4日前の5月21日、政府はこの5都道県を除く関西3府県の宣言解除を決めていた。そのわずか4日後にあらためて解除の判断を行うのは政府内でも“異例”とされた。政府は当初28日頃に判断するシナリオを描いていたので、事実上、判断を前倒ししたことになる。解除前日の5月24日、北海道と神奈川では、新規感染者が二桁にのぼっていたし、直近一週間の感染者数が宣言解除の目安を超えていた。一部の専門家からは、「25日の全面解除は時期尚早」という声もあったが、24日の夕刻に総理官邸で開催された会議に出席者した面々の雰囲気は全く違うものだった。

「会議では『やるしか今しかない!』という意見が飛び交っていたよ」(24日の会議出席者)

宣言の解除基準に「厳しすぎる!」の声

安倍首相をはじめとする会議の出席者からは、全面解除に異論どころか慎重論すら出なかったという。「(感染者の)数字が落ち着いているタイミングを逃すと、後でどうなるかわからないからね」(政府関係者)。安倍首相や会議の出席者の一致した意見は、新規感染者数が減少傾向にあることや、医療提供体制が確保されていること、また、感染ルートがある程度追えていることから、一括で解除しても問題ないというものだった。

「経済的にも、自粛的にも限界に近付いていた」(政府高官)

政府が宣言の全面解除を決断した要因のひとつに、5月の連休明け以降の感染者数が増加傾向になるとの観測もあった。また、直近週間の新たな感染者数が「10万人あたり、0.5人程度以下」という解除の目安についても、政府内から「海外と比べて厳しすぎる」「0.5人ではなく、1人程度以下でもなんら問題ない」といった意見が出されていた。それらが最終的に、「やるしか今しかない」という大多数の意見へと収斂し、政府は25日に諮問委員会に5都道県全ての解除を諮る決断をした。安倍首相はこの日の自民党の役員会で次のように胸を張った。

「ドイツの100倍に及ぶ厳しい基準だったが、国民の協力で基準を達成することができた」

全面解除をめぐる「政府vs専門家」の構図

関係者の一人は、「安倍首相は21日にできれば全面解除したいと思っていた」と語っている。政府高官も専門家会議などが開催されるのを前に、「21日に全面解除できるかもしれない」と意欲を示していた。しかし、全面解除には至らなかった。多くの関係者が語ったのは、「今回は数字を厳密に判断する」ということだった。「専門家は『もう少し状況を見極めた方がいい』と言うんだよね」と語る関係者もいた。ただ、4日後の25日になって状況が劇的に変わったのかといえばそうではなかった。「経済への影響を考えれば、一日でも早い方がいい」(政府関係者)。政府が全面解除に前のめりになるなかで、解除をめぐる「総合的な判断」の意味合いは、より政治決断の色を濃くしていったと言えよう。専門家の一人は、「もともと数値にこだわっていたのは、政府の方なんだけどな」と首を傾げた。

感染収束では「評価」も「支持されない」政府の対応

5月27日時点で、日本国内の新型コロナウイルスの感染者数は1万6662人で死者は862人。感染者数と死者数はG7加盟国の中でも圧倒的に少ないし、感染者数の抑制という意味においても、これまでの日本の対応をWHOや各国が称賛している。ロックダウン(都市封鎖)ではなく、強制力を伴わない緊急事態宣言下で、多くの日本人が抑制的な生活を自主的に行ったことが大きな要因であることは間違いないだろう。日本人ならではの生活習慣や、医療体制の充実などに起因するとの分析もあるが、政府が最低7割・極力8割、人との接触を削減するとの目標を宣言下で掲げたことは、人々の行動抑制に大きなインパクトを与えのではないだろうか。ただ、各社の世論調査では、一連の政府の対応を評価するという声は多くない。なぜなのか。

「アベノマスク」「ミュージシャンとのインスタ動画」に見る“世間とのズレ”

外出自粛が呼びかけられるなか、4月初旬にミュージシャンの星野源さんがSNSに投稿した「うちで踊ろう」の動画が大きな反響を呼んだ。安倍首相が4月12日に投稿したのは、星野源さんの動画にあわせて自宅でくつろぐ様子や愛犬を抱く姿だったが、これが大きな不評を買った。国民が自粛生活を半ば強いられるなか、“自宅での優雅な生活を披露した”などと瞬く間に批判が沸き起こった。また、動画が何を意図しているのかが分かりづらく、“そもそもセンスがない”といった痛烈な批判もあった。一方、政府が配布を決めた1世帯2枚の布製のマスクについても、市中にマスクが出回り始めた現在も、多くの国民に届いておらず、「アベノマスク」と揶揄された。

