「国民の当たり前の感覚」に寄り添う総理とは 菅首相の大人数会食と安倍前首相のコラボ動画に思うこと

政治・外交

菅首相の“銀座8人会食”が呼んだ大きな波紋

12月14日夜、菅首相は、記者団から今年の漢字について聞かれ、「私自身は国民のために働く内閣、こう銘打っています。ですから働く『働』という字」と答えた。しかし、その後の行動は「国民のために働く」という言葉に照らして物議を醸すものであり、改めて国のトップが「国民の当たり前の感覚」に寄り添うことの意味を考えさせられるものとなった。


この日、菅首相はGoToトラベルを12月28日から1月11日まで全国で一時停止すると表明した上で、記者団に対し「ぜひ国民のみなさんは年末年始静かにお過ごしいただいて、コロナ感染を何としても食い止めることにご協力いただきたい」と語った。

そして官邸を出た菅首相は、東京・銀座のステーキ店に入り、自民党の二階幹事長や林幹事長代理、プロ野球ソフトバンクの王貞治会長、俳優の杉良太郎氏、タレントのみのもんた氏らとの会食に参加した。しかし、政府が5人以上の会食のコロナ感染リスクの高さを指摘し大人数での会食をできるだけ控えるよう呼びかける中、菅首相が8人ほどでの会食に参加したことについて、国民の間に疑問と批判の声が広がった。

政府自民党からは擁護の声 「菅首相は会食メンバーを知らなかった」との指摘も

ただこの会食については、菅首相も決して積極的に参加したわけではないという見方もある。菅首相は予定より大幅に遅れて店に姿を現し、飲めない酒は無論避け、ステーキなどを食すと約45分間で店を後にしたという。菅首相自身も16日、「挨拶をして失礼しようと思ったが、結果的に40分程度残って話をする結果になった」と民放の番組で釈明した。

さらに政府自民党からは首相を擁護する声が相次いだ。西村経済再生相は「一律に5人以上の会食がダメと言っているわけではない」と指摘し、下村政調会長は極端な会食の自粛につながることへのけねんを示した上で「感染拡大に十分配慮しながら総理が会食することについて批判するのはちょっと過剰反応」だと首相をかばった。また森山国対委員長は、主催者以外の出席者は会食の人数を必ずしも分からないと指摘し、主催者の側が菅首相に配慮すべきだったとの認識を示した。

実際、この会食は二階幹事長が音頭をとって開催されたもので、誘われた側の首相は二階幹事長ら以外の出席者について把握していなかったと関係者は説明している。また「二階幹事長がいると断れないだろう」と菅首相の胸中を察する声も聞かれた。


前回の会合に出席していたのは安倍前首相

そして参加者の一人は、この会は定期的に開催しているものの、菅首相は今秋に首相になって以降はじめてメンバーに入ったことを明かしている。その言葉の通り、約5カ月前の7月22日に行われたほぼ同様のメンバーでの同じ店での会食には菅氏の姿はなく、当時の安倍首相が、官邸での新型コロナウイルス対策本部を終えたその足で出席していた。

同じステーキ店に入る安倍前総理・7月
同じステーキ店に入る安倍前総理・7月

そうした形の会だけに、常日頃から相手を問わず幅広く面会や会食をし、意見を聞いて回っていると菅首相にとっては、今回の会食も「国民のために働く」行動の一環という意識だったのかもしれない。

しかし安倍前首相の参加した7月22日の会食は、東京を除く地域でGoToトラベルの運用を開始した日だったにも関わらず、東京都での感染者数が再び増加に転じていたという社会的な緊張感もあってか、首相の参加に対する疑問の声も一部から聞かれていた。

となると今回はGoToトラベルの停止を発表した直後であり、政府が国民に大人数の会食をできるだけ控えるよう呼びかけている中だけに、国民からの菅首相への批判が大きくなるのは、当然と言えるかもしれない。

思い出される安倍前総理のコラボ動画

今回の菅首相の会食に対する批判の多くは、普段感染を避けるため大人数での会食などを我慢している「国民の気持ち」をわかっていないという趣旨のものだ。その点で首相の行動は悪気がなくとも、国民の心情を逆なでするかのように誤ったメッセージを与えてしまったように映る。

