「ヘイトクライムを演じた」手紙に“もう一つの犯行動機”…韓国関連施設に次々と放火【愛知発】

社会

2021年、名古屋と京都で韓国人関連の施設が狙われた放火事件が、「ヘイトクライム」として世間の注目を集めた。ヘイトクライムとは、人種、民族、宗教、LGBTなどへの「差別」「偏見」「憎悪」が元で引き起こされる犯罪のことだ。放火事件の犯人から届いた手紙には、もうひとつの犯行の動機が書かれていた。

立て続けに狙われた「韓国関連施設」…逮捕されたのは元病院職員の男


名古屋駅西口のほど近くにある、「韓国民団愛知県本部」。


韓国民団愛知県本部事務局長、在日コリアン3世の趙鐡男(チョ・チョルナム)さん(53)は、当時を振り返った。


趙鐡男さん:
ここですね。まだそのときの様子が残ってますよね


記者:
さわったりしても大丈夫ですか?

趙鐡男さん:
ええ、どうぞ

記者:
あ、これヒモがまだ…


趙鐡男さん:
着火剤を縛っていた麻ヒモだと思いますけどね

2021年7月24日午後7時06分。事件は、夏の夜に起きた。


立て看板を二度見したり、戻ってきて付近をうろつく男。


ゆっくりと敷地内に侵入し、一度画面から姿を消したが、5分ほどで戻ってくると、あたりを警戒しながら小走りで去っていった。


一晩で、韓国民団愛知県本部と名古屋韓国学校の2か所で、排水管や壁などが燃えた火事。


着火剤を紙で包み、麻ヒモで縛る。現場には、放火をうかがわせるものが多く残されていた。


趙さんは焼け跡を見た瞬間、嫌な予感が頭をめぐったという。

趙鐡男さん:
こういう火の気のないところですので、しかも民団と韓国学校両方が同時に、同じようなところに火をつけられているということで、明らかに私たち在日韓国人を狙った放火だということで、恐ろしいというのがそのときの率直な印象ですね


さらに1か月後、在日コリアン100人ほどが暮らす京都府宇治市の「ウトロ地区」が燃えた。7棟の家屋が焼け焦げた。戦後、差別に苦しんだウトロ地区の歴史を伝える「平和祈念館」で展示する予定だった資料約50点も、焼失した。放火だった。

いずれの事件も容疑者は同一人物で、奈良県の元病院職員の22歳(当時)の男が逮捕された。


なぜ、韓国関連の施設をターゲットに犯行を重ねたのか。

男「日本に住まわせていただいているのに、日本人に一切配慮しない」


私たちは、男に対して手紙や拘置所での面会取材を重ねた。

<男からの手紙の内容>
「韓国人は悪。そうした思想がある事は否定できません」
「日本に住まわせていただいているのに、日本人に一切配慮しない」


奈良から名古屋に来て犯行に及んだきっかけ。犯行の2年前の2020年、あいちトリエンナーレで慰安婦をテーマにした少女像が展示されたことだった。


趙鐡男さん:
「もう一度、それ(表現の不自由展・その後)を忘れ去られている社会に思い起こさせるために火をつけたんだ」みたいなことを(男は)言っていましたね。私は意見陳述で(韓国民団は)「何の関係もないんだ」と述べました

趙さんは、男に強い怒りを覚えた。

趙鐡男さん:
ここで生まれ育って、韓国人として生まれて、すごく劣等感があったんですよ。本当に嫌でね


趙鐡男さん:
でもそれも、正しい知識がなかったから。正しい知識を学校で習わなかったものを自分で学んだら、「なんだ、うちのおじいさんおばあさん別に何も悪いことしていないじゃないか」と。そういった経験をして、子供たちを今、一生懸命育てているのに、何もやってない者がいきなり来て、火をつけていくっていうのが本当に許せなかったですね

