管理者を悩ます「勤務シフト」の作成時間を“量子コンピューター”で大幅短縮…100人1カ月分なら10分程度で計算!?開発した日立に聞いた

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個々の休みの希望を反映したり、不公平感が出ないようにしたりと、シフト制の職場での管理者のシフト作成は手間のかかる作業だ。

こうした中、日立製作所は、複雑な条件に対応した勤務シフトを量子コンピューターで最適化する「勤務シフト最適化ソリューション」を開発した。次世代の超高速計算機として期待されている量子コンピューターの技術を活用したものだ。

「勤務シフト最適化ソリューション」の画面イメージ(出典:日立製作所)
「勤務シフト最適化ソリューション」の画面イメージ(出典:日立製作所)

「勤務シフト」作りは簡単ではなく、実は4人×5日分の20マスを「勤務」か「休日」か決めるだけでも、その組合せは2の20乗で約100万通りを超えるという。

当然、現実の勤務は更に複雑になり、これまで担当者が様々な条件を考慮しながら膨大な時間と労力をかけて勤務シフトを作成していただろう。

シフト作成の概要(出典:日立製作所)
シフト作成の概要(出典:日立製作所)

日立製作所が昨年7月に実施した業務実証では、「勤務シフト最適化ソリューション」でコンタクトセンターのスタッフ約100人の勤務シフト1カ月分を自動作成した。

これまで熟練の管理者でも11時間以上かかっていたところを、最終調整も含めて約5時間で作業が完了。そのうち手作業などを省いたコンピューターによる計算時間は、数分~十分程度だったという。実用化については2023年度以降を目指している。

ちなみに、一般的な勤務シフト作成ツールでは、勤務希望・スキル要件などの勤務条件を満たすことができないため人手による修正が必要になり、結果として20時間かかってしまったそうだ。さらに勤務時間に偏りが出たため、不公平感からスタッフの理解が得られなかったという。

普通のPCのWebブラウザで使用可能

なぜ量子コンピューターの技術で勤務シフトを作成しようと考えたのか?そして、なぜ今までのコンピューターでは出来ないのか?

日立製作所の担当者に聞いた。

――「勤務シフト最適化ソリューション」の開発のきっかけは?

「勤務シフト最適化ソリューション」で使われる「CMOSアニーリング」は2015年に初版を開発しており、そのころからどのようなユースケースを開拓するか模索を続けてきました。CMOSアニーリングの基礎能力が向上したのもあり、2019年ごろより研究部門だけでなくシステムエンジニアも加わって様々な分野でお客様を巻き込みながらユースケース開拓を活発化させました。そうして開拓したものの1つが勤務シフト最適化です。

(出典:日立製作所)
(出典:日立製作所)

実際にソリューションとして開発する判断をした理由は大きく2点あります。まず1点目は、実際にコールセンター数カ所で行った実証実験で、「人手で作成した従来の勤務シフトと比較して、余剰配置の発生を約80%削減する」など、十分な有効性を確認できたこと。そして2点目は、勤務シフトの最適化に対するニーズはさまざまな業界に共通的に存在していることです。


――勤務シフトの作成は、なぜ従来のコンピューターでは難しい?

CMOSアニーリングの優位点は、計算時間の速さと消費電力の少なさです。例えば「100人×20日×8時間/日」に4種類の担当業務を振り分けると、組み合わせは4の(100×20×8)乗になります。

こういった天文学的な組み合わせ数と複雑なルールを考慮した計算は、非常に時間がかかり実運用に乗らないなどの理由から従来のコンピュータでは困難でした。


――「勤務シフト最適化ソリューション」を使うのに、特別な機械などは必要?

ユーザーが専用機を用意する必要はありません。本ソリューションはクラウド上でWebサービスとして提供されるので、ユーザーは一般PC、Webブラウザから簡単に使うことができます。

“ヒトが頭で考えなくても一番良い選択ができる未来”

――実証実験で利用した人からの反響は?

実際にシフト作成をする管理者様からは使い勝手について高い評価を頂いています。一般的な勤務シフト作成ツールは、勤務条件を十分に満たすことができず結局人手による修正が発生するのに対し、本ソリューションでは特定スタッフの勤務時間帯に偏りが出るのを抑制するなど、緻密な条件に対応でき現場で実際に使えるものになったと評価頂いています。また実際に作成したシフトで勤務したスタッフにアンケートを取ったところ、9割以上のスタッフが肯定的な回答となりました。


――「CMOSアニーリング」は、他にどんな分野での活用が考えられている?

金融分野ではポートフォリオ最適化(※編集部注:保険・株・外貨などの資産保有比率をリスクやリターンを考慮して決定する仕組み)があります。

また金融分野以外でも移動ルートを最適化し渋滞を解消する、工場における生産計画の最適化、物流・配送計画の最適化、倉庫における在庫数・補充数・配置の最適化、倉庫における品出し(ピッキング)最適化等、幅広く活用できるものです。


――「勤務シフト最適化ソリューション」が本格実用されると社会はどう変わる?

“社会の変化”という大きな流れの話なので勤務シフト以外も含めて回答させて頂きます。学校の時間割や倉庫内の在庫の配置など、組合せ最適化問題は、実は身の回りにあふれています。将来、車が自動運転になれば、CMOSアニーリングの計算結果通りに車を動かすことができるようになるかもしれません。

すると、ますます最適化の効果が大きくなるはずです。そうやって、さまざまな物事を最適化することで、“ヒトが頭で考えなくても一番良い選択ができる未来”に近づいていくと考えています。

未来のコンピュータのイメージ
未来のコンピュータのイメージ

今回の取材への回答とは別に、同社の金融第一システム事業部・新規ビジネス推進部の担当者からこんなコメントが寄せられた。

「最適化から話は逸れますが現在国内のデータ関連ビジネスはGAFAを代表とする海外企業に大きく水をあけられていると感じます。CMOSアニーリングを用いた最適化はデータの収集、解析が必要となって来るため、この事業の先にデータ関連ビジネスの将来、日本の巻き返しがあると思って活動しています」

課題解消だけでなく、世界に負けない日本を見据えた取り組みに今後も注目していきたい。

(FNNプライムオンライン1月16日掲載。元記事はこちら

https://www.fnn.jp/

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