「洗うことで再利用が可能な布マスクは、需要の増大を抑えて、需給バランスを回復することに大きな効果が期待できます」(25日・安倍首相会見)

ただ、「アベノマスク」については批判の声がある一方で、「もらえたことで安心した」「毎日ポストをのぞいて、届いているか楽しみにしている」という声もある。大人が使うにはサイズが小さいという声や、使い勝手が悪いという指摘もあるが、各家庭が自家製の布マスクを作成するなど、需給バランス以外に、政府が狙った効果とは“別の効果”があったとみられることは付記しておく。

一方、不評を買ったSNSやインターネットの活用についても、首相官邸は試行錯誤を続けている。安倍首相はゴールデンウィーク中の5月6日に、京都大iPS研究所の山中伸弥教授とネット対談を行うなど、首相会見以外に国民に訴える場面を増やそうとしている。

露呈した与党との調整不足…目玉政策で方針転換

国民への1人あたり10万円の現金給付については、給付の遅れが指摘されているが、決定までの時間がかかりすぎたとの批判がある。4月3日に自民党の岸田政調会長が安倍首相と会談し、新型コロナウイルスの影響で収入が減った人を対象に「一世帯30万円の現金を支給する」ことで合意したが、約2週間後の16日には、「国民一人当たり一律10万円の現金を支給する」という政策に様変わりする。

「もっと判断を早くしておけばよかった、責任は私にありますので、改めて国民の皆様におわびを申し上げたい」(4月17日・安倍首相会見)

当初の30万円給付案については、与党内の綿密な擦り合わせがないままに打ち出され、一律給付すべきとの与党内の声を十分にくみ取れないまま、最終的には与党の巻き返しを食らった形だ。30万円給付については「手続きが複雑すぎる」という声が与党に多く寄せられ、公明党の山口代表が、連立離脱をチラつかせて安倍首相に政策の変更を直接求める事態にも発展した。このため、安倍首相は、かつてリーマンショックを経験し国民への「定額給付金」で痛手を負った麻生財務大臣を説き伏せる必要が生じるなど、リカバリーに追われることになった。安倍首相は、一連の対応が後手に回ったとの批判を甘んじて受け入れるほかなかった。

「悔やんでも、悔やみきれない…」水際対策で出遅れも

緊急事態宣言の全面解除が視野に入ってきた5月中旬ごろ、安倍首相の側近は、これまでの政府の対応をめぐって、後悔を口にしていた。

「悔やんでも、悔やみきれない。ヨーロッパ旅行や帰国者を止めていれば、こうはならなかっただろう」「ヨーロッパからの入国拒否をすぐにやれなかったのが、最大の失点だ」

政府が、ヨーロッパ21カ国とイラン全土からの入国拒否を決めたのが3月27日だった。その後、中国や韓国など、入国拒否の対象地域を拡大し、5月27日現在、全世界で111の国と地域の入国拒否を行っている。政府内では、4月7日に出した緊急事態宣言を当初、3月下旬に出すことも検討されていたが、いくつかの理由でそれが遅れることになる。

小池都知事の「ロックダウン発言」に反発した首相官邸

東京都の小池知事は、都内の感染者数が増加するなか、3月23日の記者会見で「ロックダウン(都市封鎖)などの強力な措置」に言及した。この発言のインパクトは大きく、都内では、スーパーマーケットに買い物客が押しかけて買い溜め現象が起きるようになっていた。政府内では、欧米で行われているような強制的な措置を伴うロックダウンは「日本の法律上不可能」とのコンセンサスがあったため、独り歩きする小池知事の発言を訝しがる声が一斉に上がった。

「小池知事のパフォーマンスに付き合う必要はない」(政府関係者)

「緊急事態宣言というのは、(国民との)コミュニケーションを誤ると大変なことになるんだよ」(別の政府関係者)

