「生きながら人生の墓場、国会閉幕は奴隷解放」霞が関はなぜ疲弊・劣化するか

政治・外交

  • 「苦情電話対応に1時間」で立ちすくむ官僚
  • 「役所は毎日“株主総会”やっているんですね」
  • 「俺はこんなことやるために役所に入ったのか」

今回のコロナ対策では、個人や企業に対する現金給付で大混乱し、給付金の委託事業を巡る問題も浮上した。17日政府が閣議決定した「骨太の方針」では最優先課題を「デジタルガバメント」としたが、毎年政府が目標に掲げても行政効率化のスピードは鈍く、霞が関の疲弊と劣化が進むばかりだ。日本の頭脳集団にいったい何が起こっているのか?取材した。

委託事業は「PC設置・技術指導で400億円」が本質

「ソリューションはデジタル化ですよ」

経済産業省の持続化給付金委託事業を巡る問題について、こう語るのはシンクタンク「青山社中」筆頭代表の朝比奈一郎氏だ。朝比奈氏は経済産業省出身、官僚組織の裏の裏まで知り尽くしている。

「問題となっている769億円のうち約400億円はPCの設置や技術指導(受付会場での申請支援)。中抜きだ、何だと批判するより、それをどうカットするか考えるべきです。またスピードとコストを考えた場合、民間で出来ることは民間でやったほうが公務員を雇うよりコストは安い。しかしその分、公正中立に課題が残るのをどう評価するか。こうした議論こそが本質でしょう」(朝比奈氏)

青山社中筆頭代表の朝比奈氏は、官僚組織の裏の裏まで知り尽くしている
青山社中筆頭代表の朝比奈氏は、官僚組織の裏の裏まで知り尽くしている

「行政にエンジニアリングチーム持つのが大事」

霞が関の旧態依然としたアナログ体質は、いまに始まったことでは無く、振り返れば20年前から行政の電子化が唱えられてきた。しかしその障壁として立ちはだかったのが、霞が関のデジタル人材の不足だ。

「霞が関はどうしても文系が強くて、なかなか電子化が進みません。解決策は民間からデジタル人材を入れるしか無いのですが、どんなに優秀であっても1人だけではダメです。行政の作法や省内政治も分かった人材も含めて、チームで動かさないと機能しないですね」(朝比奈氏)

東京都では昨年9月、ヤフーの宮坂学元社長が副知事に就任し、都庁のICT部門の設立と人材獲得を開始した。まだ都庁職員全体の1%にも満たないものの、利便性の高い「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を立ち上げるなど、その効果は早くも生まれている。

宮坂氏は「行政の中にエンジニアリングチームを持つというのは、外注するにせよ内製化するにせよ、すごく大事なことだと思っています」と筆者のインタビューに語っていた。

「苦情電話対応に1時間」で立ちすくむ官僚

とはいえ霞が関の官僚といえば、日本の頭脳集団であるはずだ。にもかかわらずなぜ民間が出来る電子化が霞が関では進まないのか。

「官僚が劣化しているといわれますが、苦情処理まで押しつけられて、イノベーティブな政策立案ができない状況です」

こう語るのは自身も官僚経験があり、政界に転身後は内閣官房副長官も勤めた慶應大学教授の松井孝治氏だ。

慶應大学教授 松井孝治氏
慶應大学教授 松井孝治氏

松井氏は、厚生労働省の若手が昨年「生きながら人生の墓場に入った」と職場の窮状と働き方改革を訴えた提言を例に挙げてこういう。

「霞が関では、苦情電話がそのまま現局の政策担当部署につなげられる。こうした電話を各課の若手が取ったら、対応にそれこそ1時間コースです。一番被害にあっているのは厚労省。年金設計のプロはお客様対応のプロではない。企業であればマニュアルを整備しますが、役所にはこうした苦情処理のシステムが無いので、まず体制そのものを変えていかなければいけません」

苦情電話対応の体制改善が必要(画像はイメージ)
苦情電話対応の体制改善が必要(画像はイメージ)

