奏者独自の表現も忠実に再現!臨場感たっぷりに楽器を奏でる装置がすごい…仕組みを開発元のヤマハに聞いた

技術・デジタル 音楽

アーティストの生演奏を“真空パック”のように保存して、再現しようという試みが進んでいる。

それが、楽器メーカーのヤマハ(静岡・浜松市)が開発した「Real Sound Viewing(リアルサウンドビューイング)」。楽器に振動を発生させる装置を取り付け、デジタルデータで作動させることで、本人がいなくても演奏を再現できるというものだ。

リアルサウンドビューイング(ヤマハの公式YouTubeより)
リアルサウンドビューイング(ヤマハの公式YouTubeより)

使用例がこちらだ。視覚的に分かりやすいよう、楽器に紙吹雪を置いて作動させているが、ドラムヘッドやコントラバスの弦が振動しているのが分かる。透過スクリーンの技術と組み合わせれば、奏者がそこにいるような臨場感を作ることもできる。

装置によって楽器が振動する(ヤマハの公式YouTubeより)
装置によって楽器が振動する(ヤマハの公式YouTubeより)

浜松市楽器博物館(浜松市)では、リアルサウンドビューイングの展示も行われていて、2021年は日本の「筑前琵琶」、2022年にはモンゴルの「馬頭琴」の演奏が再現されている。

「馬頭琴」(提供:ヤマハ株式会社)
「馬頭琴」(提供:ヤマハ株式会社)

※展示は馬頭琴が2022年12月13日まで。筑前琵琶は既に終了している。

音として聞こえる「振動」を再現

魅力的なシステムだが、気になるのはその仕組み。振動させることでなぜ音が出るのだろう。楽器の音色は奏者の“クセ”が出たりもするが、これも再現できるのだろうか。リアルサウンドビューイングの開発者・柘植秀幸さんに聞いた。


――リアルサウンドビューイングの特徴を教えて。

2017年から開発しているライブ再現システムの技術で、振動を発生させる「加振機」という装置を楽器に取り付け、振動を再現することで生演奏の音を再現しようというものです。

ドラムを想像してもらうと分かりやすいですが、私たちに聞こえる楽器の音は、実は振動で発せられたものになります。ドラムならスティックで叩く、ギターなら弦を弾きますが、音として聞こえるのはその振動です。この揺れを再現しようというものになります。

黒い円形の物体が「加振機」(提供:ヤマハ株式会社)
黒い円形の物体が「加振機」(提供:ヤマハ株式会社)

――実際には生演奏の振動をどう再現するの?

ヤマハが持つ「トランスアコースティック」(電気信号を振動に変換して響板などに伝えて音を響かせる技術)を応用しています。生演奏を複数のマイクで録音し、そこから楽器の振動データを生成します。このデータを基に加振機で楽器に振動を伝えることで、生演奏の音を再現しています。


――適用できる楽器は?歌声の再現はできるの?

現時点では、打楽器、弦楽器、鍵盤楽器は再現できますが、管楽器が再現できていません。息を吹き込んで振動を発生させるなど、他と仕組みが少し異なるためです。歌声については、生の声そのままではなくマイクとスピーカーを通して届けるという形で技術が進化してきているので、当面はその仕組みを活用していければ良いのではないかと考えています。 

音楽を文化遺産のように残したい

――リアルサウンドビューイングを開発した、狙いを教えて。

すべての人に本物のライブの音を届けたいと開発しました。世の中には、チケットが取れない、会場まで遠い、解散したなどで行けないライブがあります。ネット配信などもありますが、そうした音楽体験はライブとは違う。ライブの迫力を保存し、再現できる仕組みがあればと思いました。

音楽を文化遺産のように残したいとも思っています。絵画や彫刻は数百年後も展示されますが、音楽はそうしたことが難しい。ビートルズの「アビイ・ロード」で有名な横断歩道がイギリスで文化遺産として登録されていますが、そこに行っても生演奏が聞けるわけではありません。アーティストの生演奏やステージを再現できるような仕組みを作り、次世代に残したいと思っています。

音楽を遺産のように残したいという(提供:ヤマハ株式会社)
音楽を遺産のように残したいという(提供:ヤマハ株式会社)

――開発でのこだわりや苦労したところを教えて。

奏者の表現や細かなニュアンスをどれだけ忠実に再現できるかは、特に注意しました。楽器ごとに録音方法を変えるなど、演奏音をより忠実に再現するためにトライアンドエラーで繰り返しました。それもあって、アーティストごとの表現の特徴なども再現できています。

実際の録音風景の様子(提供:ヤマハ株式会社)
実際の録音風景の様子(提供:ヤマハ株式会社)

――筑前琵琶や馬頭琴の再現をしてきたが、意図や狙いはあるの?

これらは浜松市楽器博物館との共同展示で、博物館サイドと議論を重ねながら再現する楽器の選定を行いました。ただ、琵琶は奏者の後継者問題もあることから、演奏の方法を残すことにつながればと。馬頭琴は馴染みのない民族楽器の音を多くの人に届けるためにつながればと思っています。

過去の音源からも生演奏を再現できるかも?

――リアルサウンドビューイングの課題点は?

装置の仕組み上、楽器の状態に左右されてしまうところがあります。例えば、ドラムはヘッドと呼ばれる膜が緩んでしまうと音も緩んだ音になってしまいます。 定期的なメンテナンスが必要で、状態によっては再現される音が変わってしまう可能性もあるところが、現状の課題になります。


――過去のライブ音源から再現することはできる?

いくつかの課題やハードルはありますが、実現できると思っています。過去にレコーディングされた音源でしたり、映像でも楽器ごとに個別の音が残されている場合があります。そうしたデータがあれば活用できると思うので、ゆくゆくはそこにも取り組みたいと思います。

――今後の目標を教えて。

社会貢献的な側面だけではなく、事業としても成り立たせたいですね。例えば、東京やニューヨークなどでの演奏も、全国各地の身近なライブハウスで体験できればいいですね。再現可能な楽器の種類も増やしたいです。フルオーケストラを再現できるところまでいければと思います。



システムは開発途中とのことだが、開催地から離れた場所でもライブに参加できたり、過去の演奏を間近で体験できる日々がやってくるかもしれない。リアルサウンドミュージックは、ヤマハ企業ミュージアム「イノベーションロード」(浜松市)、ヤマハ銀座店「NOTES BY YAMAHA」(東京・中央区)に常設もされているので、気になる人は体験してみてもいいだろう。

(FNNプライムオンライン11月8日掲載。元記事はこちら

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