安倍首相の周辺は、「緊急事態宣言=ロックダウン、というイメージがまとわりついてしまって大変だった」と振り返る。また、「ロックダウン発言で、東京から地方に移動する人が続出した。緊急事態宣言が何なのか、という相場観を作っておくことが大事だった」とも語っている。4月16日に政府が宣言の対象を全国に拡大した際も、その大きな理由の一つが、ゴールデンウィークを前に、いわゆる“コロナ疎開”を抑制することだった。もう一つ別の要素もある。来年夏の東京オリンピック・パラリンピックが、3月24日に「一年程度の延期」で決着したことも、宣言の発令に向けた環境整備の一因になった。当時、閣僚の一人は、「安倍首相は五輪の予定通りの開催に強いこだわりがあった。延期で固まれば、もっと踏み込んだ措置が取れる」と語っている。一方、ロックダウン発言は、思わぬところにも影響を及ぼしたようだ。

SNSで流布された「4月2日ロックダウン説」が宣言発令に影響か

「まず、そうした事実はありません、明確に否定しておきます。現在国民の皆さんには大変なご不便おかけしていますが、それは緊急事態宣言のような厳しい措置を回避するためのものであります。現状ではまだ緊急事態宣言が必要な状態ではない、このように考えております」(3月30日・菅官房長官会見)

3月下旬にSNS上で拡散された「4月2日ロックダウン(都市封鎖)説」について、菅官房長官は3月30日の記者会見で、「色んな噂が流れているが、そうしたネット上のものは事実と違う」と明確に否定した。政府関係者は当時を振り返り、「デマによる混乱を収束させるため、当初の予定より政府の緊急事態宣言の発令が遅れたことは否めない」と語っている。

「宣言発令」「入国拒否」判断遅れの背景に一斉休校措置への批判

政府内では一斉休校を決めた2月27日以降、ヨーロッパからの入国を拒否する案も検討されたが、「一斉休校決定のプロセスが不透明だ。唐突すぎる」といった批判が、与野党や国民から起こったため、見送られたという。「一斉休校であれだけ批判されたから、すぐにヨーロッパへの措置を取れなかった」と安倍首相の側近は説明する。また、緊急事態宣言をめぐっても、インフルエンザ特措法に基づくことが前提になるため、これを使えるようにするためには、「新感染症」に指定する必要があった。ただ、政府は当初、新型コロナウイルスを「新感染症にあたらない」としていたため、特措法を適用するための法改正の必要に迫られた。結果、特措法に基づく緊急事態宣言の発令が可能になったのは、3月14日のことだった。本来、国内対策と水際対策の両輪で進めるべき対応が、こうした複雑な要素が絡み合いながら、結果、事実上の“空白の3月”が生まれた。

コロナ対策にみる「官邸主導の限界値」と今後

政府は緊急事態宣言の発令からおよそ一カ月半経過した5月25日に全面解除を決定した。これまでの未知のウイルスとの闘いは、手探りの連続だったと言っていいだろう。「安倍一強」と言われてきた政治状況も、揺らぎが見えつつある。これまでの政府の対応について、あえて対応が遅れた面や、浮かび上がった課題に焦点を当てて検証してきた。政府は、国内対策だけでなく、海外の動向を見極めたうえで、見えない明日への指針を示すという極めて難解な課題に対応する必要がある。安倍首相も、新型コロナウイルスへの対応について、今後検証を進める考えを示しているが、収束を待たず日々行われるべきであることは言うまでもない。スピード感を持った経済対策も待ったなしだ。今回は多くを触れなかったが、政府の経済対策が「絵に描いた餅」になってはならない。雇用調整助成金や持続化給付金など、政府が打ち出す政策の「実行スピードが遅い」という厳しい指摘については検証するまでもない。

緊急事態宣言下で、感染者の爆発的な増加や死者数を抑え込めたのは、自主的に行動した国民の協力なくしてはあり得ないからだ。問われるのは今後の対応だ。政府は二転三転したため遅れを生じた意思決定プロセスを検証し、政府与党が一体となった政策を強力に推進することが求められる。第二波、三波の足音が聞こえるなか、失敗を生かした対応が求められる。これまで自粛と言う形で協力を続けてきた多くの国民が納得できる政策を求めたい。最近の内閣支持率の急落について、安倍首相の周辺はこう語った。

「官邸や永田町の意見だけ聞いていても、必ず失敗する。批判を覚悟で正しいことを首相には言わなければならない」

(フジテレビ政治部・新型コロナウイルス検証チーム)

(FNNプライムオンライン5月30日掲載。元記事はこちら

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