手指にウイルス減らす“バリア機能”があった…どう活用できるのか?発見した花王に聞いた

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「ヒトの手や指には、生まれつきウイルスを減らすバリア機能が備わっている」
コロナ禍で手洗い、アルコール消毒といった感染症対策が生活習慣化する中、興味深い研究結果が発表された。

花王株式会社パーソナルヘルスケア研究所、生物科学研究所、解析科学研究所は、ヒトの手指には生まれつき、感染症の原因となる菌やウイルスを減少させるバリア機能が備わっており、風邪やインフルエンザのかかりやすさに関連していることを世界で初めて明らかにした。

また、手指のバリア機能には個人差があり、手汗から分泌される乳酸が寄与しているという。
これまでの手指衛生の手段である手洗いやアルコール消毒の菌やウイルスの除去・不活化効果は、一過性のものであるが、生来の手指のバリア機能は恒常的であることが特徴的だという。
 

画像提供:花王
画像提供:花王

研究結果について、花王パーソナルヘルスケア研究所の研究員はこう話す。
「ある程度、手指に抗菌・抗ウイルス機能があることを想定して研究を始めましたが、個人差があり、人によっては非常に強い方がいる!ということに驚きました。手指バリアの機能がとても強い人の実験結果を見たときは、はじめは実験に失敗したかと思って、何度も実験を繰り返して再現性を確認したくらいです。菌やウイルスと戦いながら、ヒトも進化しているんだなと感じ、生物が持っている高い可能性を感じています。」

では、新型コロナウイルスの場合はどうなのか?聞いたところ、
「今回発表した菌やウイルス以外に対する効果は、現在検証中」ということだ。

そもそも研究を始めた経緯はこうだ。
ヒトは菌やウイルスと長く共存してきたため、進化の過程で感染症を防御する多様な免疫機能を獲得してきた。
そこで花王は、ヒトと外界との界面、ヒトの表層の感染防御機構に着目。特に手指はヒトと外界の重要な接点であるため、菌やウイルスに対抗しうる力を獲得している可能性があると考え、感染症にかかりにくいヒトとかかりやすいヒトで、手指にどのような違いがあるのかを検討することから研究に着手した。

3分後に菌が大幅に減少

では、今回発表された実験結果を詳しく見ていく。

花王は、感染症にかかりにくい意識のあるヒトとかかりやすい意識のあるヒト数名を選別し、手指に大腸菌を塗布して、直後と3分後の手指の菌の状態を調べた。その結果、かかりにくい意識のあるヒトの手指では3分後に菌が大幅に減少していたことがわかった。

感染症にかかりやすい意識のあるヒトとかかりにくい意識のあるヒトの手指バリアの違い(画像提供:花王)
感染症にかかりやすい意識のあるヒトとかかりにくい意識のあるヒトの手指バリアの違い(画像提供:花王)

次に、6名のヒトの手指表面の成分を採取して、抗菌・抗ウイルス活性(菌やウイルスを減少させる効果)を評価したところ、手指表面の成分には、大腸菌だけでなく、黄色ブドウ球菌やインフルエンザウイルス(H3N2)を減少させる効果があることを確認。また、この効果には個人差があり、いずれの菌・ウイルスに対しても高い効果を持つヒトや、その逆のヒトがいることもわかった。

手指表面の成分の抗菌・抗ウイルス活性(画像提供:花王)
手指表面の成分の抗菌・抗ウイルス活性(画像提供:花王)

さらに、10名のヒトを対象に手指表面の成分の抗菌性の日内・日間変動を検証。抗菌性が高い5名と低い5名に分けたところ、その関係が維持されていることがわかった。

手指表面成分の抗菌性の日内・日間変動(黄色ブドウ球菌に対する評価)(画像提供:花王)
手指表面成分の抗菌性の日内・日間変動(黄色ブドウ球菌に対する評価)(画像提供:花王)

これらの結果から、ヒトの手指には菌やウイルスを減少させる機能が備わっていて、その機能には個人差があり、その機能が恒常的に高いヒトがいるとの着想を得た。そして、この機能を「手指バリア」と名づけ、さらに研究を深めたという。

手指バリアに重要な成分は「乳酸」

次に、20~49歳の健常な男女から、感染症にかかりやすいヒト55名、かかりにくいヒト54名の計109名を選抜。手指表面の成分を採取して、その抗菌活性を調べたところ、大腸菌と黄色ブドウ球菌のいずれに対しても、感染症にかかりにくいヒトの成分の抗菌活性が有意に高いことがわかった。すなわち、手指バリアが感染症のかかりにくさに寄与していることが強く示唆された。

