子どもに「あれ?」と違和感を抱いたらどこに助けを求めるべき?専門医に聞く児童精神科の診察の流れ

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学校に行きたがらない。食が細くなってしまって、ご飯を食べなくなった。

子どもが悩みを抱えているように見えたとき、少しでも彼らの手助けになるようにと児童精神科の受診を考える家族も多いかもしれない。

ただ、初めて児童精神科を受診する場合、どのような手順が踏まれるのか気になるところだ。

シリーズ累計150万部超の大ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』の著者であり、最新作『普通にできない子を医療で助ける マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち5』(扶桑社)を発売したばかりの児童精神科医・宮口幸治先生に、児童精神科での具体的な診察の流れを聞いた。

まず、子どもの心を診察の対象をする場合、小児科か児童精神科と迷うことがあるだろう。

小児科医は発達外来といった枠で主に心身面も含めたアプローチを行う。一方、児童精神科医は思春期や成人といった将来も見据えて精神医学面からアプローチする。

小児科の方が受診はしやすいが、思春期に向かうにつれて小児科では継続した対応が困難なケースもあるため、最初から児童精神科を選ぶこともあるという。

最初に行われるのは保護者からの聞き取り

児童精神科外来に訪れた際、まずはどのような手順が踏まれるのか。宮口先生はこう解説する。

「医療機関にもよってまちまちですが、概して最初に行われるのは、保護者からの成育歴の聞き取りや本人の心理検査など。その問診や検査結果を総合して、診察が行われます」

児童精神科外来ではまずは保護者の聞き取りから(画像:イメージ)
児童精神科外来ではまずは保護者の聞き取りから(画像:イメージ)

なかでも、欠かせないのが保護者からの聞き取りとなる。

「家族構成や家族歴、本人の既往歴に加えて、家族や親せきで同じような症状で受診した人がいないかを尋ねます。また兄弟姉妹がいる場合は、同じような症状はないかを一通り確認します。

はじめてのお子さんの場合、親御さんもほかの兄弟姉妹との違いを比較できず、発達の遅れに気づきにくいこともありますので、違和感を抱いたら、『子どもはこういうモノだ』と受け止めてしまわず、何でも担当医に聞いてみましょう」

母子手帳も子どもの現状を把握する手がかりに

保護者に本人の成育歴を聞く場合は、最近の様子だけではなく、その子が生まれたときの様子から丁寧に聞いていくのだとか。

「『お子さんが何週で生まれたか』『出産時には問題はなかったか』『出産時の体重はどうだったか』など、出産した際の様子を伺っていきます。『そんな細かいことは覚えてないかも』と心配する必要はありません。

母子手帳を持ってきてもらえれば、細かい状態は手帳に書かれています。なお、母子手帳からは、定期乳幼児健診時の様子や予防接種の状況、成長のスピードなど、ほかにもさまざまな事柄がわかります」

心理検査で子どもの生きづらさに気づく

保護者からの養育歴の聞き取り後、たとえば小学生の場合は、WISC(ウィスク)と呼ばれる心理検査が実施されることがあります。

「WISCは、ディヴィッド・ウェクスラーという心理学者が考えた知能検査のひとつで、10種類の基本検査からできています。その結果をもとに、4つの指標得点と全検査IQ(FSIQ)を算出します(WISC-IVの場合。現在は最新版のWISC-Vがある)。

WISC-IVの4つの指標得点は、わかりやすく説明すると、『言葉の理解力(言語理解・VIC)』『見て判断する力(知覚指標・PRI)』『記憶力(ワーキングメモリ・WMI)』『処理するスピード(処理速度・PSI)』というものです。そのほか、必要であれば性格検査なども行うことがあります」

この全検査IQが85以上であれば概して正常域の知能指数と見なされるが、70~84の場合は、正常域と知的障害の間に位置する「境界知能」に相当する。

子どもには知能検査や心理検査などを行い総合的に診断する(画像:イメージ)
子どもには知能検査や心理検査などを行い総合的に診断する(画像:イメージ)

「またWISCの4つの指標を見ることで、子どもの能力のバラつきを見ることができます。あとは、『見本と同じ絵を描かせる』『絵を見せてどう見えるかを答えさせる』など、必要に応じて心理検査を追加していきます」

こうした検査が行われたあとに、いよいよ本人への詳しい診察を実施。これらの総合的な結果を保護者に伝えるという流れになるのだという。

「クリニックによって多少の違いはあるものの、多くの児童精神科外来ではこうした対応が取られるはずです。心理検査は、その子どもがどんな状態に置かれているかを客観的に知る重要なツールの一つです。

なお、受診の際は、全国に約720名(令和4年12月時点)いるとされる子どもの心についての専門医である『子どものこころ専門医』がいる医療機関を選ばれるとよいかもしれません」

知らないから不安になる。こうした情報を知っておくだけで、児童精神科へのハードルはグッと低くなるはずだ。

『普通にできない子を医療で助ける マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち5』(扶桑社)宮口幸治著・佐々木昭后作画
『普通にできない子を医療で助ける マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち5』(扶桑社)宮口幸治著・佐々木昭后作画

宮口幸治
立命館大学教授。(一社)日本COG-TR学会代表理事。京都大学工学部を卒業後、建設コンサルタント会社に勤務。その後、神戸大学医学部を卒業し、児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務。医学博士、臨床心理士。2016年より現職。著書に2020年度の新書部門ベストセラーとなった『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)などがある。

 











『マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)宮口幸治著・佐々木昭后作画
『マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)宮口幸治著・佐々木昭后作画

(FNNプライムオンライン3月10日掲載。元記事はこちら

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