“赤字路線”の利用者を「5年で4倍に」 日本では珍しい「交通連合」が未来を変えるか 2023年の動きに注目 【兵庫発】

経済・ビジネス 社会

兵庫県北部を通るJR山陰線。長年“赤字状態”が続くこの路線に、「利用者を5年間で4倍にする」という提案が示された。利用者がこの25年で6割以上減少する区間もある中、利用者を増やす秘策はあるのか。赤字ローカル線をめぐる動きに注目だ。

“乗客激減”の路線を5年で4倍に


JR西日本は、「鉄道ありきではない」地域の公共交通のあり方を見直すよう訴えてきた一方、沿線自治体をはじめとする地域は「存続」を前提とした協議を求めてきた。


今後も人口減少などが予想される中で、利用者を4倍にするための秘策はあるのだろうか。

2022年12月7日、山陰線の今後を考える検討会が開かれ、沿線自治体やJRが参加した。検討会が打ち出したのは、鉄道の存続を前提とした「利用の促進」だった。

「山陰線ワーキングチーム検討報告書」と書かれた資料にとりまとめられた、対策について考えたい。


主な利用促進策は以下の通りだ。


・ICカードや新型車両の導入の検討
・駅周辺の駐車場や駐輪場の整備
・学生や通勤定期の購入補助
・駅周辺のスポット発信やキッチンカーなどのイベント企画
・列車やバスの体験乗車


定期券の購入補助や駐車場の整備に関しては、すでに兵庫県香美町などが実施していて目新しいものではない。地域全体で足並みをそろえることを改めて確認したといったところだ。

検討会が目標とするのは、利用者が少ない路線としてJR西日本が示した、1日に平均何人利用したかを示す「輸送密度」2000人という基準を5年後までに達成することだ。

令和2年の輸送密度506人と比べると、およそ4倍。JRからは「今までと同じことをしていては2000人には戻せない」と厳しい声があがった。


山陰線は「観光客目線」に力を入れることを選んだ

山陰線の利用促進策は、「沿線に住む住民」よりも「観光客」を意識した内容が多かった。城崎温泉やカニ漁、余部鉄橋など観光資源に恵まれた環境を活かし、観光利用を基盤に日常利用を増やすという方針を打ち出した。インバウンドや大阪・関西万博も見据えた観光需要を、再起のカギとした。

 一方、地域住民の利用についてはどうだろうか。検討会は「住民調査を行う」としたが、提示された資料には「利用促進につながる意見の開示」「日常での積極的な列車利用」などと書かれ、住民のニーズを問うのではなく、住民に鉄道利用の意識づけを求める内容だった。


2022年10月、JR西日本に取材した際、兵庫支社・國弘正治支社長は「赤字だから公表したのではなく、あくまで”大量輸送ができる公共交通”として鉄道が力を発揮できていない状況を見直したい」と話していた。JRにとっての課題は路線そのものについての見直しだ。

一方、沿線自治体など地域の意見は、路線維持が前提となるものが根強いようだ。地元の自治体などが参加した検討会が打ち出した提案にも、「鉄道を維持することが最もよい選択なのか」を地域に問う内容がなかった。JRの意図と自治体などとの間に認識のズレが生じているのではないか。


その「ズレ」は、検討会が打ち出した利用促進策の資料にも現れた。「現状認識」と書かれた欄には「(鉄道の)運行頻度に難があり、列車を積極的に選択する要因に乏しい」とあった。

自治体や観光事業者からも「本数を増やせば観光客がふえる」とJRの増便を求める発言が相次いだ。それに対しJR側は「利用に難があるから運行頻度に難がある」と指摘。

鉄道の存続前提で街づくりを進めたい地元と、ニーズを踏まえた上で運行を見直したいJRとの間で共通理解が得られないまま議論は進んでいった。


「交通連合」が赤字ローカル線の未来を変えるか

しかしながら、検討会終了後、JRの國弘支社長は結果を驚くほど前向きに受け止めていた。

その理由は、兵庫県養父市の広瀬栄市長(議会のため、まち整備部・柳川武部次長が代理出席)が、地域での公共交通会社の設立を想定した「交通連合」を作るべきという意見を出したからだ。


広瀬市長は「沿線自治体が法人格レベルで規約を持った組織を作り、自治体が同列に事業運営に関与できる方向で検討してほしい」とした。検討会のリーダーを務める豊岡市・関貫市長は「詳細は決まっていない」とした一方、「鉄道やバスなどの運送会社や自治体に加えて、利用者の立場にも(交通連合に)加わってもらいたい」と話した。


 専門家は「交通連合があるだけでは意味がない」と指摘

交通経済研究所の遠藤俊太郎主任研究員によると、「交通連合」は公共交通をバラバラではなく1つのサービスとして運営や調整する組織を指す。ドイツをはじめ欧州では多く導入されているという。

共通運賃の導入や路線やダイヤの調整などを行い、赤字の事業者に過度な負担を強いることを避けつつ、地域のニーズに応じた公共交通のサービスを維持することが可能になる。


日本では熊本市や群馬県前橋市で赤字に苦しむ路線バス会社どうしが「共同経営」する例があるものの、自治体も関与する法人格を有する形では事例がないという。

理由としては、2020年の独占禁止法の改正まで「交通連合」が実現できなかったことや、利害関係の調整と合意が難しいことなどが挙げられる。さらに遠藤研究員は「経営を事業者に任せきっていたことが大きな要因」と指摘。「連合体があるだけでは今と変わらずないが、事業者と地域が一体となることで公共交通の利便性が向上すれば、赤字ローカル線にとってはメリットとなるだろう」と見解を示した。


 赤字ローカル線をめぐる今年の動きに注目

 JRの國弘支社長は12月7日、関西テレビの取材に対して「交通連合のアイデアは、ローカル線の危機感を共有し、ふさわしい交通について議論を深めようとした素晴らしい内容」と話した。

既視感のある利用促進策が並ぶ中で、「交通連合」は根本的な鉄道の在り方を見直す議論のきっかけの1つにはなるだろう。


検討会がとりまとめた利用促進策は、兵庫県が今年2月ごろまでに他のローカル線の対策とあわせて集約し、県や市町村、JRなどで予算を計上し進めていく方針だ。

 “路線の数だけ答えがある”赤字ローカル線の行く末に注目したい。


(関西テレビ報道センター 鈴村菜央)

(FNNプライムオンライン1月14日掲載。元記事はこちら

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