異例続きの日米首脳会談「対中国」で一致も問われる「日本の覚悟」 “ハンバーガー会談”同行後記

政治・外交

両首脳はなぜハンバーガーに手を付けなかったのか

世界的なコロナ禍が続く中、2021年4月、菅首相はアメリカ訪問を断行した。一連の日程を終えた現地時間の16日夜、我々同行記者団と向き合った菅首相は、初めて対面で会談したバイデン大統領について興奮気味に語った。

「私自身も似ているような感じを受けていたんですけど、本人もそう思っているようでして、“たたき上げの政治家”ということで共通点がいっぱいある感じで、いろいろ下調べをしていて、一挙にこう打ち解けるというか緊張感が全くなくできたというふうに思っています。これからも付き合い続けていける。そう思いました」

会談を終えて間もない菅首相は、声はやや掠れ、表情も少し疲れているように見えたが、バイデン大統領の印象を聞かれると声のトーンが一段上がり、生き生きとした表情に変わった。共に「たたき上げの政治家」という共通点だけでなく、「これからも付き合い続けていける」という言葉が出たのは、まさに菅首相の本音、無事に初の対面会談を終えたという安堵の気持ちもあったのだろう。我々は、菅総理がバイデン大統領との一連の会談を直接は見ていないだけに、その光景を思い浮かべながら菅首相の話を聞いていた。

「ハンバーガーを食いながらやろうっちゅう話で、そのハンバーガー、全く手を付けないぐらい2人で話に入っちゃいまして」


菅首相はもともと何かを食べながら話す政治家ではない。「食事」と「話す」を綺麗に分けるタイプだが、そういう政治家が初めての首脳会談で供されたハンバーガーというのは、手を付けるにはそれなりにハードルの高いものだったのだろう。その後に提供された会談の写真を見た関係者の一人は、「あれ、本当は置物だったんじゃないですか?」と冗談交じりに語ったが、食べにくいハンバーガーだったからこそ互いの会話に集中できたということもあるのかもしれない。

日米首脳による「幻の夕食会」


“ハンバーガー会談”などと例えられた首脳会談だったが、我々が注目していた日程の一つが、ディナー形式の会談が開催されるかどうかだった。実務的な会談はもちろん、首脳同士が互いの間合いを詰める場として食事を共にする場は外交の場で重要視されてきたし、菅首相もこうした場がセットされることを期待していたようだ。菅首相が訪米前に安倍前首相のもとを訪れた際にも、夕食会での“話題”についてやり取りがあったという。しかし、調整されていた「夕食会」は感染対策上の理由などにより見送られた。日本政府関係者は落胆の色を隠さなかったが、次のように頭を切り替えたようだった。

「日米首脳が楽しそうに食事をする姿が写真や映像で映し出されば、そんなことやっている場合なのかという批判も起きたかもしれない。完全クローズでやる案もあったが、(見送ったのは)結果オーライではないか」

日米首脳会談、問われる「日本の覚悟」

今回の首脳会談は、開催に至るまで双方の調整が難航した。コロナ禍という制約、また、バイデン政権が発足して最初に迎える外国の首脳ということもあり、政府関係者がいら立ちを見せるほど、「段取りが決まるのが遅かった」という。ある意味では、無事に開催できたことが最大の成果とも言える。

たしかに首相官邸関係者は4月上旬、「外務省の幹部に『菅首相の訪米はどうなっているんだ?』と聞いたら『実ははっきりとした日程すら決まっていないんです』と答えたもんだから、『何が何でも日程は抑えろ!』とネジを巻いた」と懸念を口にするほどだった。果たして4月前半で調整されていた菅首相の訪米は一週間遅れで実現することになった。また、当初は前日の夕食会をはじめ、日米首脳が会する様々なイベントの可能性が双方で検討されたが、特にアメリカ側が感染リスクを懸念したことから、いずれも見送られた。「今回の首脳会談は極めて実務的なものになる」(政府関係者)という予告通りの会談になった。


「インド太平洋地域と、世界全体の平和と繁栄に対して、中国が及ぼす影響について真剣に議論を行いました

共同声明に米中の間で緊張が高まる「台湾情勢」について盛り込まれたことも訪米の重要なポイントの一つだ。両首脳は、共同記者会見の冒頭発言で中国への対応に言及しつつ、台湾情勢については直接触れかったが、菅首相は、記者の質問に答える形で次のように述べた。