そして、2022年8月。京都地裁は…。

(裁判長)
「動機は在日韓国・朝鮮人に対する偏見や嫌悪感などに基づく、独善的かつ身勝手なもので酌むべき点はない」

検察側の求刑通り、懲役4年の実刑判決が下され、確定した。

裁判長に「自らの行ったことを、もう一度よく反省してほしい」と諭された男はゆっくりとうなずき、法廷を後にした。

手紙には「ヘイトクライムを“演じた”」と強調も…


この裁判は、人種・民族に対する偏見や差別など憎悪がきっかけの犯罪、「ヘイトクライム」と報じられた。しかし、判決前、男が記者に送ってきた手紙からは、事件のもうひとつの側面が見えてきた。

<手紙の内容>
「まず根本的に誤認されておられますね。ヘイトクライムを演じた」


「点」をつけて「ヘイトクライムを“演じた”」と強調されていた。男は奈良県内の病院に事務員として勤務。しかし、新型コロナの感染拡大がきっかけで失業し、手紙にはその怒りがつづられていた。


<手紙の内容>
「さて、私の事件当時、最も無視された声はどのような声でありましたか?日々の生活に困窮し、働きに出たいけど場所が無い、解雇された従業員、非正規雇用者の声です」
「これらは総じて無視された、国民の声として訴えたら”非国民”と言い放たれた、そんな暗い声です」

自分は働きに出たいのに仕事がない。しかし日本政府は税金で在日コリアンを支援・優遇している。そんなネットにあふれる誤った情報を信じ込んでいた。

犯罪心理学の専門家は…。

国際医療福祉大学大学院の橋本和明教授:
「生活に困窮し、働きに出たいけど場所がない、解雇された従業員、非正規雇用者の声です」と、いかにも社会が悪いかというふうに言っていますけれども、本当はこの中に自分の声を聞いてほしかった。社会の代弁をした声とか言うんではなくて、彼自身の声を訴えたかった。それも個人的なうまくいかなさ・憎悪、こういうところだと僕は思うんですね


自身の「社会への怒り」を「ヘイトクライム」に置き換えた男。そして…。

橋本和明教授:
形ので上はヘイトクライムみたいな感じになっていて、社会にそういうふうにアピールする。その社会に対して自分の考えを訴えていくというところは、ヘイトクライムのある意味では目的だと思うんですけど、自分の欲求をたまたまあったその出来事にぶつけたと。何かを騒がせたいというか、逆に言えば注目されたいっていうか、そんなところでの動きなんでしょうね

何がしたかったのか「分からなくなっているところもある」


裁判の中で、京都のウトロ地区の存在を知ったのは「犯行のわずか5日前」。そして、実際に在日コリアンには会ったこともなかったこと。また、名古屋の事件がテレビや新聞などで、男が「思うように注目を集めなかった」ことが不満で、犯行をエスカレートさせたことが明らかになった。


彼の心で膨らみ続けた“ヘイト”。男と判決前に記者が面会した。

記者:
反省や後悔はありますか?

男:
これを起こしたことで、“何を訴えようとしているのか”自分の中で確立していないところもあります


記者:
結局、何がしたかったのかわからないということですか?

男:
そうですね…わからなくなっているところもあると思います

失望の縁にいた男。手紙は最後、コロナ禍で開かれたオリンピックに、“怒りの矛先”を向けて結んでいた。

<手紙の内容>
「五輪で得したのは誰ですか?一部の関係者だけです。国民は負担の全部を強いられたのです。国民を見殺しにする動きに糾弾する。そうした黙殺、責任逃避の風潮に私は訴えかけたいのです」

そして、五輪開会式翌日の犯行…。


それでも、韓国民団愛知県本部の趙さんは、少数派への“差別意識”が犯行の“芽”になったのではないかと指摘する。


趙鐡男さん:
残念ながら、今のマイノリティと呼ばれる少数派に向けられる差別を容認するような社会の雰囲気が、彼のような人間を生み出したんじゃないかなと


趙鐡男さん:
社会の多様性ですよね、マイノリティが認められるような社会というのは。多様性のある社会の方が、きっとそこにいるマジョリティ、多数派の人たちにとってもいい社会だという風に信じていますので。今回のような犯罪が二度と起きないように、差別はいけないんだ、ヘイトクライムはいけないんだ、許されないんだと厳しく規制をする法律を一日も早く作っていただきたい

(東海テレビ)

(FNNプライムオンライン1月8日掲載。元記事はこちら

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