「祖国を思い泣きます」ウクライナ女性 茨城での新生活に密着取材 心に抱く「不安」と「期待」

社会

ウクライナからの避難民、ヴェテリアック・イリーナさん、27歳。イリーナさんは5月、日本政府が座席の一部を借り上げた民間機に乗って、ひとりで来日した。日本に身寄りはいない。今も、家族は、キーウで暮らしているという。彼女の”新生活”を取材した。

取材に応じる、ヴェテリアック・イリーナさん(27)(茨城・常総市)
取材に応じる、ヴェテリアック・イリーナさん(27)(茨城・常総市)

ウクライナ人の女性 茨城で新生活

「チケットを買ってウクライナに帰ろうと考えたこともありました。テレビ電話で弟・父・母の姿を見ると、日本に来ていなかったら、父も兵役から戻ってきていて、家族が揃ったらとも考えます。」イリーナさんは深いため息をついたあと、こう答えた。

来日して2か月となる7月上旬、イリーナさんは、政府が用意した一時避難先のホテルから、受け入れを申し出た茨城県・常総市に引っ越すことが決まった。引っ越し当日の朝、イリーナさんは、「2か月間ホテルで一緒だったウクライナ人の友達と離れるのは寂しい」と不安を口にした。

俳優として活動していた頃のイリーナさん(本人提供)
俳優として活動していた頃のイリーナさん(本人提供)

ウクライナでは、歌手や劇場の俳優として活動していたイリーナさん。その経験もあるためか「日本の伝統的な音楽に興味があり、お祭りの手伝いなどをしてみたい。常総市の学生たちに音楽を教えたい」と新生活への”期待”ものぞかせていた。

常総市役所では、市長らが、イリーナさんを出迎えた。
常総市役所では、市長らが、イリーナさんを出迎えた。

常総市役所にイリーナさんが到着すると、職員らがイリーナさんを出迎えた。大勢の人に囲まれ緊張した様子だったが、通訳の女性が現れると、少し落ち着きを取り戻したように見えた。市長も面会にかけつけ、「常総市でゆっくりしてください。市はすでにウクライナからの避難民が2人来ているので、安心して下さい」と声をかけた。

始まる新生活 ルームメイトはアメリカ人

”新居”として、2つのリビングに、3つの寝室がある一軒家が用意されていた。ここには、すでに、市内の中学校で、英語を教えているアメリカン人女性が住んでいる。イリーナさんは、この女性とルールシェアをするという。

興味深げに、”新居”の中を見て回るイリーナさん
興味深げに、”新居”の中を見て回るイリーナさん

イリーナさんは、室内に入ると目を輝かせて、あちこちを見て回った。市の担当者に「部屋はどこにする?」と聞かれ、何度も部屋を行ったり来たりして真剣に悩んでいた。クローゼットを指さして、「この中で寝ます」と冗談を言うなど、チャーミングな一面も見せた。

今回、常総市は、初めての日本での生活に不安を感じないよう、ひとまず、ルームシェアすることを提案した。2か月後、イリーナさんの希望を聞いたうえで、市営住宅へ移動することも可能だという。また、新生活で必要な電化製品や自転車なども、常総市が寄付を募り、イリーナさんに提供する予定だ。

祖国を思い 涙することも

取材に応じる、ヴェテリアック・イリーナさん(27)(茨城・常総市)
取材に応じる、ヴェテリアック・イリーナさん(27)(茨城・常総市)

身寄りのない異国の地で、新生活を始めることになったにもかかわらず、イリーナさんは、ずっと笑顔でポジティブだ。不安はないのか、心の内を聞いてみた。

イリーナさん:ルームシェアは、まだ相手のことがわからないから少し不安だけど、うまくいくと思います。新しく住む家も、『日本のアニメで見た家だ!』と思いました。とても好きです。

イリーナさんは、キーウからポーランドに逃げたとき、次はどこに行けばいいのか悩んだという。その時、ふと頭に浮かんだのが、子供のころから好きだった日本のアニメだったそうだ。アニメ声優にも興味を持っていたことから、日本に来る決意をしたとのこと。

イリーナさんの両親(本人提供)
イリーナさんの両親(本人提供)