そう考える中で、私は以前にも似たような印象を受けた経験を思い出した。安倍前首相が今年4月7日に埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡の7都府県に対して緊急事態宣言を発令したあと、若者の町中での感染が問題になっていた最中に、若者への「不要不急の外出自粛」を呼びかけるために4月12日にSNSに投稿したミュージシャンの星野源さんとのコラボ動画だ。

緊急事態宣言の発出をする安倍前総理・4月
緊急事態宣言の発出をする安倍前総理・4月

このコラボ動画は首相周辺の官僚の発案で行われたが、投稿から一日経った時点で35万を超える「いいね!」が付くなど多くの人に届いた反面、安倍前首相が自宅でくつろいでいるように見える動画内容が国民からの反感も招いた。後に安倍前首相は会見で「若い方の感染が増えている中で自宅での自粛を伝える取り組みとして様々な工夫をした」と経緯を説明した上で「批判があった。賛否両論あった」と振り返っている。

当時、官房長官だった菅首相はこの動画に直接関わっていなかったものの、「多くの人にメッセージが伝わることを期待している」「SNSの発信は極めて有効である」と会見で首相を擁護していた。しかし水面下では安倍前首相に対して「コラボ動画の件も含め、政権の危機管理案件なので細かいことも相談してほしい」という趣旨の苦言を後に呈したという。

コラボ動画と多人数会食に感じる共通点

その菅首相自身が批判を受ける側になった今回の会食と、安倍前首相のコラボ動画に共通しているのは、他意や悪気は無くても結果的に国民に誤った印象を与えてしまい、「国民の気持ちをわかっていない」という反発につながってしまったことだと思う。

菅首相が感染予防と経済との両立のための政策推進に苦慮してきたように、「国民」と一口に言っても職種も立場も違えば考え方も異なるため、すべての国民の気持ちに同じように届くメッセージを発信するのは至難の業かもしれない。

しかし、安倍前首相のコラボ動画は緊急事態宣言の発令下であり今回はそこまでに至っていないという状況の違いを差し引いても、菅首相の会食は、官房長官としてコロナ対応を含む危機管理を担い安倍前政権を支えてきた人物らしくない判断だったように思う。

12月16日・首相官邸
12月16日・首相官邸

菅首相「国民の誤解を招き真摯に反省している」

会食に対する世間や野党からの批判の高まりを受けて菅首相は16日、記者団の取材に応じ、会食は適切だったか問われ「まず他の方との距離は十分にあったが、国民の誤解を招くという意味においては真摯に反省をしている」とだけ述べた。しかし、どの部分に関して国民の誤解を招いたと思っているのかについては説明しなかった。

このように菅首相が短いコメントに留めたことについて、周辺は「端的に反省していると述べたことが良かったという見方もできる」とした上で、「いろいろ説明すると長いと言われるかもしれないし、言い訳めいて聞こえるかもしれない」と解説した。

総理大臣に必要な「想像力」

菅首相は、就任当日の9月16日の記者会見で「私は常々、世の中には国民の感覚から大きくかけ離れた数多くの当たり前でないことが残っている、このように考えてきた」「国民から信頼される政府を目指していきたい」と決意を述べた。


その日からちょうど3カ月が経った日に発した「国民の誤解を招くという意味においては真摯に反省をしている」という言葉。人が何を当たり前と思い、何が信頼に値すると思うかは基準が異なると思うが、信頼を築いていくために、国民とのコミュニケーションを図ることがマイナスになることはないのではないかと思う。

首相の官邸でのぶら下がり取材は、記者会見や会議での発言以外に、国民が首相の考えを知るための貴重な機会の一つであり、逆に首相が国民に対して思いを伝える絶好のチャンスでもあるはずだ。

何かを伝えようとしたり、お願いしたりする上で必要なことは、自分の発言や行動の前に、まずは相手がどう思うか、気持ちを想像することではないだろうか。菅首相が「国難」とも表現した新型コロナウイルスとの戦いを乗り越えて行くために必要なことは、国民が納得し認識を共有した状態で取り組みを進めていくことであると思う。今後の首相の行動の変化の有無や、国民への発信の内容と姿勢について、1人の記者として現場でしっかりと感じ取って行きたい。

(フジテレビ政治部 総理番記者 亀岡晃伸)

(FNNプライムオンライン12月18日掲載。元記事はこちら

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