「観光は絶対戻る」インバウンド無き浅草はどう復活できるのか

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  • 三社祭は感染対策で神輿がトラックの上で”巡回”
  • 宿泊部屋はテレワーク用スペースにチェンジ
  • 「観光は絶対に戻る」とシェアサイクル開始

GoToトラベルや東京都の都内旅行補助など、政府自治体はあの手この手で観光地や旅行業界の後押しをしている。しかし東京を代表する観光地・浅草はインバウンドが"蒸発"し、苦境に立たされたままだ。果たして復活の策はあるのか?いまの浅草を取材した。

三社祭は感染対策で神輿がトラックの上で”巡回”

「コロナ前に戻ったみたいだ。あんなに嫌だった人混みなのにいまは懐かしさを感じる」

10月中旬の週末、浅草寺の前は久々の賑わいを見せ、地元の住民は思わず顔をほころばせた。インバウンドが"蒸発"したいま観光客の中に外国人の姿はほとんど無かったが、人出が戻り始めたことに地元は安堵した。

しかし当日はコロナで延期されていた浅草名物の三社祭だったが、感染対策のため神輿がトラックの上に乗せられて街中を回るという異例の光景で、祭りの賑わいを楽しみにしていた人々を残念がらせた。

三社祭は感染対策で神輿がトラックの上で街中を回った
三社祭は感染対策で神輿がトラックの上で街中を回った

「インバウンドが無くなりお手上げの状態だね」

こう語るのは生粋の浅草っ子であり、浅草商店連合会の理事を務める諏訪信幸さんだ。

諏訪さんは浅草が雑多な下町から東京一の観光地へ変貌する姿を、自分の目で見てきた。

「80年代まで浅草は猥雑で雑多なイメージでしたが、“下駄履き住宅”といわれる一階が店舗で上に従業員が住んでいるような家が多かったから、昼間と夜の人口が変わらなくて地元の中で経済が回っていました」

しかしその後浅草の人口が徐々に減ると、浅草の経済は疲弊していった。

そこで当時の40~50代の住民が中心になって、街を観光地化しようと立ち上がった。

「伝統文化の街となってからは、リーマンショックで一時期客が減ったけど、そのあとはインバウンドで豊かになりましたよ」(諏訪さん)

浅草商店連合会理事の諏訪信幸さんは、生粋の浅草っ子だ
浅草商店連合会理事の諏訪信幸さんは、生粋の浅草っ子だ

「お賽銭4時間待ちの浅草寺」いま仲見世では

今年の正月、浅草寺ではお賽銭箱にたどり着くまで4時間待ちの状態だったという。

しかしコロナが感染拡大し始めた2月頃には、外国人観光客がほぼゼロとなり、浅草が街を挙げて行っていたインバウンド対策は「すべて無駄になってしまった」(諏訪さん)。

7月には仲見世で135年以上続いたあられ菓子の老舗が突然店を閉め、浅草に激震が走った。今秋のシルバーウイークでは3割程度観光客が戻ったが、経済は疲弊したままだ。

その理由を諏訪さんはこう語る。

「近隣からの観光客はお土産を買わないので個人単価が低いのです。だから売り上げは昨年対比で5%程度ではないでしょうか。仲見世ではあと1年もつかどうかという状態の店もあります。もともと経営者が高齢化しているうえに、小規模や零細企業が多くて後継者がいません。来年に向けて廃業がさらに増えるか心配です」

始まったばかりのGoTo効果もまだ見通せず、浅草は先行きが見えない状態だ。

仲見世ではあと1年もつかどうかという店もあるという
仲見世ではあと1年もつかどうかという店もあるという

浅草と言えば約40年の歴史を持つ「浅草サンバカーニバル」がある。諏訪さんはカーニバルの実行委員長も務めているが、こちらも窮地に陥っている。

「これまで1日あたり50万人の動員がありましたが、コロナ感染対策でそんなに人を集めることはできません。今夏の開催は既に4月の段階で来年9月25日に延期しました。参加チームからは『練習ができないから準備は無理』といわれましたね」

建設続いた宿泊施設は開業さえままならず

コロナ前の浅草ではインバウンド、特に東京オリパラを当て込んだ宿泊施設の建設が続いていた。しかしこうした施設の中には、開業することさえままならない状態となっているところもある。

浅草でゲストハウス「Chapter Two(以下チャプターツー)」を経営する上田拓明さんと恵利加さんご夫妻。

上田さん夫妻はゲストハウスを運営する企業に勤めていたが、独立後2018年3月から隅田川沿いでゲストハウスを経営している。

隅田川沿いのゲストハウス「Chapter Two」を経営する上田拓明さんと恵利加さんご夫婦
隅田川沿いのゲストハウス「Chapter Two」を経営する上田拓明さんと恵利加さんご夫婦