感染症のかかりにくさと手指表面成分の抗菌活性の関係(画像提供:花王)
感染症のかかりにくさと手指表面成分の抗菌活性の関係(画像提供:花王)

続いて20~40代の男女54名の手指表面の成分を採取し、黄色ブドウ球菌とインフルエンザウイルス(H3N2)を用いて抗菌・抗ウイルス活性と相関の高い化合物の特定を試みた。その結果、その両方に対して相関がある複数の化合物の中でも特に、手汗から分泌される乳酸が重要であることがわかった。

手指上での乳酸量と手指表面成分の抗菌・抗ウイルス活性との関係(画像提供:花王)
手指上での乳酸量と手指表面成分の抗菌・抗ウイルス活性との関係(画像提供:花王)

こうした研究結果が明らかとなったわけだが、手指バリアを今後、どう活用していくのか?また、初めて耳にする「手指バリア」について気になる疑問を、花王パーソナルヘルスケア研究所の研究員に聞いてみた。

手指バリア機能が高い人は常に高く保たれた

――手指バリアを発表して、反響はあった?

思っていたよりも反響が大きくて驚いています。SNSなどで一般の生活者の方のお声も知ることができました。今後、この技術を応用してどのように社会の役に立てていくかを検討する参考にしていきたいと考えています。

――手を洗うことで手指バリアはなくならない?

手を洗うと手指表面の成分が落ちるので、手指のバリア機能が高い人でもいったんその機能が低くなりますが、ある程度時間が経つと回復すると考えています。実際、数日間にわたり、数時間おきに手指表面の成分の抗菌性の変動を調べたところ、手指バリア機能が高い人は常に高く保たれていました。

実験の様子(画像提供:花王)
実験の様子(画像提供:花王)

汗腺が多い部位はバリアが高いかもしれない

――手指以外の体の部位でもバリアは存在する?

体の他の部位について実験をしていないため、断定はできませんが、その可能性はあると考えています。ただ、手指に関しては、体の中でも汗腺が多い部位であり、特に乳酸によるバリアが高いのではないかと思っています。

――手指バリアは、日本人独特の機能?

今回の研究は日本在住の人を対象にしたもので、違う国やエリアに住んでいる人との比較は今後の検証が必要です。

――手指バリア活性に重要な成分の「乳酸」を増やすにはどうすればよい?

乳酸は、汗の中に含まれていることがわかっています。ただ、含まれている量(濃度)には個人差があり、手汗が多いからといって、必ずしも乳酸が多いわけではありません。実際、自分も比較的手汗が多い方ですが、乳酸の濃度が薄いため、手指にはあまり乳酸は存在していません。乳酸の個人差の原因はまだわかっておらず、どうやって乳酸を増やせばいいのか、現在鋭意研究をしている段階です。

新しい手指衛生の習慣の提案

――手指バリアの発見は、今後どんなことに活用できそう?

日常生活でできる、新しい手指衛生の習慣の提案につながると考えています。菌やウイルスは目に見えないため、そこに伴う責任も大きい。しっかりと研究をして、データは可能な限り共有することで、専門の方だけでなく、一般の方とも議論していくことが重要です。今後も、どのような習慣を提案すべきか、社内だけではなくいろいろな方との議論を重ねて検討していきたいと思います。

――今後、どんな商品が生まれそう?

この発見をどのように応用して商品にしていくかについては、現在検討中です。


――手指バリアの発見により、新しい衛生習慣はどう変わる?

人は様々なものに手で触れています。花王の社員で調べたところ、1時間の出勤中に約1分間に1回は顔に触っているという結果もありました。食事をする前などは意識的に手洗いやアルコール消毒をされると思いますが、このような無意識の行動の前に毎回手洗いやアルコール消毒をすることは難しいでしょう。この手指バリアの発見は、そういった無意識のときにも皆さまを菌やウイルスから守ることに役立つと考えています。

(画像提供:花王)
(画像提供:花王)

 

バリア機能があることがわかっても、今までの手洗い、アルコール消毒をしなくてよいというわけではない。今後も引き続き、基本的な感染症対策を心掛けつつ、バリア機能の今後の研究に期待したい。

 

(FNNプライムオンライン12月16日掲載。元記事はこちら

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