イリーナさん:キーウの家にいたとき、爆撃などいろいろな音が聞こえてきました。ある時、突然家が揺れだして、私は母に『逃げないと』と言いました。母も怖がっていて『そうね』と言いましたが、私のように荷物を持って動き出さなかった。私は、「何か変えないと」と思ったから、ここに来る決意をしました。日本は安全で良かったと思う反面、祖国にいた時は、困っている人に医薬品を買って届けるなどしていたので、ウクライナに残っていたら人々を助けられたかもしれないとも思います。

イリーナさん:当時の爆撃音がフラッシュバックする時があります。強くいようとしているけど、時々、祖国の人のことを思って泣きます。なぜ友達や家族を置いていけるだろうかと。でもこれは自分の選択で、ほかの人に悪いと決めつけられることではないし、良い方向に進むと信じています。

笑顔で写真におさまるイリーナさんと弟(本人提供)
笑顔で写真におさまるイリーナさんと弟(本人提供)

政府は、身寄りのないウクライナ避難民に対して、ホテル退所後は、一日2400円(12歳以上が対象)を支給するほか、新生活のための一時金として16万円を準備している。イリーナさんにその使い道を聞いた。

言葉の”ハードル 今後の生活は・・・

イリーナさん:足が悪いので、治療を受けたいです。あと、健康のためにプールに通いたい。将来的にはアニメ声優になるための勉強をしたいです。

彼らが日本で仕事を探すには、言葉の”ハードル”が立ちはだかる。安定的な収入を得るまでには、時間がかかるだろう。イリーナさんのように、健康面に不安を抱える人は、治療費にも頭を悩ませることになる。政府が導入している支援は、彼らに、十分に理解されているのだろうか。相談しやすい環境整備も必要だろう。

「同じ経験をしてきたからわかる」ルームメイトとの出会い

イリーナさんとルームメイトのローズさん(右)
イリーナさんとルームメイトのローズさん(右)

インタビューの途中、ルームメイトとなるアメリカ人のアンバー・ローズ・ケイさん(29)が帰宅した。ウクライナから避難してきたイリーナさんと一緒に暮らすことを、どう感じているのだろうか。

「異国に住みはじめると、全てのことが新しく、初めは分からないことばかりです。私も洗濯機の使い方とか、日本語が読めないとか、そんな経験をしてきたので、困ったことがあればいつでも聞いてほしい。」2人は会ったばっかりだったが、「ケンカすることなく、快適に暮らせると思います」とローズさんは話した。

「いつでもきて」孤独をふせぐ交流の場

この日、イリーナさんの”新居”を管理する茨城NPOセンター・コモンズの代表理事・横田能洋さんが、「紹介したいところがある」と訪ねてきた。

日本の絵本に夢中になるイリーナさん
日本の絵本に夢中になるイリーナさん

横田さんが案内したのは「えんがわハウス」。孤立を防ぐため、様々な人たちが、集うことができるようにと作られた”交流の場”だ。カフェが併設されているほか、多くの書籍も置いてある。日本語の絵本に興味を示したイリーナさんに、横田さんは「いつでも来てね」と声をかけた。

保育園では、ウクライナ語で、絵本を読み聞かせる場面も・・・
保育園では、ウクライナ語で、絵本を読み聞かせる場面も・・・

また、イリーナさんは、市内の保育園にも案内された。最初は緊張していたが、教室で知っている音楽が流れると、子供たちといっしょに口ずさむ姿も見られた。ウクライナ語で、絵本を読み聞かせるイリーナさん。その俳優らしい迫力ある声に、子供たちも釘付けになった。

現在、ウクライナからの避難民は1500人を超えた。これから、避難や移住を受け入れた後の、その先の「支援」が重要となる。彼らを孤立させないため、周囲のサポートも不可欠だ。滞在期間が長期化すれば、どのように生計を立てるのか、治療費などはどうするのか、具体的な課題が浮上してくる。彼らの”不安”に応えることは、受け入れた側の「責任」と言えるだろう。

(フジテレビ社会部 中澤しーしー)

(FNNプライムオンライン7月18日掲載。元記事はこちら

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