上田拓明さんは語る。

「当初は28あったベッドが9割以上の稼働率でした。お客様の9割がインバウンドで、タイ、台湾、韓国あたりが多く、リピーターが3割を占めていました。去年の12月には売り上げが創業以来最高となったのですが、コロナが騒がれ始めた今年1月にいきなり半減しその後は厳しい状態が続いています」

宿泊部屋はテレワーク用スペースにチェンジ

インバウンドの蒸発に外出自粛が加わって宿泊客がほとんど見込めなくなり、チャプターツーは窮地に立たされた。

そこで上田夫妻が考えたのが、宿泊部屋をコワーキングスペースに変え、自宅でテレワークしづらいビジネスパーソンを取り込むことだった。

「テレワーク用のスペースを4月から始めました。Wi-Fiや電源はもちろん昼寝用のベッドやシャワーも利用できますし、リバービューの屋上テラスもあるので自宅より使い勝手がいいと好評を得ています」(拓明さん)

宿泊客が見込めなくなり部屋をテレワーク用スペースに転換
宿泊客が見込めなくなり部屋をテレワーク用スペースに転換

最近では日本に住む外国人が国内旅行でやってくるなど、徐々にではあるが客足が戻ってきているという。上田夫妻はこのピンチをどうチャンスに変えるのか。

「戻り始めた在日の外国人向けに『金曜日はカレー曜日』と題して、毎週金曜日にカレーを作ったりしています。また宿泊事業だけでなく、いまは近隣住民の方々と交流するチャンスと考え、屋上でヨガやカポエラ教室をやったりして、地元浅草を皆で盛り上げるきっかけになればと思います」(拓明さん)

「観光は絶対に戻る」とシェアサイクル開始

「確かにいま観光は厳しいですが、絶対に戻ってくると言い続けています」

そう語るのはシェアサイクル事業「チャリチャリ」を運営するベンチャー企業「neuet(以下ニュート)」の代表取締役を務める家本賢太郎さんだ。ニュートでは2018年に福岡で同様のシェアサイクル事業を開始したが、わずか2年余りで自転車台数1500台、1日の利用数が9千回に達している。

シェアサイクル「チャリチャリ」を運営するneuetの代表取締役 家本賢太郎さん
シェアサイクル「チャリチャリ」を運営するneuetの代表取締役 家本賢太郎さん

そしてニュートが次に進出を決めたのが、浅草を代表とする東京下町エリアだった。その狙いを家本さんは語る。

「実は東京進出の際いろいろなエリアを自転車で回りました。そして日常の移動と観光と両方で使ってもらえるところはどこだろうと考え、台東区から墨田区にかけて広がる下町エリアだと。ここには浅草や上野、両国など個性溢れる街があり、しかも1~2キロの距離で回れて地形もフラットと自転車のちょい乗りには最適です。さらに移動に地下鉄を利用すると乗り換えが多いのですが、自転車なら南北ななめの移動が可能です」

ニュートでは今年4月頃からポート(自転車の置き場)を探し始め、9月からサービスを開始した。

「観光はまず国内の近いところから戻ってきて、インバウンドが何年後かに戻ってくると。ですからその時のために、日常にも観光にも使ってもらえるような準備をしていこうと思っています。自転車があると浅草観光だけじゃなく、歩くと遠いところでも半日でいくつか観光できます。それをできるのがこのエリアの楽しいところですね」(家本さん)

自転車があると半日でいくつも観光できる楽しさがある
自転車があると半日でいくつも観光できる楽しさがある

浅草は若い世代とともに必ず立ち直れる

ニュートでは2022年までに下町エリアで自転車台数1千台を目指している。

「シェアサイクルが発達すれば、三密を避けて通勤通学ができますし、エコな移動手段にもなります。また宿泊施設にあるスペースに置けば、宿泊客が気軽に観光に出かけられ、街にとっても大きなメリットになります。チャリチャリは街の“葉脈”のようになりたいんですね」

地元の利用者からはSNSなどで早くも好意的な意見が寄せられており、シェアサイクルは観光地・浅草復活の起爆剤となることが期待できそうだ。

前述の諏訪さんはこうも語っていた。

「いまは皆食べることで精一杯ですが、幸いにも他の街に比べて、この街には“浅草”という看板があります」

浅草は戦後の焼け野原から立ち上がった。コロナでまた窮地に立たされているが、若い世代を中心に復活への狼煙は上がっている。

筆者は浅草のために立ち上がった人々にこの言葉を贈りたい。

「スクラップアンドビルドでこの国はのし上がってきた。今度も立ち直れる」(映画「シン・ゴジラ」より)

筆者も乗ってみた。ニュートでは安全第一で毎日メンテナンスを欠かさない
筆者も乗ってみた。ニュートでは安全第一で毎日メンテナンスを欠かさない

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

(FNNプライムオンライン10月28日掲載。元記事はこちら

https://www.fnn.jp/

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