“言葉・表情”を失っても「愛してる」 国指定の難病・意味性認知症と向き合う夫婦【長崎発】

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国指定の難病「意味性認知症(前頭側頭葉変性症)」を患った女性、岩永睦さんは、言葉も表情も失い、生きがいだった絵も描けなくなってしまった。そんな妻を献身的に介護するのは夫の嘉人さん。夫婦2人の日常を追った。

難病「意味性認知症」と向き合う夫婦

体を支えられながら2階に向かう一人の女性、岩永睦さん(2022年11月取材当時68歳)。睦さんの体を支え、しきりに声をかけているのは、元教師で美術作家の夫・嘉人さん(取材当時67歳)だ。

夫・岩永嘉人さん:
いくよ、よいしょ、OK、やったー、目をつむっていたからね、目を開けないと


階段を上って夫婦が着いたのは、元々、睦さんが暮らしていた場所だが、反応はない。

夫・岩永嘉人さん:
むっち、覚えてる?この作品。これ覚えてる?


絵が描けなくなった妻のかつての作品の展示会を、長崎・時津町の自宅を改装したギャラリーで開いている。

夫・岩永嘉人さん:
ひょっとしたら最後になるかもしれないなという思いもあって、できたら自宅で彼女が一番好きだった空間の中に、その時描いた絵を飾りたいという思いがあった


嘉人さんが睦さんに絵を教えたのがきっかけで1986年、2人は結婚。一人息子も独立し、これから2人で人生を謳歌しようとしていた矢先、睦さんが難病を患った。
病名は「意味性認知症(前頭側頭葉変性症)」、国指定の難病だ。


長崎大学病院脳神経内科・辻野彰教授:
記憶がやられる「アルツハイマー病」が一般的な認知症だけど、言葉の意味がわからない。その言葉の意味がわからないということはコミュニケーションがとれない。物忘れで発症するのではなくて、コミュニケーションがとれないということがあって、発症するというところがちょっと違うところ


「意味性認知症」は、言葉の意味の理解ができなくなったり、絵や物を見せても名前を答えられない「意味記憶障害」などが起きる。65歳未満の人に発症する「若年性認知症」の1つだが、認知症のおよそ70%が「アルツハイマー型」であるのに対し、意味性認知症は1%にも満たず、全国的に症例が少ない。


嘉人さんが睦さんの異変に気づいたのは4年前の2018年、入院先で描いた絵がきっかけだった。
嘉人さんは、数々のコンクールに入賞していた睦さんの絵が、まるで子どもが描いたように変わり、大きなショックと不安を覚えた。


睦さんは翌年、65歳で「意味性認知症」と診断を受けた。症状が進むにつれ言葉も表情も失い、身の回りのこともまったくできなくなった。今はデイサービスなどを利用しながら、嘉人さんがほぼ一人で介護している。

夫・岩永嘉人さん:
いただ…、もう口がそうなっちゃったね。いただきます。あー言わなかった。残念です。あっ、ダメだ、やっぱり口が堅くなってる


睦さんは音や人の気配を感じると、少し顔を動かす。左手で物をつかむ動作もするが、言葉を発することはない。食事も喉を通らなくなり、飲み込む力が衰えてきた。

どんなに介護が大変でも「愛してる」

嘉人さんは月に1度、ケアマネージャーと睦さんの健康状態や介護の進め方などについて情報交換をしている。

鍬先医院ケアマネージャー・永山奈美さん:
私から見ても親世代なんですよね、睦さんって。自分の親みたいな感じで私もお手伝いしているけど、最期まで家で看たいというご主人の気持ちを理解しているつもりなので、そこまでお手伝いはしたいなと思っている


夫・岩永嘉人さん:
一人で抱え込んだら、どんな介護も辛いと思う。だからそういった面では相談できる。話しやすい、相談できる人がいるというのは心強い、絶対に


昔の面影がなくなり、まるで幼子のようになってしまった睦さん。それでも嘉人さんの睦さんへの愛情は深まるばかりだ。

夫・岩永嘉人さん:
来い、来い。愛してる。睦ちゃん、愛してる


嘉人さんは睦ちゃんを愛してる。妻への愛情を惜しみなく表現する嘉人さんだが…。

夫・岩永嘉人さん:
(睦さんは)寝てる~


夫・岩永嘉人さん:
どんどん介護がきつくなってくると、もういやになって妻を愛せなくなるかというのとは僕は違った。彼女を理解すればするほど、無償の愛に変わっていったのかも。そういうことを言っても彼女はわからない。死ぬ時ぐらい言ってくれないかなと思うけど、それは叶わない


精一杯の愛で、今を生きる睦さんの人生を豊かにしてあげたい…。
嘉人さんの切なる願いだ。

(テレビ長崎)

(FNNプライムオンライン11月14日掲載。元記事はこちら

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