市販薬で“パキる”「心臓止まった子も」 傷舐め合う “居場所” 「グリコサイン下」の変化と救いの手 【大阪発】

社会

大阪ミナミの戎橋の下、通称「グリ下」に集まる若者の実情について、以前の取材でお伝えした。あれから1年…取材を続けると、「グリ下」にはある“変化”が…そして、ここから抜け出そうとする若者を追うことで見えてきたこととは?

2022年10月31日。3年ぶりに行動制限のないハロウィーン、大阪・ミナミの戎橋は多くの人で賑わっていた。その橋の下では、集団で酒を飲んで騒ぐ大勢の若者が…。


ミナミのシンボル「道頓堀グリコサイン」の下、通称「グリ下」。2021年6月ごろに「グリ下」という言葉が生まれたと言われています。ここには、毎日数十人の若者が昼も夜も集まっている。

なぜ若者たちは「グリ下」に集まるのか。


「グリ下」に集まる若者の“ある変化”

少女(14):
14です。半年前から。週に3回は絶対に行ってます。みんなでしゃべってお酒飲んでいるみたいな


SNSで知り合い、リアルで会うための場所として「グリ下」がよく使われ、30歳くらいまでの若者がそこで時間を過ごしています。中には小学生もいた。


そんなグリ下で最近、流行していることがある。

少年(17)と少年(18):
いまはODが主流というか、楽しくなる方法というか。前はみんなでお酒飲んでたと思うけど、いまはODばっか

OD(=オーバードーズ)とは、薬物の過剰摂取のことだ。グリ下では風邪薬などの市販薬を大量に所持している若者が多くみられた。


少年(17)と少年(18):
最近は2シートじゃパキれ(ハイになる)なくなってきたから、4シート40錠ぐらい。不思議な気分。すべてから解放される感覚。記憶が飛びます

少女(14):
自分はキャパ狭いから30錠くらいしか飲まない。みんなでパキったほうが楽しいです。もう宇宙見えるっす


(Q:オーバードーズ(OD=薬の過剰摂取)で病院には?)
少年(17)と少年(18):
いますよ、運ばれる子は。この前心臓止まった子もいるし、夢と現実が区別できない子もいる

集団ODで気持ちが高ぶり、ビルから飛び降りてしまった若者もいると話す。いまのグリ下は、ODなどでその場を楽しんでいる若者が多いようだ。


取材班は1年前からグリ下を取材していた。いまと1年前では集まる理由が違うようだ。

1年前に集まっていた若者たち:
1歳の時に出て行った父親養育費払えよ!おい。
アル中の父親私に缶ビール投げるのやめろ。


1年前に集まっていた若者たち:
私、児相(児童相談所)出てからここ来始めたかも。
私も、児相出てからここに来た。
私は同じ家出経験の子に会えたらいいなと思った。
同じ“毒親”悩みの関連で。

当時のグリ下は家庭などに問題がある若者が同じ悩みを分かちあう居場所だった。


今は…

少女(13):
13歳。9月くらいから来なくなって、また最近、昨日から。今日は会いたい子がいたから来た

(Q.来なくなった理由は?)
少女(13):

普通に妊娠していたとかもあって。(子どもの父親は)界隈外(*グリ下とは関係ないという意味)。家庭環境悪いとかじゃないし私は。そんなのないから

 

 

他にも、「家庭環境が悪いわけではなく、楽しみたいから来ている」、「SNSで見て楽しそうだから来た」という人もいた。居場所がここだけではない若者もいるようだ。


1年前からグリ下に来ていた「古株」のメンバーも、変化を感じていた。

1年前からグリ下に通う若者(22):
家出少女とか家出が多かった。みんなで楽しく、言い方悪いけど傷舐め合う、普通にお互い「何でなん?」みたいな感じで。今はもうグリ下に憧れているような子たちが来るんで。話の共感できるところがないから面白くない

 

 

SNSや報道の影響で「グリ下」が観光スポット化して、悩みを打ち明け合う場所ではなくなってきたのかもしれない。


「グリ下」の若者に手を差し伸べる大人

そんな「グリ下」から抜け出そうともがく人がいます。かなとさん(仮名)、19歳。1年前、福岡から家出して大阪にたどり着き、「グリ下」に行くようになった。

かなとさん(仮名):
偏差値65から75の進学校だったから、常に勉強がある。やっぱり模試の結果だったりとか、そういう1つ1つがプレッシャーになっていて。もう無理だってなって抜け出してきました。孤独に感じていたんです、大阪に来て。ツイッターでつながって、グリ下に行くようになっちゃって。対等にしゃべれるってことが自分の中で少し安心したりもしました


大学受験に失敗し、厳しい浪人生活や家族関係に悩み、2万円だけを持って大阪に。生活費をかせぐため簡単に稼げると思ったホストで生計を立てるようになったが、精神的には、さらに追い込まれていった。

かなとさん(仮名):
(情緒不安定な客に)店内でリスカ(=リストカット)されたりとか。そういうことが起きて、自己嫌悪に陥って、自分なんかと思って。死のうかなとか思っちゃったりとかしました。(睡眠薬)3シート一気に飲んじゃったりとかそういうことがありました


かなとさんが生活を立て直せるよう、2022年の春ごろから相談に乗っているのが、弁護士の田村健一さん(42)。

田村健一弁護士:
朝散歩している時、ここにきて、知っているやつがいたんで。話していたら(かなとさんが)ここに座ってました。(夏に)話した時は、死ぬことじゃなくて、どう死ぬかをずっと調べていた状態だった。河川敷で全然目線も合わなかったし。目に力ないし

 

 

その後、かなとさんから田村弁護士のLINEに“SOS”が届いた。田村弁護士が取ったグリ下という「沼」から抜け出すための方法とは…?


