“安定のガースー”こと菅氏を待つ2つの難題と解散論~仁義なき総裁選で踊った“二階流”の真髄

政治・外交

  • “大本命”菅氏を待ち受ける難しい人事と情報収集の困難化
  • 早期の解散総選挙を求める自民党内に声に菅氏の判断は
  • 老獪・二階氏が示した政界の要諦

“安定のガースー”は何をやるのか

「安倍政権が進めてきた改革の歩みを決して止めてはならない」

ポスト安倍を決める自民党総裁選挙出馬にあたり、こう力を込めたのは“大本命”とされる菅義偉官房長官だ。そして菅氏は、あっという間に自民党の7派閥のうち5派閥の支持を受け、石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長に対して圧倒的優位に立った。


かつて派閥政治の打破を打ち出したこともある無派閥の菅氏は今や、二階俊博幹事長という老獪な政治家の後ろ盾のもと、並み居る派閥の長を手なずけるかのような体制を構築した。そして余程の波乱が起きない限り、菅首相が誕生するのは時間の問題となっている。


菅氏の強みの1つは、自らが結果を残してきた官僚機構の縦割り打破や規制改革に関しての実行力、そして官房長官として長年にわたり危機管理を担ってきたという自負だ。

さらに菅氏のもう1つの強みが「情報収集力」だ。3台の携帯電話を使い分けつつ、この7年8カ月の間、朝昼晩と様々な相手と会談し、情報収集を続けてきた。その情報を武器にしつつ、「令和おじさん」「安定のガースー」などともてはやされても決して安倍首相の前に出ることはなく黒子に徹してきた。その菅氏がいま、「全く考えていない」と繰り返してきた総理総裁への道を自らの意思で切り拓き、その座を手に入れようとしている。


情報力を維持できるか?いずれ迫る“官邸病”の懸念と“側近人事”の難しさ

今後の課題は、「安定のガースー」が総理総裁として何をやるかだ。しかしその道は必ずしも平たんではない。まず人事だ。派閥からの推薦を受けないと明言した菅氏が、自らを支持した5派閥が納得できる、不満を封じ込める人事を断行できるのかが注目される。

政策パンフレット
政策パンフレット

特に、自民党内や連立与党の公明党に絶大な影響力を誇る二階幹事長を続投させるのか交代させるのかが、まず大きな焦点になる。現時点では続投との見方が大勢だが、その場合は二階氏への権力集中を警戒する細田派・麻生派・竹下派の不満に配慮する人事を行う必要性が生じるだろう。

細田派・麻生派・竹下派の共同会見・9月2日
細田派・麻生派・竹下派の共同会見・9月2日

また人事においては、安倍首相に「菅官房長官の官房長官がいない」と言わしめたように、参謀としての官房長官ポストに誰を起用するかも課題だ。菅氏は官房長官として、国会対策や党内情勢の掌握など辣腕を発揮してきたが、その言わば“社内統治”をどのように行うのか、自らが引き続き主導するのか、参謀や側近ら信頼する誰かに託すのかが焦点となる。


次に、総理総裁になっても、武器としてきた「情報収集力」をこれまでと同じ水準で維持できるかどうかだ。安倍政権の残した教訓の一つに、いわるゆる“官邸病”がある。政権後期になると安倍首相は、菅氏という強力な参謀を持ちつつも、側近官僚の意見に傾倒し、コロナ対応などで世論の動向を見誤った場面がある。複数の官邸メンバーがこう証言している。

「政権が長くなって、耳障りの悪い話が首相の耳に直接入りづらくなっている」

この教訓をふまえる必要がある菅氏だが、首相になれば、日々の動向はこれまで以上に国民やメディアに注視され、警備上の都合もあり行動は制限されるようになる。縦横無尽に動き、時に隠密に行ってきた菅氏独自の情報収集は続けられるのか。それは菅氏らしさを打ち出す政策判断・政局判断に影響するだけに、「首相の目と耳になる」とも言われる側近に誰を置くかとも絡んで最初のハードルになりそうだ。

北海道知事選の応援に訪れた菅氏・2019年
北海道知事選の応援に訪れた菅氏・2019年

縛られる解散総選挙の時期、菅氏の判断は?