「官僚のつるし上げの場」野党合同ヒヤリング

さらに官僚をイノベーションから遠ざけるのが、国会対応だ。

松井氏はこういう。
「私の官僚時代、野党は厳しかったけれど、質問主意書が毎日出るようなことはなかった。主意書が1週間に2本当たったら、役人は他の仕事が出来なくなります。全省庁と協議し、内閣法制局の審査もある。また、野党合同ヒヤリングは課長クラスで対応しますが、課長補佐も後ろにいて、結局役所で昼間まともに仕事出来る人がいない状態になります」

朝比奈氏は「国会対応は昔と大きな違いが2つある」と語る。

「政治主導の流れと霞が関の地盤沈下で、かつては陣笠議員なら若手職員で説明して回っていたのが、ある程度のポジションの職員を出さないといけなくなった。また政権交代を経験したことで、野党対応も丁寧にしなければならなくなったことです」

さらに朝比奈氏は、野党合同ヒヤリングを「官僚のつるし上げの場」になっていると指摘したうえで、「国や社会のための政策議論をする場ならやればいいのですが、自分たちが与党になる緊張感が無い中で、見せ場だけ作ろうと固定化するのがよくない」と危惧する。

「役所は毎日“株主総会”やっているんですね」

コロナの感染拡大が続き、経済への打撃が本格化する中、国会は幕を閉じた。これには国民からも「緊急事態なのだから国会で議論を続けて欲しい」と不満や切実な声が上がっている。

しかしこれまでも度々「通年国会」が議論されるが、なぜか深まることは無い。

朝比奈氏はこの理由を「国会閉会日を官僚達は、『奴隷解放記念日』と陰で呼んでいるからです」と苦笑する。

「通年国会になれば大変です。理屈でいえば、会期による審議未了廃案はありえないのですが、実態としては官僚が皆倒れてしまうし、国会議員も選挙があるので地元に帰りたい。通年国会をやりたい人は、本音ではほとんどいないはずです。審議日程や大臣出席を内閣がコントロールできることと、バーターでやらないと厳しいですね」 

松井氏も「現状では通年国会はありえない」という。

「官僚は閉会中が仕事に集中できる期間だと思っています。会期中は与野党で日程がぎりぎりまでもめて、結局委員会前日になって質問者が決まって、役所が質問を受け取るのが夜中になるとそのまま徹夜で翌朝大臣にレク。ここの問題は、国会対応する人達が政策を作っていることですね。こういう話を民間企業の方にすると、『役所は毎日、株主総会をやっているんですね』といわれます(苦笑)」 

官僚は国会が閉会するとやっと仕事に集中できるという
官僚は国会が閉会するとやっと仕事に集中できるという

「俺はこんなことやるために役所に入ったのか」

朝比奈氏率いる青山社中は6月、経営コンサルティングファームのボストンコンサルティンググループとの業務提携を発表した。

「霞が関でも地方自治体でも、行政課題が複雑化し仕事がどんどん増えるため、大所高所に立った中長期戦略を考えることが後回しになっています。しかも人数が増えないので、まさに二重苦の状況です。いま優秀な人材が投資銀行やコンサルに流れているので、その知恵を公的機関に回してもらおうと、その接着剤として我々が役に立てればと考えています」

松井氏も語る。
「霞が関は一般の国民や国会議員も対応しながら、業界の調整も行っていてパンクしています。しかし政治は見て見ぬふりで、国会改革をしないので霞が関は絶望しています。政策実現を求めて役所に入っても、最近は民間も公的な仕事をしている。『俺たち、こんなことをやるために役所に入ったんだっけ』となりますね。役所の人員配置はもちろん、国会のあり方を変えていかないと、役所がどんどん劣化していくことになります」

日本最大のシンクタンクであるはずの霞が関が劣化しないよう、政治が政策議論本位に戻り、行政電子化を進める「骨太」を旗振りだけに終わらせないことが必要だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

(FNNプライムオンライン7月23日掲載。元記事はこちら

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