信頼できる大人を増やす

田村弁護士は、かなとさんを信頼できる大人に次々と会わせた。

田村健一弁護士:
グリ下で話を聞いていると、自分の今の問題のこと、地獄っていうんですよ。誰しも何かしらの闇・地獄というか問題とか悩みというかね、あるでしょう

飲食店経営者:
もういっぱいあります。私こうやって元気そうに見えますけども、18でもう首いわして(痛めて)いますし。歩くのも10年かかっていますしね

飲食店経営者:
(人生の選択は)楽な方に行くじゃなく、楽しい方を選びましょうって。しんどい方に行きがち。じゃなくてどっちか自分が笑える方に行こうって感じ

かなとさん(仮名):
今まで、楽して笑う方選んじゃって。それで今こうなっちゃっているのかなって。それが絶対きっかけだと思って


IT系営業会社の社長:
過去の自分よりも成長したかって比べたいんですけど、どうしても他人と比べる習慣がみんなあるんで。僕もあるんですけど

 

 

グリ下にはいなかった大人たちと会うことで、かなとさんを取り巻く環境が変わっていく。


田村健一弁護士:
「心ある大人がこれだけいるんだよ」と分かると、悪い大人ばっかり見てきているんで、本当はもっといい大人沢山いるよってところを見せられる。説得力があると思う


田村弁護士は本業の傍ら、かなとさんのように、様々な悩みを抱える30人以上を無料でサポートしている

田村健一弁護士:
自分も10代の時とかで多くつまずいたり、道を踏み外そうとしているときに多分、ある人のヘルプがなかったら、全然違う人生を送っていた。それをバトンじゃないですけど渡している。自分ができる範囲でね


前を向き新たな夢

田村弁護士と出会って半年以上が経ったこの日。かなとさんは、田村弁護士を呼び出し、ある決意と悩みを打ち明けた。

かなとさん(仮名):
やっぱ改めて大学に行こうかなと思って。自分でも取りたい資格があって、宅建の資格とか取りたいんですよ


ついに前を向き始めたかなとさん。しかし、家賃滞納が続き、生活費もなく、家も追い出される寸前だ。

田村健一弁護士:
性格上、頑張り屋さんでいろいろやってしまう。今回一緒になって考えていくけど。大学・資格・家賃。家賃のことは俺が何とかするって(*賃貸物件の管理会社に家賃返済の猶予や返済計画を提案・相談する)。どこだったら自分がテンション上がって、『行くぞ!』ってなる大学があるかを調べること


田村健一弁護士:
(かなとさんの顔を見ながら)早く本屋に行こう

かなとさんから夢の話を聞き、田村弁護士はうれしそうに「本屋に行きます。私からのプレゼントは甲南大学と近大の赤本」と話した。


かなとさんが大学受験目指して勉強している間、田村弁護士は勉強時間も確保できる融通の利くアルバイト先を探す。

(田村弁護士から相談を受けた)商店街の人:
(アルバイト先について)心あたり何人か天満におるから。近々で聞いときますわ

田村健一弁護士:
うわー!うれしい。ありがとうございます


ようやく前を向き始めたかなとさんは“今の心境”をこう話します…

かなとさん(仮名):
救いの手を差し伸べてくれたから、自分も変わろうと思って。初歩的なことですけど、グリ下には行かないようになった

居場所がない、楽しみたい…1年経っていてもどんな人でも受け入れてくれる「グリ下」。居心地が良くても自分をむしばむ”沼”だと気付いたとき、手を差し伸べてくれる大人の存在が必要だ。


“グリ下支援”の輪

グリ下への支援の輪は少しずつ広がっていっている。

「D×P」というNPO法人がグリ下の横でフリーカフェの運営を始めた。みそ汁や充電スポットを提供して、気軽に立ち寄れる場所を作った。2022年の8月末から定期開催している。

NPO法人「D×P」野津岳史マネージャー:
本当は支援が必要なのに困りごとを相談しづらい若者が多いと思い支援を始めた


今後の課題について…

NPO法人「D×P」野津岳史マネージャー:
子どもたちにグリ下以外の居場所がない状況にある。解決すべき問題は家庭や学校にあり、話を聞いて一緒に考えられるよう、大人側が心の余裕を作ることが必要ではないか


そして、グリ下に集まっている若者たちをサポートしている田村健一弁護士は…

田村健一弁護士:
信頼できる大人が周りに居ないんです。悪い大人ばかりを見てきた若者が多い。相談すべき時に相談に乗れるよう、つながる大人の輪を広げていきたい

と話している。

(関西テレビ「報道ランナー」2023年1月5日放送)

(FNNプライムオンライン1月13日掲載。元記事はこちら

https://www.fnn.jp/

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