そして「次の総理総裁は菅」が既定路線になりつつある今、永田町の関心事は人事と共に解散総選挙の行方に移っている。来年秋の衆議院の任期満了を待つことなく、解散総選挙に打って出る可能性が囁かれているほか、菅氏のもとには自民党議員から「早期解散すべし」との声が多く寄せられているという。

菅氏はコロナ対応を優先する考えを示しつつも、4日のフジテレビの「LiveNews it!」では、いつ解散するかという問いに対して「状況次第だ」と早期解散に含みも持たせている。新内閣発足後の支持率や世論の動向、新型コロナウイルスの感染状況を見極めて、「今やるべきだ!」と思えば瞬時に決断するのだろう。

4日のフジテレビの「LiveNews it!」
4日のフジテレビの「LiveNews it!」

菅氏は2008年秋、当時就任したばかりの麻生首相や公明党が10月解散総選挙を視野に入れた際、リーマンショックの影響が大きいとして異論を唱え、年が明ければ支持率も回復すると進言した。麻生氏はこれを聞き入れたが、下落した支持率が持ち直すことはなく、自民党は2009年夏の総選挙で惨敗、民主党に政権を明け渡すことになった。麻生氏にとってトラウマになっているとされる、この解散見送り論を唱えた菅氏が、今回自らが「伝家の宝刀」を抜くポジションに就いた時、何を思いどのような決断を下すのだろうか。

菅氏優位の流れを作った「老獪な政治家」に見る永田町を生き抜く術

自民党総裁選挙は、国会議員や党員だけが投票できる国民不在の選挙などとよく言われるが、投票権を持たない多くの国民の民意をくみ取らなければ、共感なき政治を進めることに直結してしまい、支持率もそれを反映したものになるだろう。どの候補が総裁になろうとも、その点は変わらない。岸田、石破両氏は、苦戦を強いられているが、来年秋には再び総裁選がある。今回敗退したとしても、この経験を通じて次にどう戦うのかという教訓や課題が見えるだろう。

今回の総裁選では人間関係をめぐって、岸田氏に対して麻生副総理が苦言を呈したり、石破氏に対して竹下派幹部が厳しい言葉を向けたこともあった。岸田・石破両氏にとって、これを永田町の旧弊だと見ることもできるが、人と人との繋がりやそれぞれの事情という政治の根源的なものだと捉え、果敢に乗り越える勇気がなければ、次回も同じことが繰り返されてしまう可能性がある。

今回の総裁選で、いち早く菅支持を打ち出し、大きな流れを作った二階氏はかつて親しい与党議員に政治の要諦をこう話したという。

「政治家の発言は、七色に光るものでなければならない。どうとでも受け取れる発言をしておけばいいんだ」

二階幹事長・5日
二階幹事長・5日

愚直さだけでは通らないのが政治の世界だ。安倍首相が辞任を表明する前、二階氏は石破、菅、岸田の3氏について、特定の人物をポスト安倍の最有力と明言することはなかった。しかし、安倍首相の辞任を表明すると、直後にいの一番に菅支持を打ち出した。菅氏の武器が「情報収集力」だとすれば、二階氏の武器は群を抜く「流れを読む力」だろう。権力と人心を同時につかむという一筋縄ではいかない行動を体現してみせた二階氏を評した与党幹部の次の言葉は、権謀術数の渦巻く政界を生き抜く1つの術を表している。

「二階さんは発言がコロコロ変わる。政治の動きに敏感に反応し、体もその通り動いてしまう。でもね、何が何でも仲間のことは守り抜く。これが本当の政治家だよ」

(フジテレビ政治部 自民党総裁選取材チーム)

 

(FNNプライムオンライン9月11日掲載。元記事はこちら

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