障がいのある子どもを高齢の親が自宅で介護「老障介護」の現実 親なき後の受入れ場所が必要【広島発】

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障がいのある子どもを自宅で介護する親は、誰しも、自分たちがいなくなった後、子どもを受け入れてくれる場所はあるのか?という不安を抱えている。国は「地域で自立した生活ができるように」と理念を掲げるが、実際には親なき後に、障がい者を受け入れる施設の不足が問題になっている。

重度の障がいのある娘を74歳両親が自宅で「老障介護」

林田亜紀さん48歳。 重度の身体障がいがあり、歩くときは支えが必要。


毎日、楽しみにしているのは大好きなコーヒーゼリー。しかし、亜紀さんは重い知的障がいもあり、話すことができない。


父 林田勝美さん(74):
ありがとう

父 林田勝美さん(右)
父 林田勝美さん(右)

父の勝美さん、ささいな仕草から娘の気持ちを読み取る。
林田勝美さん:
何を持ってくる?おやつ?おやつ食べる?


勝美さんの幸せ。それは…話せなくても心を通わせることができること。


林田勝美さん:
言葉が通じないから、こうしてコミュニケーションしている。お父さん、亜紀ちゃん一緒に


亜紀さんにとって両親は、自分の意思が通じる唯一の存在。
発育が遅かった亜紀さん。心配した両親が病院に連れて行き、障がいがあることがわかった。両親は娘を健常者の子どもと同じように育て、旅行に何度も連れて行った。


林田勝美さん:
私らが子どものときは、親が障がいのある子を隠していた。私らはそういうことはしない。障がいがあっても、一般の子どもと一緒に外に出す。見る人がいても気にしない。障がいの子、こんなに可愛いのに


勝美さんの思いは今も変わっていない。
林田勝美さん:
いつも家ばっかりだから、外で景色のいいところがあったら、そういう所を見せたい。私が散歩に行って、景色がいいところをあっちゃんも一緒に見てもらいたい


娘の介護のために老いと向き合いながらも自分の体力を維持

勝美さんが今心配しているのは、自分たちが老いていくという、決して避けられない厳しい現実。今は勝美さんが、ほとんど全ての家事を一人で行っている。


勝美さんが家事をしている間、体を休める妻の絹子さん。これまで夫婦で亜紀さんを介助していたが、絹子さんは2022年から思うように体が動かなくなった。


林田勝美さん:
私らは今年で75歳になるからあと10年。10年後は85歳ですから、あと何年、娘を見られるか

林田絹子さん、勝美さん夫妻
林田絹子さん、勝美さん夫妻

老いていく現実に少しでも抗いたい。亜紀さんのために…介助できる体を懸命に維持する。


林田勝美さん:
元気でずっと、娘を見届けるまでは、しっかり歩かないと、面倒見られませんから


両親が昼間、亜紀さんを通わせているデイサービス。障がい者の身体機能を高めるため、歩行訓練を行っている。
両親が亡くなった後も続いていく亜紀さんの人生。
しかし、障がいのある人が入所できる施設は全国的にも足りないといわれている


国は「障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で豊かに暮らしていける社会を目指す『ノーマライゼーション』の理念に基づき、障がいのある人が、施設だけで生活するのではなく、地域で自立することを目指す」というが、障がいのタイプは、知的、精神、身体などさまざまで、介助があれば自立できるかどうかも人それぞれだ。


林田勝美さん:
最終的には施設にお願いしたいが、施設に入れるかどうか

林田勝美さん
林田勝美さん

母 林田絹子さん:
施設に入れれば安心できるけど、入れなかったら死ねない

母 林田絹子さん(左)
母 林田絹子さん(左)

親なき後の受け入れ施設は絶対的に不足

自分たちがいなくなった後のことを考え勝美さんは施設へ見学に。
白木の郷・有田光司相談員:
こちらがお風呂の機械になります

施設の入浴設備
施設の入浴設備

そこには充実した設備が整っていた。
白木の郷・有田光司相談員:
こちらが個室になっています


このような施設にどうして入れないのか。勝美さんは不安を募らせる。
林田勝美さん:
親が年をとってきて、面倒みられない子が増えてくる。困った親は、どこの施設に行ったらいいか分からない。どこも、いっぱいと言われているから


白木の郷・有田光司相談員:
今すぐ入りたいという状況で、施設を探している家族は全国的に多い。事業所の全体的な数が、障がいの分野は少ない。新しい施設を増やすことが必要になってくる


この施設も常に50人ほどが入所を待っているという。入所者が亡くなるか、または病状が悪化して他の施設に移動して空きが出ない限り、施設に長期で入ることは基本的にできない。


介護人材を増やし、障がいある人の受け入れ体制の拡充が急務

白木の郷・有田光司相談員:
施設を運営していくとなると、どうしても働き手が必要で、介護の人材不足が課題になる。介護という仕事に興味を持っていただく機会を今後作っていくことも必要になってくる


林田勝美さん:
私の寿命もありますから、今年75歳になりますから、長期の入所ができるように手続きだけは終わらせようと思う


高齢者が障がいのある子を介護する「老障介護」と呼ばれる現実。その数がどのくらいに上るのか国はまだ実態調査を行っていない。

実際に自宅で親が介護している障がいのある人を、親が亡くなったあと、受け入れる施設は不足しており、社会から「取り残されかねない」のが実態だ。


「障害のある人もない人も、互いに支え合う」という国の方針に基づき、親なき後の障がいのある人の生活を支える体制を社会、地域全体で整えることが急務になっている。

(テレビ新広島)

(FNNプライムオンライン3月7日掲載。元記事はこちら

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