「台湾海峡の平和と安全の重要性については、日米間で一致しており、今回あらためて、このことを確認いたしました」


今回、コロナ禍にも関わらず対面での首脳会談が実現した背景には、バイデン政権が「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」と位置づける中国に対し、同盟国という財産を最大限活用して対抗していきたいという基本戦略がある。その戦略には中国の隣国である日本の役割が極めて重要になる。それ故に、日米同盟の枠組みは、価値観を共有する国と個別に関係を築こうとするトランプ政権の手法とは似て非なる形で強化されることになる。多国間の枠組みを重視しつつ、日米同盟という“ツール”を最大限活用したいというバイデン政権の意図は明白だろう。政府関係者は会談の成果と課題についてこのように解説した。

「変な話、首脳会談が“成功すること”は政府専用機に乗る前にほとんど決まっているんだよ。『初めて会いました。失敗しました』なんてことは絶対ないわけで。良くも悪くも前のトランプ政権と違うのは、事前の調整をちゃんとやっているからね。問題は首脳会談が終わったあとでしょう。本当に台湾有事になった場合に日本は何をできるの?ということとかね、日米同盟のもとで具体的に何をするのかということが問われることになる」

共同声明には台湾情勢について「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。日米両国は、覇権主義的な動きを強める中国をけん制する強いメッセージを出すとともに、対話による解決の重要性も示した。また、首脳会談では、気候変動問題も大きなテーマになった。

複数のテーマでカギになる中国への対応

両国は、2050年に温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする目標に向け、世界の脱炭素化を支援する取り組みなどを柱にした「日米気候パートナーシップ協定」を立ち上げることで合意したが、この問題に関しても中国の協力が欠かせない。首脳会談を通じて鮮明になったのは、バイデン政権が日本との同盟関係を重視する姿勢と、アメリカの同盟国として、日本が極東アジアの平和と安定にどう具体的に寄与するかという行動姿勢だった。ポストコロナも見据えた日本と中国との向き合いは、トランプ政権時よりも、色濃いものになりそうだ。コロナとポストコロナ、覇権主義を強める中国とアメリカの対立、気候変動問題など、複雑化する国際政治の中で、菅首相に課される役割は大きい。


同行記者団行も異例の対応続き…出発前の準備は

最後に、この訪米は、我々同行記者団にとっても異例の対応続きだった。菅首相や随行員、同行記者を含む訪米団は80人強。外務省によると「通常より2~3割少ない人数」とのことだが、ワシントンD.C.に向かう政府専用機の中の様子は、コロナ前の首相外遊とさほど変わりがなかった。ただ、訪米団全員が出発前に2回のワクチン接種とPCR検査を実施。専用機が現地に到着後もすぐPCR検査を行った。この間、コロナに感染すれば当然訪米ができなくなる。代わりの人員は用意されていない。我々記者団も、そうした緊張感をまといながら出発の日を待つ日々だった。ワシントン市内のワーキングルームが設置されたのは、ホワイトハウスの近くに位置するウィラードホテル。ここも以前、安倍首相のワシントン訪問の際に来た時と様子は変わらない。大きく異なったのは、外務省から現地特派員との接触を極力避けるよう要請されたことと、我々同行記者団の行動も、ウィラードホテルの敷地内から極力出ないようにしてほしいというものだ。普段なかなか会うことが叶わない特派員。コロナ禍で両国の往来が制限されているなかで積もる話があったが、面会は基本ホテル内のロビー内で行われた。日本のニュース番組の生放送に向けた記者中継の詳細、取材の段取りについての打合せも、基本的に電話やメールで行うほかなかった。「日本からウイルスを持ち込ませない」という大前提がこうした一連の制約に繋がったわけだが、こうした取材面での制約を通じても、対面での首脳会談がいかに困難な環境のなかで行われたかということを実感させた。ややドタバタのなかで取材を終えて専用機に乗りこんだとき、次このワシントンに来るのは一体いつになるのだろうなと、ふと思った。


(フジテレビ政治部・鹿嶋豪心)

(FNNプライムオンライン4月30日掲載。元記事はこちら

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