山の魅力を発信するハンター 震災を機に故郷に戻り…【岩手発】

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  • シェフ絶賛の鹿肉を提供する若手ハンター
  • 東日本大震災を機に故郷へ
  • 「海、山…故郷の魅力を伝えたい」

シェフ絶賛の鹿肉を提供する若手ハンター

美味しそうな焼き色と、中はほんのりピンク色の「鹿の肉」。
岩手・盛岡市内のレストランで、月に数回、入荷した時だけ味わえる特別な料理(大槌鹿肉のロティ)だ。


グラスト 村松卓哉シェフ:
やっぱり一番は鮮度が良いっていう部分で臭みがが無く、使い勝手が良い。なんでも料理に合わせられるような鹿肉だと思う

シェフが絶賛する鹿肉を出荷しているのは大槌町の兼澤幸男さん(35)。
狩猟免許を取って5年。町内では若手のハンターだ。


猟は早朝から始まり、山の中を車で移動しながらシカを探す。

兼澤幸男さん:
シカの被害がひどくて、米を全然収穫できないって言われて


実は2019年度、岩手県内のシカによる農作物への被害額は2億1200万円で、10年前と比較すると約1.5倍。
こうした被害を少しでも減らそうと、増えすぎたシカが、毎年1万3000頭ほど駆除されている。


兼澤幸男さん:
ハンターの特殊な免許を使って有害駆除できるって知って、ハンターになろうと思った

しかしハンターになって2年目、感じた事があった。

兼澤幸男さん:
有害駆除でとったやつはそのまま焼却炉にポイってする。だったら食べる人を探せばいいやって思って


こうして兼澤さんは駆除を兼ねた猟を始めた。
この日は体重70キロほどの2歳のオス鹿を仕留めた。


兼澤幸男さん:
食肉で扱うのはオスは3歳まで、メスは4歳までって決めてて

さらに氷で冷やすことで鮮度が保たれ、肉の味が格段に良くなるという。

シカに魅せられ…会社も立ち上げ

町の中心部にある兼澤さんの会社・MOMIJI(もみじ)。県内初のジビエ加工場だ。
持ち帰ったシカは1時間以内に肉として加工することで、柔らかく臭みのない肉を提供出来るという。


兼澤幸男さん:
35歳になって、この先なんかチャレンジするってもう厳しいだろうなって

高校卒業後、東京の海運会社に就職した兼澤さん。
東日本大震災の津波で流された母親を探すため、すぐに故郷に帰ってきた。
一時は地元の会社で働くが、豊かな大槌の自然の中で育ったシカに魅せられ、2020年4月、自ら鹿肉を販売する会社を立ち上げた。

兼澤さんをそばで支える妻の華奈さん。
最初は会社を立ち上げることに反対したという。

妻・華奈さん:
子供も小さかったり、不安もあった。でもその不安を吹き飛ばすくらいの勢いと熱意に押されてしまって


今では幸男さんが獲ってきたシカの角や骨などを使ってタペストリーなどのインテリア作品を制作、販売している。


さらに緊急事態宣言で飲食店が営業を自粛していた時期に開業したため、ほとんどの店に鹿肉を卸せないなど苦労の連続だった。
それでもインターネットでの販売を中心に徐々に取扱う量も増えてきている。
また、おいしい鹿肉のうわさはシェフの間で広まり、県内外のホテルやレストランから注文が入っている。

盛岡市内のレストラン・グラスト。

森尾絵美里アナウンサー:
柔らかい。牛肉とかとは違って、お肉はあっさりしていて、噛めば噛むほど肉のうまみを感じます


大槌の自然が育んだ最高の鹿肉。臭みがなくジビエ初心者も食べやすいと人気だ。
兼澤さんの頭の片隅には、どんな時も大好きな故郷の自然があった。

兼澤幸男さん:
大人になった時に、すごい地元が恋しくなるの。よその海を見た時に、大槌の海きれいだったなとか。それって宝なんだなって。海は海で大槌の宝物だし、山は山ですごい豊かな山だから、大槌の魅力だよって教えていきたい


兼澤さんは、きょうも大槌の山の宝を追い続ける。

【取材後記】

兼澤さんを取材しようと決めたのは「ある写真」がきっかけでした。白い霧のかかった草原に横たわったシカに手を合わせる男性。「命」に正面から向き合う姿に目が留まりました。よくよく調べてみると、その男性は鹿肉を通じて「大槌の自然の魅力」を伝えようと活動している方でした。

大槌町は三陸の海に面した町で、海のイメージしかありませんでしたが、山にも恵があると知って驚き、ぜひ山の素晴らしさを教えてもらいたいと思い、取材することを決めました。会って感じたのは「背中で語る男」だなと。朝日をバックに銃を構える姿が印象的でした。

兼澤さんを一言で表すと「有言実行」。例えば、若いシカだけを、小さな頭を狙う高度な銃の技術を使って狩り、氷で冷やしながら解体所まで持ち帰る。そして、1時間以内に解体。これは全て兼澤さんのマイルールで、ここまで高いクオリティーでジビエを出荷している人は全国でもいないのではと、MOMIJIを見学に来た人は驚くそうです。

「全てはおいしい鹿肉を多くの人に食べてもらうため」日本で一番小さなジビエ加工場で、日本一のクオリティーの鹿肉を出荷する兼澤さん、なぜここまで難しい事を続けられるのかと問うと「一度言っちゃったから」だそうです。そんな熱い男、兼澤さんの鹿肉は「今までのジビエの常識」を覆し、「柔らかく、臭みがない、おいしい」鹿肉を当たり前のように実現します。

夢は、牛・豚・鶏の肉のように鹿肉を食べる「文化」を作ること。本当にそんな日が来るのも近い!かも…と感じさせるおいしさでした!

岩手めんこいテレビ・アナウンサー 森尾絵美里


(FNNプライムオンライン10月31日掲載。元記事はこちら

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